妄想カルテット
「それはね……えーっと……」
ごまかさないと。
「貴族令嬢は刺繍をたしなむといいのは本当なんですね!」
「家紋をハンカチなどの小物に指して、家族にお渡しするのでしょう?」
あ。そんな風習あったわね。
確かに、双子の妹に頼まれて刺繍もしていた。王太子殿下に渡すためなんだから、手を抜いたら許さないわよ!って言われたけど、人に頼むという最大の手抜きをしているのは妹だったよね。
妹はどうしてるのかな。
私がいなくなったら刺繍は自分でするのだろうか?それとも誰か別の人に頼むとか?急に刺し方が変わったと見る人が見たらばれちゃうじゃないかな?
だって、私、ちゃんと家庭教師もいなかったから見よう見まねの独学で刺繍してたから……。
前世の記憶が戻ると、チェーンステッチとかクロスステッチとか普通に使ってたけど……無意識に前世の記憶が手を動かしてたのかな。
たぶんこの世界ブランケットステッチやサテンステッチやフレンチノットくらいしかないと思う。まぁ、いいか。
「アルフレッド様にも贈るのでしょうか?」
「え?……え、えっと……」
そうか!
家族に刺繍した小物を送るということは、そういうことだよ!夫であるアルフレッド様に何も贈らないのも変?
いや、でも愛さないと言われてるしなぁ。
とはいえ、私は相撲取り系筋肉を愛でていこうと決めたからなぁ。
……。頭の中には、力士が土俵入りの時に使用している化粧まわしが浮かんだ。
立派な刺繍がしてあるあれ。
うん、きっとあの体系なら似合う。
ん。なんか力士の筋肉も素敵に思えてきた私としては、どうしてもっと相撲中継とか見なかったのか後悔しかない。これじゃあ、立派な化粧回しが作れない。
どんなデザインがあったんだろう?虎?龍?富士とか?
どれも捨てがたいな。……でも、この世界ではだめなのでは?龍の代わりにドラゴン?虎の代わりに……?
魔物のこと知らなさすぎだなぁ。って、違う違う、魔物の刺繍は喜ばれる?逆にだめなのでは?あれ?
だめだ、全然わからないぞ。
「何を刺繍したらいいのか、分からなくて。アルフレッド様は何がお好きなのかしら?」
分からなければ聞けばいいかなと。
「アルフレッド様は……えーっと」
使用人たちは顔を見合わせて動きを止めてしまった。
「そ、そうですわ!カイなら知っているんじゃないでしょうか?」
「あと、そう、騎士団長がご存じかもしれません!」
「ギルドで聞き取りをしたほうが分かるかも!」
あ、そうだった。そうだった。
いくら私が愛でようと思っていても、恋路の邪魔になってはいけない。
そうか、カイと騎士団長とギルドっていうのはギルド長のレッドのことかな?いろいろ複雑な恋愛模様が。……妄想だけど。
え?元ギルド長のガルダ様?妄想に入れるわけないでしょうが!恐れおおくも筋肉神様なるぞ!ふんすっ!
と、いうわけで。
何もアルフレッド様のことに関して私に話ができなかった使用人たちが申し訳なさそうな顔をしているのを見ながら微笑む。




