アルフレッド視点の続き
いや。まさかな。
俺は公爵領の者たちを捨てて王都に行くようなことはしない。
いや。事実は今はどうでもいい。
純粋に戦力が強化されるのはありがたい。
スタンピードで失うものは少ないほうがいいのだから。
「そういえば、奥様は他にも何か言いかけていたような……」
水属性の騎士が首を傾げた。
「それはなんだ?何を言っていたんだ?」
団長が騎士に強い口調で問う。
「アドバイスを初めてすぐだったかなぁ?」
「ああ、そう、足だ、足元がどうのと」
ぽんっと副団長が手を打った。
「なるほど、石鏃で致命傷を与えることは難しいから、足を狙えと言うことか?」
その言葉に、団長が首を傾げた。
「そんな初歩的な話をわざわざするだろうか?」
確かに初歩だな。剣だろうが弓だろうが槍だろうが、強敵相手に一撃で倒せない場合に狙う場所がある。
顔、それから手足だ。武器を持つ手、移動手段の足。
……しかし、初歩的な話をするわけがないと団長に言わせる公爵夫人っておかしくないか?
貴族令嬢が魔物討伐のエキスパートであるはずがないというのに。
「奥様に確認していただけませんか?」
副団長の言葉にうっと言葉を飲み込む。
「あ、いや、その……そ、その場にいなかった俺が聞くもの変じゃないか?」
アルフレッドじゃなくて、この場に居合わせたのはレッドだからなぁ。
なら、レッドとして尋ねればいいのか?
いやいや、ギルド長が公爵夫人に会いに行くのはおかしいだろう。
ギルドにアリスが来たときに……いや、アリスは冒険者であって、さっきの公爵夫人ではないということになっているわけで……。
うーっ。
「あの、水属性の訓練をしているのを見て何かを言おうとしてくれてました」
頭を抱えていると、騎士の一人が声をあげた。
「そのあと、少し考えたあとに土属性の者はいないかと尋ねられて」
別の騎士も思い出しながら言葉を続ける。
「なるほど、水属性と土属性か……」
そこで、副団長が目に強い光を宿した。
「リリアリス様は侍女に水魔法での戦い方を教えていました。ということは、もしかすると……侍女のように普段魔物と戦わない者たちに身を護る方法を教えようとしているのでは?」
「どういうことだ?」
騎士団長が副団長に問いただす。
ギルドの地下の入口にたくさんの剣が置いてあることを知り、アリスは驚いていたと聞いたのを思い出す。
もしかしたら、スタンピードが近いかもしれないという話から、自分たちでも身を守れるようにと最大限のことをと魔法の活用方法を考えてくれたのかもしれない。
侍女でも戦える……火属性以外でも戦える方法を。
もし、そうであれば、王都から戦力増強させるために嫁に来たのではないのか?
そういえば、マーサからも屋敷の鉄格子が魔物の侵入を防ぐためのものだと知って驚いていた様子だと報告されている。
何も知らせられずにクーデターを起こそうというものの手足として来るなんてことはあるだろうか?
リリアリスは……本当に、純粋に領民を助けたい一心で?
はっと心臓を打たれる。
俺は、どうして少しでもリリアリスのことを疑ってしまったのか。
こちらの領地に来る間に魔物に襲われて馬車ごと谷底に落ちて運ばれてきたリリアリスの白い顔。
ワーウルフロードから街を守るために魔力が尽きるまで無理して倒れたリリアリスの白い顔。
あれが俺をだますための演技なわけがない。
俺がすべきことは、リリアリスを疑うことじゃない。二度と、リリアリスをあんな目に合わせないことだ。
一日も早く……リリアリスには王都に帰ってもらうのが一番なのだろう。
魔法の新しい活用法が知りたいと、周りは引き止めるかもしれない。
……そうだ。
手紙でやり取りをしたらどうだろう?手紙で教えてもらえるようにお願いするのだ。
それなら、周りも納得するのではないか?
リリアリスに手紙を書こう。
……何を書いたらいいんだ?
アルフレッドからの手紙の過去……思い出せ、やらかしてるぞ?
そしてレッドとして出したら筆跡でバレるぞ?
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