勘違いが加速する
口元を何かで覆ったほうがいいかもしれないなという意見が出た。もしくはあらかじめ解毒剤を飲むというのもありなのではないかとの意見も出た。
毒の種類の選定、調達。魔物ごとにどの毒物が有効かなど、急いで確かめる必要があることも団長と書き出す。ギルドへの必要な依頼内容の確認。それからギルドの水属性の者たちへ緊急勉強会もしたほうがいいかもしれない。
実戦に使うために急速に訓練が進む。
スタンピードまでに戦力の増強ができればこれほどありがたいことはない。
と、思っていたら、今度は土魔法!
「【石鏃】」
木の的から10mほど離れた土属性の騎士が聞きなれない呪文を唱える。
すると、ひゅんっという音の後にどすっと、矢が木に刺さったような音がした。
木には石が穴をあけ刺さっている。
「石鏃というのは、石の矢じりか……」
的の木に近づいて見ると、木にはたくさんの石の矢じりが刺さっていた。
地面にもたくさん落ちている。
一つを拾い上げる。
矢じりだな。矢の先に括り付けて使うやつだ。
「はい、そうなんです。リリアリス様が、石も土と同じだろうとおっしゃって」
「土と石が同じ?」
石属性の騎士が目を輝かせてうなづく。
「はい。岩を砕けば石になる。石を砕けば砂になる……と。大きさが違うだけで元は同じだと。だから、石も出せるはずだと教えてくださいました!」
……!まさかと思うが、実際に土属性の者がこうして石を出せるのだから、間違いではなかったのだろう。
「目つぶしで砂を飛ばすように、石を飛ばせることが分かったのです」
別の石属性の者が口を開いた。
「さらに、ただの石ではなく石鏃にしたら攻撃力が上がるのではないかとリリアリス様が教えてくださいました!」
……リリアリス……いったい何者だ?
いや、アリスか。
冒険者ギルドに顔を出すくらいだ。ただの侯爵令嬢ではないのだろう。
どうして、これほどまでに魔法による攻撃方法を知っているんだ?
知っていることを、なぜ惜しげもなく教えてくれるのだ?
王都でも一部の人間しか知らない秘匿されている情報じゃないのか?攻撃力が上がれば、魔物討伐のために役に立つのは事実だ。だが、もし、戦争……国と国が争うようなことになれば、攻撃力が上がるような情報は敵になりうる相手には知られたくないものじゃないのか?
例えば、王弟の俺が戦力を持てば……。
陛下にとれば脅威となるだろう。……いや、まさか、それが狙いか?
俺がクーデターを起こすことを望む者がいて、リリアリスを通じて戦力強化を図らせている?
リリアリスは……誰かに協力させられてここに嫁がされて来たのか?
それとも、自ら進んでクーデターを起そうとしている者たちに協力をしているのか?
そうじゃ、そうじゃない……んだ




