うん、そっか、そっか、そうだよね
「取り出して、この布の上に置いてちょうだい」
折りたたんだ布の上に石を載せてもらい、やけどしないように気を付けながら布で石を包む。
ほどけちゃうといけないから、ひもで縛るか、もしくはこの状態で入れてしっかり口が縛れる巾着袋なんかがあるといいかもしれない。
「ほら、これよ。寒い時に体を温めるの」
しっかり包み込んだ石……温石を一つマーサに手渡す。
「これは……!暖かいですね!確かに冬の寒い時期にはとても役に立ちそうです」
3つの石から3つの温石を作った。もう一つを料理長が手に取る。
「なるほど、熱く熱せられたフライパンの取っ手も布を巻いて触ることができるのと同じで、熱した石も布でくるめばやけどはしないのですね。そして、ほんのりとぬくもりが伝わる」
「僕にも触らせてください……ああ、本当だ暖かい。これ、いいですね!寒くなったらかまどで調理中に石をちょいと入れておけばいいんだから」
ワイワイと人が集まって温石に釘付けになっている。
「マーサ、避難所の地下は火があたらず寒いでしょう。これを……温石を避難した皆が使えるように揃えましょう。布に巻いただけでは何かの拍子に布がほどけてしまうと危険だから巾着か何かを作って包んだ石を入れられるようにして」
うんとマーサがうなづいた。
「石も形や大きさがなるべくそろうように集めさせます。それから手の空いている者に巾着を作らせます。ボロボロになった布でも数を揃えます」
マーサって何気に有能よね。必要なことを考えてさっと私に確認するとすぐに動き出すんだから。
そう、マーサは、調理場からいなくなった。
しめしめ。
「で、料理長、これはどうするの?」
ワーウルフの肉を指さす。
「焼きます」
「へー、シンプルに食べるんだ。焼くだけでおいしいの?」
いいお肉は焼くだけでおいしい。いや、いいお肉じゃなくても、塩ふって焼くだけの焼き鳥とかうんまいよね。
期待のまなざしを向けると、料理長が首を振った。
「いえ、とてもリリアリス様のお口に入れるような味ではありません。臭くてかたくて筋張っていて……」
もうマーサはいないので、誰も助けてくれないよ、料理長。私は食べる。
焼くだけか。料理長が言っていたじゃないか。通常は食べないと。
おいしくないのは想像できたじゃないか。おいしければ多少命の危険を冒したって食べようとする人がいるだろうし、王都にもゲテモノ料理として多少は流通していたはずだ。おいしくない、それが答えだ。
だが、日本人。
ほぼ味がないのにコンニャクも食べるし。
腐った豆はに臭いもすごいし糸までひいちゃってるけど、食べるし。納豆っていうんですけどね。
クサヤっていうとにかく臭いが名前になっちゃうものも、食べるし。
「ちょっと少しでいいから焼いてみてくれる?」
料理長が涙目になりながらワーウルフの肉を少しそいで焼き始めた。
……そうか。食糧が足りない時やこうして襲われて討伐した時に魔物の肉を食べるのだとしたら、丁寧に料理なんてできる状態ではないのだろう。だから焼くだけ。
そりゃそうか。飢えをしのぐために何でもいい、必死になっているときに赤ワイン煮なんて作れるわけがない。
「焼けました」
料理長がせめてもの抵抗だろうか。
立派な皿に銀のフォークを添えて1枚の肉をくるりと端を巻き、ミントの葉を飾って出してくれた。
「いただきます」
パクリ。
……うん、臭い。
肉、臭いな。臭いわ。想像以上に臭い。
いやぁ、臭いって言ったら、臭い。