日本人だもの……ね?
「あの、リリアリス様……魔物を食べるなど、不浄だとか野蛮だとか……悪魔の所業だとか……そう感じるかもしれませんが……」
料理長が青い顔をした。
「リリアリス様、仕方がないこともあるのです。アルフレッド様がいらっしゃる前はもっとこの領地は荒れていて……作物もろくに育たず家畜は魔物に襲われ……食べるものに事欠く日々が続いて……」
ああ、そういうことか。
普通は忌避される物だから、魔物の肉は食べない。日本人が犬や猫を食べないみたいな感じ?それとは違うか。犬や猫も、国が違えば食べるところもあるんだよね……信じられない!って思うけど。いるかやクジラを食べることを信じられないと思う人たちもいるわけだし。……って、ちょっとたとえが違うか。
タコが悪魔だと言われて不気味で、まさか食べるなんて!に近いのかな?
それとも、コンニャクイモは食べられない!に近いのかな?
まぁ、とにかくだ……。
日本人なめちゃいかんよ。
毒がなきゃ、食べるよ。
いや、むしろ1匹で30人は死ぬような猛毒があるフグだって、毒がない部分を毒を取り除いて食べる。時々失敗して死ぬ人間がいてもだ。
しかも、驚くことなかれ。その猛毒の部位であるフグの卵巣。半年塩漬けにしたのち3年味噌に漬け込み、菌で毒を分解させて食べる……。三年半の時間を費やして解毒してまで、なぜ、猛毒を食べようと思った!っていうか、よく発見したな、食べ方!……っていう。
そんな魂の持ち主よ。DNHに刻まれ……てはないか。転生だからな。
まぁ、とにかく魔物だから何?
食べられるんでしょ?
「ねぇ、どんな味?食べてみたいわ。どう料理するの?」
わくわくと目を輝かせて料理長を見る。
「……は?えっと、これは魔物の肉……ですが?」
「ええ、食べたことがないので、どんな肉なのか知らないの」
あれだけ伯爵家ではひどい扱いを受けていたにもかかわらず、魔物肉を食えと出されたことはない。
ということは、魔物の肉って王都では全く流通してなかったってことだよね。
めちゃくちゃ忌避されてたか、単に魔物がいなかったからなのか、それとも……。
「……あの、リリアリス様……魔物の肉を食べる者は、人ではないと仰らないのですか?」
んー。
「そういえば、魔物と動物って何が違うの?ああ、もちろん表面的な違いは知っているわ。人を襲うものが魔物。魔物は魔法的力がある。魔法が使えない魔物も身体強化など何かしらの魔法を使っていて、魔力を宿している……っていうのでしょう?魔力を持つか持たないかで魔物と動物って区別されてるってことはよ、人だって魔力がない人がいるでしょう?でも人よね?ってことは魔物も魔力がある動物ってことじゃない?」
っていうか、前世で魔物を食べる系の創作物はたくさんあった。どんな味かなって想像しながら見てたけど。
それを実食するチャンス到来。
いやぁ、転生ってすごいですね。
「はぁ……」
料理長が困ったように視線をマーサに向けた。
マーサは、ああと大きな声を出すと視線をかまどに向けた
「リリアリス様、石はまだ大丈夫でしょうか?」
そうだった!石、石!




