終着2
「だから、1日でも早く離婚して、王都に返してやろうと……それくらいしかしてあげられなくて……」
は?
「アルフレッド様と離婚したって、私は王都に帰らないわよ?どうせアルフレッド様は私の顔なんて知らないんだから、屋敷で仕事させてもらうか、それが無理なら街で住み込みの仕事を見つけるか、冒険者として稼げるようになったら部屋を借りるかして」
レッドが手を前に突き出した。
「待て待て待て待て、ちょっと待て、王都に帰りたくないのか?」
……言わないで置こうと思ったけど、レッドならいいか。
部屋には、私とレッドしかいない。
「他の人には秘密にしてほしいんだけど」
レッドが頷いた。
「アシュラーン公爵領って、流刑地って呼ばれてるでしょ?」
「ああ、それは皆が知ってる」
「ぶっちゃけ、アルフレッド様だって……その意外の公爵様たちだって、邪魔だからここに追いやられてくるわけでしょ?」
ここで暮らしている人達には失礼な話だ。
「そう、だな、その通りだ。理由は様々だが、王位争いが起きないように、愚かな行いをして廃嫡した王子の行き場に……」
レッドの言葉に、続ける。
「ろくに魔法も使えない無能だから、私はここに嫁がされたのよ」
「は?どこが無能だ?」
レッドが驚いた顔をする。
それだけで、私の気持ちは救われるんだって分かってるかな。
「私は、光属性だわ」
「知ってる、だが、とても素晴らし……」
何かを言おうとしてレッドが口を閉じた。
「ああ、そうだ、そうだった……。確かに、流刑地と呼ばれるこの場所でも……。光属性だというだけで」
「ギルドに登録するとき、光属性だと知ったら、皆が可哀そうな子を見るような目をしたわ」
レッドがバツの悪そうな顔をした。
「すまない」
首を横に振る。
「ううん、素敵な人たちだわ。可哀そうだと思う人なんて侯爵家にはいなかった。皆、馬鹿にして見下した目を向けてきたから。家族だけでなく、使用人たちにも。だから、マーサが優しくしてくれてとても嬉しかった」
レッドが小刻みに震える手で、私の頬に流れた涙をぬぐった。
「虐げられていたのか?なぜ、言わなかった……」
「言えるわけないよ。侯爵家では使用人以下の扱いをされていた光属性の役立たず絶たずで、ドレス一つ持たされず、ろくに護衛もつけられず、まるでゴミを捨てるようにアシュラーン公爵領に嫁がされたなんて……」
いろいろな思いがこみ上げてきて、また涙が落ちる。
悔しい……それは私が虐げられたことじゃない。アシュラーン公爵領の皆を馬鹿にするようなことをされた悔しさだ。
「まさか、崖下で他の馬車や人が見つからなかったのは……」
「荷物はもともとなかったから見つかるはずないわ。人も御者しかもともといなかったでしょうし」
レッドの表情が見る見る鬼のようになった。
「まさか、馬の制御ができず、馬車が崖下に転落しそうになったときに、御者は自分だけ逃げだしたのか?」
そうかもしれないし、もしかしたら魔物の餌食になったのかもしれない。
「だが、そのあと御者は助けを求めにも来てない!のろしを上げるなり方法を知らないはずがないのに」
ああ、そうなのか。
なら……。まさかそこまでとは思っていたけれど……。
わざと、馬車を転落させた……。皇太子妃となる妹が光属性の姉を虐げていたと噂が立たないように、邪魔な私を……。
ああ、きっと、前世の記憶が戻っていなければ、それでけでリリアリスは絶望して自ら命を絶ってしまったかもしれない。
光属性だから仕方がないと。それでも侯爵家に置いてもらえるのは、家族として認められているんだと。
本当なら光属性の子供は捨てられるのを、捨てずに侯爵家で過ごさせてもらえるのは、愛されているからだと……何とか理由を考えて過ごしていた。そんなわけあるかい!と、前世の記憶が戻ったらはっきりわかったけど。
まさか、アシュラーン公爵に嫁がせるたのは遠くに追いやるためだけでなく、あわよくば始末しようと思っていたなんて。
流石に、ないわ。そんな腹黒い女が未来の王妃とか……本当に、ないわ。