終着1
私のつぶやきに、部屋を出て行こうとしていたアルフレッド様が振り返った。
マントがひらめいて、隠されていた後姿が見える。
あ、あの、ズボンの上から見えるお尻とふともも……!
ベッドから立ち上がり、マントをめくる。
我ながら、ちょっとどうかと思うけど、でも確かめずにはいられない。
だって、この筋肉のつき方……。
上半身のぷくぷくからは似つかわしくなくて、それで、このお尻の形は……。
「レッド、レッドよね」
なんで、どうして?
相撲取りみたいなと思ったけど、剣術か何かすると下半身は相撲取りとは違った筋肉の発達の仕方をするの?
と、首を傾げると、アルフレッド様が叫んだ。
「うわ、マジか!顔もかくして口に詰め物してお腹にも腕にもこれでもかと詰め物したのに……」
は?
首を傾げる私の前で、アルフレッド様が、仮面を外し、口の中に詰めていたものを取り出す。
「レ、レ、レッド!なんで、レッドが!」
と叫んで、口を押える。
リリアリスがギルド長のこと知ってたらおかしいよね!
「アリスお前、よく俺だって分かったな?」
アリスと呼ばれた、あれ?
私、リリアリスの格好して……って、別に変装らしい変装もしてないからバレバレなのか?
だって、さっきまで寝てたからすっぴん。アリスんときと同じ顔。
で、リリアリスとしてレッドは扱っていたから……。
「っていうか、レッド、アリスが公爵夫人だって、知ってたの?」
「あー、そりゃ、当たり前だろ」
そうか。
アルフレッド様との交流もあるわけだし、ギルド長が領主の嫁の顔も知らないわけないか……。
っていうか……。
「知りながら、俺の嫁とか言ってたわけ?」
「いや、知ってたから、俺の嫁って言ったんだが?」
ん?意味が分からない。
「あのさぁ、アルフレッド様のふりをするために、ギルドでもそんなこと言ってたの?」
「あ?アルフレッド様のふり?」
レッドが首を傾げた。
「いったい、いつからレッドは、こうしてアルフレッド様のふりを頼まれてたの?」
レッドが驚いた顔をする。
「俺が、頼まれて公爵に化けてるって思ってるのか?」
ふぅと小さくため息をつく。
「……ごめんね、なんか二人の計画をボロボロにして。まさか貴族令嬢だった私が冒険者ギルドに足を運ぶなんて思ってなかったんでしょ?」
私の言葉に、レッドがちょっと視線を逸らす。
「巻き込んでごめんね……レッド。……あのね、聞いてるかもしれないけど、私……」
ベッドから降りて、立ち上がる。
「アルフレッド様に嫌われているの。顔も見せたくないくらいだから、嫌われているというか、もしかしたら無理やり結婚させられて憎まれているのかもしれない……」
王命で突然知らない女と結婚しろなんて言われたら、そりゃ嫌に決まっている。
しかも……ギルドに行くような女、ますます嫌われたって仕方がない……。
「好きだっ」
レッドが叫んだ。
「え?」
「アリスのことを憎むはずない、逆だ。憎んでいるだろう?アリスは……王都で侯爵令嬢として何不自由なく暮らしていたというのに、突然こんな……流刑地と呼ばれる、何もないどころか生きていくことすら大変な土地に嫁がされて」
はい?
何不自由なく暮らしてなんかないけど?