夫を想像
「いえ、アルフレッド様がお倒れになったのは、この10年はありません。とても健康で、リリアリス様は雨に打たれて熱を出したというのに、同じように雨に打たれたアルフレッド様はピンピンしていますし」
ん?
「私、熱があったの?」
「はい。魔力切れで倒れたとしても、一晩寝れば意識は戻るはずなのですが、熱があったためリリアリス様は3日も目を覚まさなくて……。よかったです。目を覚まされて……。」
またマーサの目に涙があふれている。
もしかして、顔を覆って泣いてしまったのは、私が目が覚めてほっとしたから?
マーサ……。
「心配……させてごめんなさい」
心配してくれて嬉しい。
マーサがやつれているのは私を心配してくれたからなんだ。私を、看病してくれたからなんだ。
私、看病してもらったんだ。
光属性だと分かった8歳から8年間。具合が悪くて寝込むと、看病してもらえるどころか罵声を浴びせられた。仕事をさぼるのかと。
前世も、誰にも看病されることのない独身喪女生活が長かった。会社に休みの電話を入れればため息をつかれたっけ。いかにも迷惑だと言わんばかりに。
「看病してれて、ありがとう」
「何をおっしゃいます!当たり前のことです!これが私の仕事ですから!さぁ、飲むものと何か食べるものを持ってきますね!」
マーサは立ち上がって部屋を出ていった。
仕事?
うん、仕事ではやつれるまで看病なんてしないよね。他に使用人がいないわけじゃないもん。かわるがわる見れば済むんだし。
「ありがとう、マーサ……」
額に載せられた濡れタオルに触れる。
「ふふ、頭を冷やしても熱は下がらないって現代日本では言われてるけれど……」
無駄なことなんて思わない。濡れタオルを載せられていることって、こんなにうれしいんだ……。
「とはいえ、太い血管がある場所を冷やすといいって話もあるし、最近ではそれよりも手のひらと足の裏を冷やすと効果的って話もあるんだよねぇ……」
熱中症で体温が上がった人がいたら、手のひらと足の裏を冷やすように教えたほうがいいかな?
濡れタオルを取り、上半身を起こしてベッドサイドのテーブルに置かれた桶にタオルを入れる。
テーブルには口が長く細くなった水差しもあった。
「3日間寝てた間に少しずつ水分取らせてくれたのかな……」
意識なかったもんなぁ。それとも覚えてないけど時々もうろうと起きて水分だけ取ってたのかな?
それにしても。誰も死ななくて本当に良かった。カイも無事だっていうし。
レッドたちは無事だろうか?怪我人って誰がどれくらいの怪我をしたのだろう。
マーサの口ぶりだと、アルフレッド様は無事みたいよね。
私と違って熱も出さずぴんぴんしてるって言ってたし。
あれ?それって、暗に私は弱いと言われたのかな?病弱だと思われた?
それとも、夫のアルフレッド様って騎士団長も強いみたいなこと言ってたよね?大会で優勝するとか。
すごく鍛えてて人並以上に健康体?
すごく鍛えているとすれば……。
にやり。
「うまっ!」
筋肉夫の妻なんて愛されなくても幸せすぎんか?うますぎる立場だよ!
そう、筋肉は人を愛するためのものではない。筋肉は、愛でられるためのものなのだ!
くふふ、くふふ。夫よ、私を愛することはないだろうが、私が愛でてやろうぞ!思う存分愛でられるがいい!くっくっく。
とはいえ、まぁ、会う機会があるかは知らないけど。