ギルド長視点3
公爵夫人となったリリアリスの世話係にマーサの娘のサラもついたというのを知っている伝令はすでに走り出しており、振り返ってうなづきを見せて走っていった。
空を見上げる。
「まだ、壁を突破されてはいないようだが、いつ街に魔物が現れるかわからない。油断せずに街を走り抜けるぞ!ワーウルフの群れが相手だが、雨だ。火魔法は使うな。弓隊は風魔法属性持ちと壁の上から弓を放て。北西側にいるワーウルフからねらえ。ワーウルフロードを見つけたらそちらを優先しろ。他の者は矢が当たらないよう南西側からワーウルフを討伐していく。街への侵入を防ぐために第一から第三隊は出入り口を守れ」
てきぱきとソウが指示を飛ばしていく。
強力な火魔法で次々と魔物を倒していく俺……。
役立たずだ。
冒険者の指揮はガルダのほうが上。騎士団の指揮はソウがいる。
俺は……。
ぐっと、こぶしを握り締める。
ザーッと雨が強くなってきた。
ピカリと稲光が光る。
ゴロゴロごろと、耳が痛くなるほどの音が鳴り響いた。
街を走っていると伝令に走っていった男の姿が見えた。
「アルフレッド様、リリアリス様とカイは、西に……ワーウルフの出た場所に行ったそうです」
その報告に、頭が白くなった。
「なんだって?どうして!」
「ワーウルフの群れが20と伝えられ、それほど危険がないと手伝いに……」
なんてことだ。
きっと【火光】魔法で牽制させる手伝いに行ったんだろう。光属性で火光が使える者……子供達には行かせられないと手を挙げたに違いない。
アリスは、そういう優しい女性だ。
くそっ。
無事でいてくれ。
アリスに何があったら、俺は……俺は……!
「大丈夫。きっと奥様はお助けいたします。彼女はアシュラーン領にとって必要な女性です」
一緒に報告を聞いていたソウが俺の肩をたたく。
西側の壁が見えてきた。
あと少し、あと少しだ。アリス!
無事でいてくれ!
その時、再び空が光った。
稲光……と、思った瞬間さらに光る。
「こんなことが?」
ぴかぴかと、連続で何度も光る空。
「ほら、奥様は大丈夫ですよ。これは奥様の魔法でしょう」
ソウが俺の顔を見てうなづいた。
「まだお伝えしておりませんでしたが、奥様が光属性の騎士団に光魔法の一つを見せてくれたんです」
え?アリスが?
火光のことか?
「閃光弾というもので」
閃光弾?
「リリアリス様から学んだ光属性のジョンに、見事に負けましたよ。模擬試合でね」
「ソウ……が?負けた?嘘だろう?ソウを倒せる実力のある騎士がいたというのか?」
驚きの声を上げると、ソウが笑った。
「次は負けませんよ。閃光弾は、強い光で視力を奪うものです。視界を突然奪われたすきに攻撃をされました」
「ああ、暗いところから明るいところへ出るとまぶしくて何も見えないが、あんな感じか?」
「いや、あれよりも……まともに太陽を見てしまった時の目の前が真っ白になるような……っと、続きは後で。実際に経験されればわかります」
会話をしながら走り続け、西の壁に近づいた。
【日光】を目の前に出すのか?いや、まるで雷のように空を明るくするような【日光】など可能なのか?
……しかし、目つぶしに光魔法を使うのか。
魔物相手にも有効ならば……。
【火光】による魔物除け、【LED】による緊急連絡手段、それに続いて……閃光弾による魔物を倒す補助ができるのであれば……。
「……アリス……」
光属性が無能だなどと、誰が言い出したのか。
魔物を討伐するためにどれほど役に立つことか。