ギルド長視点2
スタンピードの可能性を考えて、冒険者のほとんどに加えて騎士をこちらに向けたのは俺の判断ミスだった。
もう少し戦力を領都に残しておかなければならなかったんだ。
俺は……。
先ほどガルダに押された背中に、ガルダの体温が残っているように感じる。
俺は、本当にギルド長にふさわしいのか?ガルダ……。
頭をぶんぶんと横に振る。ガルダがいてくれる。俺をギルド長に据えたあとも、ガルダは変わらずギルドに。
俺が成長するのを見守ってくれているんだ。
それに、俺の判断が間違っていれば、ガルダなら……いや、騎士団長のソウだってちゃんと教えてくれるはずだ。
俺が来てからスタンピードを経験したことがない。だから、もしかしたらスタンピードの前兆かもという言葉に、過剰の可能性があろうと騎士を動かしたのも間違いじゃないんだろう。
だが……。
「アルフレッド様」
騎士団長の言葉に、意識を戻す。
いつの間にか騎士団長が俺の横を並走していた。
「あれを」
言われて空を見上げると、光の紙による暗号に変化があった。
「警戒レベルが5……だと?」
先ほど警戒レベルが3だったはずだ。それが4に上がっていれば街にワーウルフの侵入でも許したのかと思うところだが、いきなり5?
「警戒レベルが5?アルフレッド様どういうことですか?」
そうか。騎士団長にはまだ伝えていない。
ギルドで使えるか検証したあとに騎士団に伝えるつもりだったからな。ただ、空に浮かんだ光に意味があるのだろうとソウは変化を教えてくれたのだろう。
走りながらポケットから紙を取り出す。
「狼煙のようなものだ。光が消えた場所と照らし合わせて使う」
手渡された紙に視線を落とし、ソウが息をのむ。
「これは、すごい……。狼煙でも煙に色を付けるとか、煙を出す間隔だとかでいくらかは情報を伝えることができますが……」
そう。狼煙でもいくらかの情報は伝えることは可能だ。
だが、そもそも狼煙を上げることが困難な場合もある。雨もそうだ。それから交戦中に火を燃やすことも困難。さらには木々が生い茂った場所では煙が思うように上がっていかないこともある。燃やすものを集められないこともあるし、火事の心配も出てくる。
狼煙を上げられたとしても、伝えられる情報はこの暗号の半分どころか10分の1あるかどうかだろう。
「光属性魔法に、こんな使い方があったなんて……」
ごくりと今度はソウが唾を飲み込んだ。
街を取り囲む壁が見えた。
「周りに魔物は?」
「確認できません」
「では、壁沿いではなく街を突っ切って西側に向かう!」
ソウがすぐに判断して指示を出す。
「急げ!」
ソウが声を張り上げて騎士たちに活をいれた。
「!」
そして、無情にも雨が降り出す。
さらに、追い打ちをかけるように絶望的な情報が光によって伝えられる。
「ワーウルフロードがいる、ワーウルフの数は増え、200。まだ増えている」
警戒レベルが5である理由に背筋が冷たくなった。
口に出した瞬間、それを聞いていた者たちの表情が引き締まった。
いいや、引き締まったというよりは「何かを覚悟した」。
そう、犠牲者が出るかもしれないということを覚悟したのだ。
「街に入ったら伝令走れ。女子供、戦えない者は地下室に。男たちは剣を取り避難を助けよ」
「了解しました!」
伝令役を務める風属性魔法の男が声を返す。
追い風では風に背中を押されて速く走れるように、風を使ってスピードを上げることができる。
「ギルドにいったらカイに全力でアリス……リリアリスを守れと伝えてくれ。サラは光魔法が使える。必要なら手伝ってもらってくれ」