光魔法の出番っ!
サラが屋敷から戻ってきてすぐのことだ。
「なぁ、火光が使えるやつはいるか?」
倉庫に駆け込むなり、冒険者の男が口を開いた。
中堅冒険者といったところか。
「僕使えるよ!」
「私も!」
元気に子供が手を挙げた。
「全員使えま……」
全員使えると言おうとして、今日新しく2人の子が合流したんだった。
「頼む。子供に頼むことではないかもしれないが、安全は確保する、協力してくれ」
真剣な顔で頭を下げる冒険者。
ただ事ではない。
「何を手伝えばいいの?」
声を上げた子供を手で制する。
「この子たちは私の依頼を遂行中です。私が代表で話を聞きます」
子供に頼むことではない?
安全は確保する?
それは、本来は大人がすることで、しかも何らかの危険があるっていうことだよね?
まさか、光属性だからって、使い捨てのような扱いをするつもりじゃないよね?
侯爵家での出来事を思い出す。「お前のような役立たずも、少しは役に立つんだありがたく思え!」と、突き飛ばされたこと。
死ぬことはなかった。少し痛い思いをしただけ。
子供たちが不安そうな顔を見せる。
「サラ、あの二人に火光を教えてあげて。それから、皆はちゃんと覚えて使えるか練習してみて。魔力を使いすぎないようにね」
私の言葉に、皆がうなづいたのを確認して、冒険者と一緒に上に行く。
「火光魔法が使える子供たちに何をさせたいのですか?」
まずいことが起きている。
上に上がってすぐに肌で感じた。
スタンピードの予兆がと言っていたけれど、スタンピードが起きた?
「あなた、何を勝手に!」
冒険者と私が話をしているのを見て、受付のお姉さんが慌てて近づいてきた。
「俺たちだけではもう無理だ!魔力が尽きる。火魔法の変わりに、火光魔法がなるってワックが言っていたのを聞いた」
火魔法の変わり?
「あの、明かりが必要なんですか?火魔法よりももっと明るくすることはできますよ?」
「いや、必要なのは火光だ。すべてではないが魔物は火を怖がる。だから、火魔法で魔物を牽制しているが……」
え?
「もしかして、魔物除けになるってこと?」
確かに、獣も火を怖がるんだっけ。森の中で焚火をして、火を絶やさないようにするのは危険な獣を近づけさせないためっていう描写を本で読んだことがある。
まさかの魔物も火を怖がるとは!
まぁ、確かにスライムとか火に飛び込んだら蒸発して死んじゃいそうだけど……。
「だからと言って……」
「応援を頼む!西側に魔物が押し寄せてきた」
駆け込んできた冒険者の言葉に、受付のお姉さんが青ざめる。
「数は?」
「ワーウルフが20ほどだ。だが、様子がおかしい。まだ増えるかもしれない」
駆け込んできた冒険者の言葉に、火光魔法が必要だと言った男が受付嬢に訴えた。
「ワーウルフなら火には近づかない。火球で追い払うか、警戒させればC級冒険者2人いれば対処できる」
受付嬢がうなる。
「ああ、どうしたら。ギルド長も元ギルド長も北のゴブリンの巣に向かってしまったというのにっ!……騎士団も冒険者のほとんどがあちらに向かってしまっているし……」
そうか。指示を仰ごうにも、上の者がいない状況なのか。
……ならば。
ごくりと唾を飲み込む。
「光魔法に関しては私が指揮を執ります」
私は公爵夫人だ。もし、何を勝手なことをしたと言われてもクビになるようなこともないだろう。まぁ、どうせ3年後に公爵夫人はクビ予定なのだから。ちょっと早まるだけの話だ。