チキンだ
「ワックさんが……体を鍛えるだけじゃだめだ、これからは光魔法ももっと使えるようにならないとって言うようになったんだ」
「お前たちはまだ魔力を増やすことができるだろうから俺よりすごい冒険者になれるぞって、ワックさんが」
ワックさんって誰?
光魔法を使う人ってことは確かよね?
はっ!
「あなたたち、ちょっと腕を見せてちょうだい!」
むきっと。中学生くらいなのに、腕の筋肉が、かなり鍛えられている。その割に下半身が心もとないため……。
チキンレッグ……。
上半身だけ鍛えてあって、下半身が鍛えられていない人のことをそういうことを思い出した。
もしかしたら、ワックさんって、あの上半身がすごいあの人のことなのでは?光属性だったはずだし。
それはそうとして……。
「上半身ばかり鍛えてもだめよ?むしろ、下半身を鍛えれば剣だけでなくどんな武器を使うにも有効なはずだからね?」
二人が目を輝かせて私を見た。
「はいっ、ワックさんもそう言っていました。足りなかったのは下半身の鍛え方だったと」
「光魔法を自在に使いこなし、下半身を鍛えればもっと上のランクに上がれそうだって」
「俺たちも、がんばれば高ランクの冒険者になれるぞって」
目がキラキラだ。
光属性だからと、いろいろなことをあきらめているような顔には見えない。
これは、もう、私の出番じゃないかな。
うん。
「さぁ、しっかり食べなさい!立派な筋肉をつけるには、タンパク質が必要なのよ!鳥の胸肉と卵の白身を使ってあるからね!これを食べて、訓練すればいい筋肉がつくわよ!」
素直に頷く二人の少年。
頑張って、よい筋肉付けてもらうわよ!
「みんなもどんどん食べてね!」
倉庫に置いてあった箱を机替わりにしてバスケットから出したサンドイッチとチキンナゲットを広げる。
「この、茶色い丸っこいの何?」
チキンナゲットだよ。
って、そうか!料理長は作ってる段階見てるから「何」とは思わないんだ。
この世界には揚げ物ないし、肉をミンチにして加工する料理法もないし、見た目じゃ「何?」ってなるか。
「鶏肉で作った食べ物よ」
「肉か!パンを焼くのに失敗したのかと思った」
茶色い感じがまぁ、パンに似てるといえば似てる?いや、似てないよね。
「う、うま……」
「本当に鶏肉なの?全然私が知っているお肉と違うわ」
「うん。ふわふわ柔らかい。ぱさぱさしてないし中にもしっかり味がある」
「そとがパリッとしてて噛むのが楽しい」
「それに、それに、とにかくおいしいっ!」
グルメレポーターになりそこないの子供まで皆かわいいな!
おいしそうに食べている皆を見ながら、私はこっそりとつぶやく。
「チキンナゲットを食べるチキンレッグ」
ぷふっ。ぷふふっ。
なんて、馬鹿なことを考えている間に、事態はとんでもないことになっていた。