もどかしい
平和ボケって言われても仕方がない。きっと、何度となく同じようなことがあって、的確かつ迅速に行動できるのは、訓練で身についたものじゃないのだろう。指示された部下たちも、動きに迷いがない。
騎士団長が身に着けている鎧だって、言われなくても部下が運んできたし。
今までも幾度となくゴブリンの巣もつぶしてきたんだろう。
魔物が……日常な土地。
ダンジョンがあって、魔物がダンジョンの中にいるだけなら、あふれ出ないようにするだけですむのに。
この世界は、魔物はダンジョンじゃなく森に山に、もしかすると海にも……。生活しているだけで、いつ魔物に襲われるかわからないってことだ。ダンジョンに出るだけなら、ダンジョンに行かなければいい。
流刑地と呼ばれる公爵領。魔物が多いというのは話には聞いていた。知識として知っているのと、本当に肌に感じて分かっているのとでは全く別物なんだ。
屋敷の中……街の中は守られているから。すぐに忘れかけてしまう。
小さく鉄格子のはまった窓の建物。ギルドの倉庫に用意された大量の剣。王都の顔だけ騎士とは違い、鍛えられた筋肉を持つ騎士たち。
あの筋肉は魔物を倒すために鍛えられたものだ。光属性の騎士を馬鹿にしていた騎士たちですら、王都の騎士に比べれば筋肉がついていた。攻撃魔法が使える者たちも、剣を振る必要もあるのだろう。王都とは違う。いや、王都の騎士は小さいころにパレードで見たくらいだし、前世の記憶が戻る前だからそれほどはっきり覚えていないけど。推せるような筋肉はしてなかったと思う。服の上からも分かる厚い胸板とは対極の、服の上からも分かる折れそうな体だった気がする。
訓練所からは本当に数分で誰もいなくなった。討伐の準備が整ったようだ。
城門前に集合と言っていた。整列した姿も見たいと思ったけれど、邪魔するわけにはいかない。
「魔物……」
私には魔物を倒すのは無理だ。でも、何かできないだろうか。
妹ユメリアの姿が思い浮かぶ。
妹なら……。戦えないけれど、負傷した人たちを癒すことができるのに。聖属性だったら……回復魔法が使えたら。
「あおーんっ!」
奇声を上げ、ビシビシと太ももを強めに叩く。
時々押し寄せる、どうせ私なんかって気持ちは邪魔だ。考えたって、属性が変わるわけじゃない。
でも。でもよ……。
マーサも、サラも、カイもいい人だし。屋敷の使用人も侯爵家の人たちのように私に辛く当たるわけじゃない。
ギルドの人たちもいい人たちばかりだ。子供たちも本当にいい子で。
だからこそ、何かしてあげたい、何かしてあげられたら……何もできない自分がもどかしい……そんな気持ちが湧いてくる。
「できることを、全力でするっ!落ち込んでたって何も変わらない!今は、今私がすることは……」
まずは邪魔しないこと。邪魔にならないこと。
公爵様……アルフレッド様や騎士団がいるんだ。大丈夫。
んー、あ、そうだ!