嫁入りか死か
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馬車が谷底に転落した。
死ぬ前に走馬燈が見えると言うけれど……。
0歳、双子の姉として侯爵家に生まれた。
3歳、あふれ出る魔力に両親が歓喜。将来有望だとかわいがられる。
8歳、全ての子が受ける魔力属性検査を受けて、光属性だと分かる。
「ああ!なんてことだ!我が侯爵家からこんなできそこないが生まれるなんて!」
両親が手の平返し。部屋を追い出されて屋根裏部屋行き。使用人以下の生活が始まる。
15歳、聖属性の妹が社交界デビューし、第一王子に見初められる。
16歳、縁談を決めたとドレスを着せられ馬車に押し込められる。
40歳 独身喪女オタク一人寂しく死亡。
って、待って、事故に遭った拍子に「前世」まで走馬燈しちゃってますよ!
っていうか「前世」の走馬燈が1行って!いやいや、いやいや、まぁイベントごとのない人生だったけど!結婚とか、出産とか、ない人生だったけど!けども!1行って!
あー、あー!それにしてもどう考えてもここって魔法があるし異世界。前世の記憶を思い出しちゃったよ!
って、どうしてこのタイミング?
侯爵令嬢リリアリスである私は、辺境にある公爵領へと護衛もつけられず嫁入り馬車移動中、崖から転落。
つぶれた馬車から体が半分出た状態。
あちこち痛くて、もう死んじゃう!
なんか目もかすんでどんどん見えなくなってくるし、頭の中でどくどくと変な音が聞こえる。
体中痛いはずなのに何が痛いのかもわからないくらい感覚がおかしい。
こんな、時に、日本人だったときの前世を思い出しても……、死んじゃうって!虫の息よ!
うううっ、目はかすんでよく見えなくなってるというのに、走馬灯ははっきりしてる。映像で見えるんだ。
8歳の走馬灯。魔法属性検査を受けた直後辺りだろうか。
「役立たずの光属性」
「攻撃魔法も使えない、ただ明るくするだけなんて恥ずかしい!」
「魔力が多いから期待していれば、これか!それに比べお前の妹は数少ない聖属性の持ち主。聖女への道は約束されたようなものだ」
「成人するまでは置いてやる。ダダ飯を食わせる気はないからな、働け!」
8歳までかわいがられていたため、急に態度が冷たくなった両親に何度もお母様、お父様と泣いてすがった。
そのたびに殴り倒される。
いやいや、虐待だろ!児童相談所に電話案件だぞ!と、思わず記憶に突っ込みを入れる。
「ああ、お姉さまかわいそうに。私が、回復魔法で治してあげるわ。私はお姉さまの役立たずな光魔法とは違うから」
怪我をすれば妹のユメリアが回復魔法で癒してくれた。
役立たずっていう一言が余分だけどな!放置しなくてありがとうございまぁーす。
ああ、光魔法しか使えない役立たずの私は、このまま死んでしまった方が嫁ぎ先の公爵様にも迷惑をかけずに済むわ……。っていうリリアリスの気持ちが湧き上がってくる。
いや、違うって!40歳まで生きた前世の記憶が16歳の青い気持ちを否定する。
死んだ方がいいわけないじゃのよ!
死んだらおしまいなんだって。人生楽しいこといっぱいあるんだよ!推し活とか、推し活とか、推し活とか!
なおも走馬燈らしき思い出が続く。
前世の幸せな走馬灯……は一瞬で終わった。いやぁ、走馬灯便利だな。幸せな推し活追体験できて得したわ。無限ループいける!
と思ってたら再び今世の走馬灯始まった。
「おお、さすがユメリアだ。すごいぞ」
「練習すればするほど力が強くなると言うからな。怪我をした者はどんどんユメリアに治してもらえ!」
怪我も病も治してくれる双子の妹のユメリアは使用人の人気者になった。
「あんたが唯一役に立てるのは、ユメリア様の魔法の練習台になることくらいなんだから!」
「そうそう、ほら、治してもらってきな」
ユメリアのためと……。使用人はカップを投げつけ、わざと針を仕込んだ洗濯物を洗わせ、私を階段から突き落とし、毎日のように私に怪我をさせた。
「ろくな魔法も使えないばかりでなく、ろくに仕事もできないのか。このクズが」
お父様が割れたカップや血まみれになった洗濯物や階段の下でひっくり返ったバケツを見るたびに私を罵った。
「まぁお姉さま、かわいそうに。痛いでしょう。私が治してあげるわ。ほら、こんな小さな傷なんて一瞬よ」
使用人の質が悪すぎない?待遇悪くていい人が雇えなかったんじゃないの?侯爵家ともあろう家が……。嫌われてんじゃない?ぷっ。ださっ!
それからやっと走馬灯は、リリアリスの出発前のことまで進んだ。
16歳の誕生日を迎えてすぐのことだ。
「よかったわねぇ、公爵家へ嫁げるなんて」
第一王子……皇太子の婚約者となったユメリアが笑っていた。
まぁ、一見公爵夫人になるのだから、侯爵令嬢からすればさらに高位貴族に嫁ぐのでいいことなのだろう……けど。
公爵領は辺境にある。面積はそれなりに広いが魔物が出る森と接していて危険が多い。
さらには気候が悪いため作物が育てにくい土地で、貧しい。
危険が多く貧しい土地……はっきり言ってハズレ領地だ。
そこがなぜ公爵家の領地なのかといえば、邪魔な王族の流刑地として使われているためだ。
私が嫁ぐのは、現陛下の親子ほど年の離れた異母弟。
側室の子で、皇太子争いから遠ざける目的で13歳で流刑され、現在20歳。
ろくに教育も受けさせてもらえなかったため、社交界デビューさえさせてもらえていないという……。
一応王族の血を引くため貴族と結婚させなければならないものの、手を上げる貴族は皆無。
そりゃ陛下の覚えの悪い家とつながりを持てば出世にも響くものね。
「ねぇ、知ってる?お姉さまに話が回ってきたのはね、他の人たちが魔物が多く貧乏な領地になど、大切な娘をやれませんと断ったからなのよ?」
妹ユメリアの楽しそうに笑った顔を最後に走馬灯が終わる。