7 妖精!!……じゃないのね。
アルベルト……いや、アル兄様襲来から数週間がたった。
あの後も4日と開けずアル兄様は「離れ」へとやって来る。はじめはビクビクしていたけど、最近ではもう馴れた。
あと、来るときに毎回食べ物を持ってきてくれる。
お菓子だったり、日持ちする食べ物だったり。とくに日持ちする食べ物はご飯のない日だってあるから素直にとても嬉しい。
お菓子に関しては、これまでの人生でも見たことがないものばかりで、なぜこんなものが手に入るのかと不安になった。
アル兄様に聞いてみたところ「これはいつも、母上のお菓子セットから取ってくるんだ」と、さらっと恐ろしいことを口にした。……死んでも私が食べているということは口にしないでおこう。
お母様は今、様々な地方のお菓子を買い詰めるのがマイブームらしく、情報を聞き次第買い漁っているのだとか。
そんなことができるのも、やっぱり公爵家ほどの財産と人脈があるからなのだと感心させられる。
……お母様のお菓子だったってことは知らなかったことにしよう……。
そうそう、何日か前にある兄様から
「イリスは今は食べて遊んで寝るのが仕事だよ! 部屋で本を読んでいるのもいいけど少しは外に出ないと」
と、言われた。
そのために今私は外にいる。たしかにね、部屋にこもってばかりだと体にも良くないっていうのは分かってるよ。でも外に出たいかって言われたらそうじゃないのね。心配かけるわけにはいかないし、自分が体力なさすぎっていうのもわかっているから外には出るけどね。
この庭は本館とは少し離れたところにあって、私のいる「離れ」からしか来ることができない。
よくよく考えてみるとこれが庭と呼べるのかは怪しいが、裏には鬱蒼としているが森もあって自然がいっぱいである。逆に言うと自然はいっぱいあるが、それ以外にはなにもないところだ。
さて、外に出たはいいものの何をすればいいのか……。実際遊ぶような道具もなければ友達もいない。
………………とりあえず森にでも入ってみるか……。
◇◇◇
……初めて入ってみた。なんで4回も人生生きてきて入ってこなかったんだろう。ていうか森、こんなんだったっけ? もっとこじんまりしていた気もしなくはないけど……。まいっか。
おお、放置されているだけあって木々や草は伸び放題だ。でも、動物たちはそんなところを気に入っているのかありえないほど沢山いる。私は好かれているのか、動物達が私を人間だと認識していないのか、はたまた人間という存在を知らないのかは分からないけど私がどれだけ近づいても逃げようとはしない。
小さい森だと思っていたけど、迷わないか心配になるくらい広かった。ぐるりと一周するだけでも今の私の足では数時間はかかるんじゃないかな。
しっかし色んなものがあるなー。なんか見たことない動物もいるし。
ゆっくり見て回っていると他の木々よりも一回り大きい木を見つけた。たぶん大人5人くらいでやっと取り囲めるサイズだ。
そこで私は信じられないと、自分の目を疑った。
ぱっと見は小さい子供。ほんとに小さい。私の両手にすっぽりと収まってしまう位の大きさだ。だからこんな大きさの子供は存在しない。まずそこからおかしいんだけど、
……羽が生えている……。
そんな不思議な子たちが3人で木の下を飛び回っていた。
これは…………!!!!
つい先日、本で見た「妖精」というものではないのか……!?
やばい、鼻血出る。
ほんとにこんな子達が存在したなんて……。
現在テンションはMAXでございます。
本当にこんな子達が存在していたなんて……! (2回目)
私が目をキラキラさせていると、妖精(仮)さんたちが近づいてきた。
『こんにちは~』
『君は誰〜?』
『知らない子ー。名前なんて言うのー?』
『こういうのはね! 自分から自己紹介しなきゃいけないんだよ!』
思わず自分の名前を言おうとしたときに、3人の中のひとり、レモン色のツインテールの子が他の二人に注意しながら自己紹介を始めた。
『こんにちは! 私はリーっていうの。こっちの青色がライで緑色がカイナ。あなたは誰?』
かわいいなー。
私も自己紹介しなければ。
「こんにちは。私はイリス。あなた達はこの森に住んでいるの?」
そう訊ねると今度は青い短髪の子、ライが答えてくれた。
『よろしくね~、イリス。僕達はこの森に住んでる訳じゃないよ〜。今日は遊びに来てたんだ〜。イリスって人間でしょ? 僕達精霊っていうんだよ〜。僕達人間と話したの初めて〜』
あ、妖精じゃなかったのね。妖精と精霊の違いってなんだろう。分かんないから今はいいや。
あれ? 精霊って人間の前には姿を見せないんじゃなかったっけ? というか見えるものなんだ……。
…………まあいっか。
「よろしくね、精霊さんたち。あなた達は今何をしていたの?」
すると今度は緑色の髪を左右でふわっとお下げにしたカイナが答えてくれた。
『遊んでました〜。イリスも一緒に遊びましょ!』
こうして私は3人に引っ張られながら森の奥へと入っていった。