67 発の感覚“頭痛”
意識が戻り、ひどく重たくなった瞼を無理やり開ける。今の状況が掴めず、ひとまず何が起こっているのかを思い出す。
馬車から降りて、景色を見た瞬間に頭が痛くなって……。どうして頭が痛くなったんだっけ。えっと……確か知らない情景が頭に流れ込んできて……。
あまりにも分からない事だらけで再び頭痛を感じ始めた。
ひとまず、ここはどこなのだろうか。自分がベッドに寝ていることはわかる。しかしベッドの周りには真っ白いカーテンに覆われていて、周りを確認することができない。まだ痛む頭を抑えながら、とりあえずカーテンを開いた。
どうやらここは保健室のような場所らしい。広い部屋には私が寝ているベッドの他にも数台設置されており、どのベッドの周りのもカーテンが閉められるようになっている。どこも開いていると言うことは今使用しているのはどうやら私だけのようだ。
目覚めた事を誰かに知らせようとベッドから立ちあがろうとしたときだ。少し遠くにあった扉が開き、ブラウンの髪が目に入った。
「!イリス、良かった。目が覚めたんだ」
「……どうしてレオがここにいるの?」
つい気になって尋ねてしまった。レオがこの合宿に来るのは知っていたが、それにしてもどうして保健医の先生ではなくレオがここにいるのだろうか。
「先生から見に行ってくれと頼まれたんだよ。無茶をする生徒が多くてどうやら人手が足りていないようだ。そんなことより、イリス。体調はどう?」
確かに毎年みんな、特に召喚に成功していない人たちは無茶をするから、常に先生達、特に保健医の先生は生徒のそばにいた記憶はある。それにしても、保健室のような存在を初めて知った。こんなところあったんだ。
「少し頭痛がするだけで体調は大丈夫。私がその、倒れてからどれくらいの時間が経ってるの?」
丸一日とか立っていたらどうしよう、という焦りも杞憂に終わり、レオ曰くどうやら2時間ほどしか経っていないようだ。
他の生徒たちはそれぞれ自分の課題に向き合い、好きな場所で訓練を積んでいるらしい。この合宿場所はとにかく広い。敷地内であればどこへでも好きなところで訓練できるようになっている。
「それにしても、どうして倒れちゃったんだろう。今まで頭痛なんて感じたことなかったのに」
そうなのだ。実は私は病気知らず。健康的な生活送り出してからは体調を崩したことがほとんどない。あの極貧生活で免疫がついたのか、ちょっとやそっとのことじゃ体調を崩さない体を手に入れていた。長い間馬車に揺られていたから貧血のようなものを起こしたという可能性も否定できなくはないが、合宿への移動もこれで5回目。今まではお尻の痛みは感じれど、頭痛や吐き気といった症状が見られたことはない。
「……僕も医師じゃないから詳しくは分からないけど……何かこれまでとは変わったこととかはあった?今日でも、もしくは前日とかでも」
レオの問いかけにまた考える。少しずつ頭の痛みも引いてきて、頭の中がクリアになっていく。
「その、何故かは分からないけど、馬車から降りて景色を見たときいきなり頭の中にノイズが走ったの。それとノイズ混じりに知らない景色も沢山見えた……気がする。意識を失う前だったからあまり記憶は定かではないけれど……」
その言葉を聞いた途端、レオは何かに気付いた様子を見せ、深く考え込みだした。
「……ひとまず、イリスはもう少しここで休んでいて。合宿はあと3日もあるんだし、イリスはもう従魔、とは少し違うかもしれないけど召喚することができている。もう少し落ち着けば先生が戻ってくるはずだから。僕は一旦部屋へ戻るよ。何かあったら尋ねてきて」
そう言い残し、レオは部屋を後にしていった。部屋は基本2~3人部屋となっており、誰かと一緒の部屋になっている。私はソフィアナ、ミモザと同じ部屋だ。レオは正直わからないけれど、レオのことだからちゃっかり個室を貰ってそうな気もする。レオが誰かと一緒の部屋にいるなんて想像できない。
そんな事を考えていると再び睡魔が私を襲う。どうしたって今日の訓練に参加することはできないだろう。誰かの先生が来るまで一眠りするかと、再びベッドの中へと潜り込んだ。
◇◇◇
レオトールは考えていた。イリスの突然の頭痛の理由はなんなのか。イリスの話を聞く限り、答えの糸口が見つからないわけではない。だがしかし本当にそれだけなのだろうか。
座って考えているだけではだめだと、慣れ親しんだ部屋を後にし外へ出る。訓練へ勤しんでいる生徒たちを横目に目的地へと歩き出した。
レオトールは深い森の中へと姿を消していった。




