66 術学強化合宿
中間試験もつつがなく終わり、またいつのも日常に戻る……ということはなく、私たちは長期休みの前に行われる術強合宿への準備へと追われていた。
術学強化合宿、略して術強合宿は従魔召喚を行った後に2年生を対象に行われる。従魔を召喚できた人は従魔の扱い方を詳しく学び自分の力に、召喚できていない人はこの合宿中に何とか召喚成功しよう、という合宿である。
わたしは何故か奇跡的に従魔召喚に成功してしまったため、私は前者での目的でこの合宿へ向かうことになる。が、しかし。私の従魔は私の魔力で作られた訳ではない。そしてありがたいことにファル達は私が言った事に対して行動しなかったことはない。
対外的に見れば私の従魔の扱いはとんでもなくすごいことになっている。ちなみに中間試験は第1回の従魔試験はとても良い成績を叩き出したが、その後の魔術試験ではへっぽこを繰り出し、無事成績は上の下である。ただ勘違いしてはいけない。私は今まで最下位だったのだ。爆発的に上がったことには変わりない。しかも魔術試験ではへっぽこなりにも少しだけ魔術を出すことが出来たことで、術学の先生は目を丸くして私をみていた。レオとの訓練の成果がようやく出たのだ。
そんなこともあり、今回の合宿は私はあまり参加する意義はない、らしい。学園長から言われた。私の参加の判断は私に任せる、と。前世まではもちろん私に従魔召喚なんて出来なかったから強制参加であった。こんな事を言われたのは初めてだ。
少し迷ったけれど、今世ではミモザやソフィアナもいるし、少し違う環境での勉強は楽しい。それにファル達もいつもとは違う場所で気分転換に遊ぶのは良い事だと思う。そのため私は合宿への参加へを決めたのだった。
参加すると言ってもすぐに行けるわけではない。どうやら合宿の場所はかなり神聖な場所らしく、何重もの審査を通らないといけないらしい。審査自体はとても簡単なものだ。何人もの先生の前で聞かれた質問を繰り返し答える。これを3日に分けて行った。どんな意味があるのかは正直わからないが、これを行わないと入れないらしい。このよく分からない質疑応答を経てやっと事前指導が始まった。
「……説明は以上になります。出発は明日になりますので、くれぐれも遅れないように注意してください」
私たちの従魔召喚を担当してくれたドリトル先生がそう言い残し退室していく。と同時にソフィアナが声をかけてきた。
「ねえねえイリス。今回は転校生のファーネスト様もくるわよ。ふふっ、楽しみね!」
ソフィアナは勘違いをしている。新学期が始まる際に私が積極的にレオの案内役を引き受けたのがソフィアナ達の恋愛センサーに引っかかったらしい。事あるごとにレオについて聞いてこようとする。
「あのね、ソフィアナ。レオとは何もないの。少し知り合いに似てたから案内役を引き受けただけなんだから。もう、レオも困るでしょう?」
「そうだぞソフィアナ。イリスにはレオトール大魔術師様がいるんだ。レオン・ファーネストに現を抜かす分けないだろう?」
おっと、ちょっと待て。何故レオトールがここで出てくるのだ。そこはヴィラクス様の名前が出てくるのが妥当ではないだろうか?
「……それもそうね。ファーネスト様では申し訳ないけれどヴィラクス殿下には敵わないわ。位が低すぎるもの。それに授業にもあまり出ていないし、彼がどんな人かも分からないものね」
何やら私が意図しない方へと話が向かっている感じはするが、とりあえずレオからの意識はそれただろう。そんな事を話しているとどうやら私たち以外の2年生は退室していたらしい。慌てて私たちも明日の準備へと向かうのだった。
◇◆◇
馬車に揺られて2時間が過ぎようとしていた。こんなに長く馬車に乗っていたのは久しぶりでお尻が痛い。少し速度が緩まるたびにもうついたのかと嬉しくなって、まだかと落胆する。
無の境地で過ごしていると今度は本当に速度が緩まったまま馬車が停止した。ついたようだ。
久しぶりの地面に降り立ち、新鮮な空気を吸い込む。本当は伸びをしたいのだけれど、人の目があるところで公爵令嬢がそんな事出来るわけない。ひとまずルームメイトであるソフィアナとミモザと合流しようと前を向いたときだった。
広大な景色が目に映り込む。青々とした草花は自由に生い茂り、耳をすませば川のせせらぎが聞こえてくる。そして少し離れた先には白い神殿のような場所がそびえ立っていた。
綺麗なところだ、とそう感じたとき突然頭の中にノイズが混じる。
『———で、そう———ね』
『だから、———は、———ら』
知らない情景が頭の中で高速に流れ込む。どれもノイズが混じり、正確には分からない。これは、何?と思った瞬間、突如激しい頭痛に見舞われた。あまりの痛さに立っておれず、思わずしゃがみ込む。
その様子が遠くからでも見えたのだろう。誰かが走ってくるのが視界の端に映り込んだ。すぐ治るから大丈夫と、そう言おうとしたとき私は意識を手放してしまった。




