57 千里の道も一歩から
「うん。いい感じに魔力が流れてるね。このままいけばあと一年くらいで生活に必要なくらいの魔法は使えるようになるんじゃない?」
「ほんと!」
心の中でガッツポーズを決める。あの私が、あの私が生活に必要なくらいの魔法を使えるようになるなんて……!!
ずっとレオトールの元で練習を重ねていくうちにだんだんとコツが掴めるようになって自分でも手応えを感じ始めてから早2ヶ月。本当にレオトールには感謝してもしきれない。
じゃあ今日の分は終わったし、お茶にする?と誘われた先には私の好きな苺たっぷりのタルトと紅茶が待っていた。
レオトールはどうしてかわからないけどびっくりするくらい私の好きなものを把握している。観察能力が優れているのかな。
ふー、と一息つく。
魔法の練習が終わるとこうして2人でゆったりと時間を過ごすのが日課となっていた。
「そういえば、もう卒業シーズンだね。今どの学校も忙しそうに準備してるのを見るよ」
「ウィステリア学園も来週が卒業パーティーだよ。準備もひと段落ついたし……。生徒会メンバーには入りたくなかったんだけど、、」
「名誉なことじゃん、生徒会」
それはそうなのだ。レオトールでも知っているくらいだからウィステリア学園の生徒会メンバーは名誉なことだって言うのはあってる百も承知なのだ。
「兄様に賄賂まで渡したのに、、」
「何渡したの」
「宝石。青色のやつ」
「アルベルトって宝石が好きなタイプじゃないでしょ?」
いやそうなのよ。今考えればもっと良い賄賂持ってったらよかったなと思ったんだけど、だってあの宝石蒼の泉から直接取れるものだったから結構貴重なやつだと思ったからで……。
「……アルベルトも今年で卒業だっけ」
「うん。今は学園授業も何もないからたぶん王城の方で騎士団と打ち合わせしてると思う。学園卒業したらすぐに騎士団に入るみたいだし」
「じゃあ僕も会う機会が増えるかな」
「そういえば、レオトールはアル兄様と会ったことがあるの?」
結構純粋な質問である。2人が話してるとこなんて見たことないのだが。でもなんか呼び名から親しみが溢れているから少し不思議に思った。
2人とも高位貴族だから知ってても不思議じゃないし、なんなら普通のことなんだけど、、
「あるよ」
……あれ? それだけ?
てっきりアル兄様が卒業かとか聞いてきたから仲良いのかと思ってたけど……もしかして不仲説浮上……?
ま、2人の交友関係に私がとやかく言う筋合いはないし、いいか。
「イリスももうすぐ2年生だね。魔法の実習も増えると思うしこれは練習の成果を出す時なんじゃない?」
「そうしたいのは山々なんだけどさ、いきなり私が魔法使い出してもみんなびっくりしない?」
それは結構疑問である。なんせこの髪色だ。世界の一般常識では使えないのが普通。いきなり使い出しても大丈夫なのだろうか。
「あー、なるほどね。んー……。正直今の段階だとみんながびっくりするようなことはできないし、あくまで生活に必要な程度の魔法だから大丈夫なんじゃないかな。もし心配だったら僕じゃなくてもウィステリア学園長とかにも聞いてみてもいいかもね」
なるほど。それはいいアイデアだ。でもウィステリア学園長ちょっとだいぶ世間の常識と外れてる気が、、けほんけほん。うん、それはいいアイデアだ。
「ウィステリア学園……か。それもいいかもしれないな」
ショートケーキの最後の一口を食べ終わり、そろそろお暇しようかと立ち上がったとき、レオトールが何か呟いた気がした。
「? 何か言った?」
聞き返してみるが、笑顔で顔を横に振るだけで何もないと言う。明らかにあやしいのだがこう言う時のレオトールは何にも答えてくれないためスルーだ。
「そう。じゃあそろそろ私帰るね。また来る!」
「王城の外まで送っていくよ。次は一ヶ月後? かな。ちょっと期間が空くから今日やったこと忘れないように自分でも復習してみてね」
王城少し出たところまで転移魔法で送ってくれる。本当は寮まで送るよと言われているのだが、流石に来た時の馬車を置いて帰るわけにはいかないためここまでだ。
いつものようにレオトールに手を振り、私は帰路についた。
◆◇◆
「そっちの進行はどう?」
「んー、なかなか上手くいかんのう。あやつ巧妙に姿を隠しておる。前に気配は感じたのじゃが……」
「僕たちはあまり人間には干渉できないからね。彼女の肉体は……今はもう消滅しているはずだから……」
「僕ももう少し行動範囲を広げてみるよ。その前に言ってた女の子、学園の子なんだよね」
「おそらくな。じゃが彼女が知っているかどうかは流石に分からんかった」
「でも確かに接触はしたことがあるはずだ。あんなにも干渉されていたら……あれは自分以外の意思だけじゃ絶対にない」
「……なるほどね。また詳しいことがわかったら教えて。向こうは僕たちの気配を感じ取っている様子はないし、僕ももう少し大胆に動いてみても良さそうだ」
「ああ、よろしく頼んだ」
その言葉を合図に、ひとつ、またひとつとその場から気配を消していった。




