54 何事も気持ちから
割れんばかりの拍手が会場を包む中、私たちもあの素晴らしい剣舞の余韻に浸っていた。
「す、凄かったね……」
「ああ、“魅せる”となるとあれほどまでに心を奪われるのか」
「生徒会の出し物は毎年すごいって聞いていたけど……あれはあの2人だからこそなせる技ね。ほら、ファンクラブの会員達も皆あんなに至近距離でくらってしまったから今頃意識がどこかへ行ってしまっているはずよ」
前を見ると確かにほとんどの人が一切身動きをしていない。一応これから次期生徒会役員の発表があるのだけれど、それまでに意識をこちら側へ戻せるのだろうか。
……ん、ちょっとまって。生徒会役員発表……。
「どうしよう!?ミモザ、ソフィアナ!生徒会役員が決まっちゃうよ!」
あの素晴らしい出し物ですっかり忘れていたが今回の冬祭の最も大事だと言ってもいいイベント、時期生徒会役員発表が残っていた。
アル兄様に前持って行った賄賂が効いてるといいんだけど……。
「ああ、そうだな。今年は生徒会長のアルベルト様と副生徒会長のルドフィル。あと会計のセリーナ様が抜けるから新しい生徒会員が3人増える事になる」
「稀に元の生徒会役員から変わる人もいるけど……今の生徒会の人達は特に問題を起こしているわけでもないし3人で妥当ね」
それはそうなのだが、それはそうなのだが!
「私……生徒会役員になりたくないんだよね……」
え!?っと2人がこちらを向く。あれ、言ってなかったっけ。
「だって、、こんな髪色でしょ。それに……」
そこから先は言えなかった。
やはり一年後にマリアナ子爵令嬢にその場を奪われて惨めな思いするのは嫌だ。過去の私が何も対策をしていなかったからとかではない。でも今まで免れなかったという事実は変わらないため余計に気が重い。
「イリスの髪色の事をいうやつなんて私たちが片っ端から吹き飛ばすわよ。それに髪色で全てを判断するなんてライティア様とヨイ様を一度見てから言ってほしいわね!」
「イリスが何を恐れているのか、全てを理解することはできないが、私たちはどんな時でもイリスの味方であると誓おう」
うう、なんでみんなこんなに男前なの。
司会のモーリス様がホールの端へ出てくる。いよいよだと皆が静かになった。
生徒会役員の発表ということはこのウィステリア学園を運営していく人が決まるということ。ヴィラクス殿下やアル兄様みたいに確実に入る人は他として、侯爵家や伯爵家、子爵家やもしかすると男爵家などからも少なからず選出されるため、みなそこを狙っているのだ。
今の生徒会役員は会長、4年アル兄様。副会長、4年ルドフィル様。議長、3年子爵家のモーリス様。書記、3年伯爵家エレン様。会計、4年伯爵家セリーナ様。庶務、2年男爵家トーマス様の計6人。男爵家のトーマス様と子爵家のモーリス様は絶大な人気を誇り生徒会役員として選出されたと聞く。
今年は誰が選ばれたのか。
「生徒会役員の発表です」
モーリス様の一言でその他の生徒会役員が舞台の上に揃う。生徒会は皆の憧れと言っても過言ではない。それに皆それぞれが仕事に追われているため公の場で6人が揃うところはあまり見られない。今年の生徒会の出し物はアル兄様とルドフィル様を前面に出し、他の4人は演奏に徹していたため、私が入学してからは6人が揃っているのを見たのはこれが初めてだ。
「皆、忙しい中投票感謝する。尚、しきたり通り敬称は略させてもらう。では、」
アル兄様の言葉に皆が息を呑む。
「……生徒会長、1年、ヴィラクス・エルアティナ」
まあ、まあそうだろう。妥当である。
「副生徒会長、1年、イリス・ラナンスキュラ」
まあ、そうだ……いやいやいやっ、う、嘘でしょう!?アル兄様への賄賂は一体どこへ行ったんだ!!どうして、という思いを込めてアル兄様を見るとほんの僅か、それこそ私でしかわからないほどの差だが申し訳なさそうな顔をしていた。お、怒るに怒れないではないか……!
「議長、3年、モーリス・ウェスタン。書記、3年、エレン・ベニス。会計、1年、ミモザ・ライラック。庶務、2年、トーマス・シュミット」
……なんてことだ、というよりもやはり、という感情の方が強い。だって、前世も、全く同じ結果だったからだ。
何故、何故どう足掻いても変えられないんだろう、と私を中で絶望感が襲う。
当然の結果といえば当然。爵位的にもヴィラクス殿下や私は勿論、生徒からの人気で言えばミモザが入るのも頷ける。けれど、私は素直には喜べなかった。
「ミモザ!凄いじゃない!イリスも!私、とっても鼻が高いわ!」
「ああ、私も驚いているが、、よかった。これでイリスを近くから支えることができる」
えっ、とミモザの方に顔を向ける。
「イリスは生徒会へ不安を抱いていたのだろう?私も生徒会役員に選ばれた。だからイリスをより近くから支えることができる。一緒に頑張ろう」
「本当は私も近くにいたいけど、、生徒会役員はどうしようもないからね。ミモザなら私も安心してイリスを任せることができるもの」
ああ、何が前世と一緒だ。こうしてすぐそばで私の味方だと言ってくれる人はいなかった。こんなにも優しい言葉をかけてくれる人なんていなかった。
「ありがとう、2人とも。ミモザ、生徒会役員就任おめでとう。すぐに言えなくてごめんね」
思わず涙声になる。
「一緒に頑張ろう」
前世に囚われすぎている私自身をどうにかしないと前世から離れられない。来年、マリアナに席を奪われたっていいじゃない。今頑張ろうって言ってくれる人を大切にすることが最も優先しなきゃいけない事だ。
涙が落ちないように上を向く。
頑張ろう。役員に選ばれて、初めて素直にそう思えた。
この卒業シーズンにアルベルト達を卒業させたい……!




