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51 真紅の令嬢〈ルドフィル視点〉

彼女は──美しい人だ。


決意に揺れる瞳も、年頃の令嬢よりも大人びている様子も、今こうして腕の中にいる彼女も、すべて僕の心を奪っていくには十分な威力を持っていた。




彼女と出会ったのはまだウィステリア学園へ入学する前、父に連れられライラック家を訪れたときだった。僕は正直いなくてもいいのだが、この頃の父と母は俺がどの令嬢にも見向きもしないということに焦りを感じていたのか、事あるごとに俺を色々なところへと連れ出した。

正直とても面倒くさいと思っていたが、今はそれに感謝をするしかない。だって、、俺は出会ってしまったから。



一人で素振りをしているときに声をかけたのはただの気まぐれだった。女が剣を持っているなんて珍しい、と。

だが彼女と話していると考えが浅はかな俺がなんとも恥ずかしく思えた。

まだ8歳の少女がこれほど前に考え、自分の立ち位置に絶望し、足掻き、前をむこうとしているのに俺は何をしているのかと。


たぶん彼女にとってはただの腹が立つやつだっただろう。だが彼女の意思は俺を変えた。それから真面目に勉強し、公爵子息としての義務を全うしようとした。

そんな俺の変わりように父と母は泣いて喜んでいたな。俺を変えた令嬢をすぐさま俺の婚約者にしようともしていた。だがまだ完全じゃない俺にあの子の婚約者が務まるとは思えないため必死に抵抗した。


彼女は騎士になりたいと言っていた。もしかすると騎士学校に行くかもしれないと考えていたが、ウィステリア学園の入学式で目立つ赤髪を見つけたとき、歓喜で打ちひしがれた。


だがやはりといっていいか、彼女が俺を覚えている様子はない。むしろあんな滑稽な俺のことは早く忘れてほしかったから好都合だ。


そう思っていたが、今度は自分の臆病さに驚く。何故一人の令嬢に話しかけることが出来ない。イリス嬢や他の令嬢は普通に話ができる。だが、ミモザ嬢だけはどうしても難しかった。


そんな俺に呆れたのだろう。妹一筋のアルベルトが珍しく俺に助け船をだしてくれたのだ。これは事件だ。

なんせアルベルトは妹以外には決して心を開かない。妹の存在がウィステリア学園へ浸透していなかった頃はアルベルトは誰に対しても氷のような令息だとまで騒がれていた。

そのアルベルトが。驚くし、そうさせている俺がなんとも情けない。だがこのチャンスを逃すわけには行かない、とミモザ嬢を誘う。


「……じゃあもしよければだが、ミモザ嬢が一人になる頃に私と共に回らないだろうか。ちょうど私の見回りの時間がアルベルトと被っているから丁度よかった」


ミモザ嬢との接点は恐ろしく皆無だが、もう俺が卒業してしまうのも事実。ここまでひよっていた俺にツケが回ってきただけだ。このまま卒業してしまえば迂闊にミモザ嬢と会えなくなる。それどころか美しく成長していく、まあ今もそうなのだが、ミモザ嬢はきっとすぐに誰かの相手になってしまう。他の男のものになるなんて、それだけは耐えられなかった。


「それならば、是非お願いします」


よっしゃ、と心のなかでガッツポーズを決める。

アルベルトとイリス嬢には感謝をしながらその日を待ち望んだ。



◇◇◇



「────よろしく、お願いします」


彼女の返事に思わず涙が流れた。ああ、こんな事があってもいいのだろうか。ずっと彼女は俺のことを思ってくれていたと、都合よく解釈してもいいのだろうか。


思わず彼女を抱きしめる。


彼女があの日のことを覚えていることも、ずっと俺のことを思ってくれていたこともすべてが信じられなかった。


「ありがとう。必ず君のそばで君を支えると誓う」


返してくれた手はぎこちないが、それがとても愛らしく、嬉しかった。まだ自分はこの美しい令嬢の隣に立てるほどの人間ではない。彼女の決意を、ただ傍観しているだけじゃな駄目なんだ。俺が、彼女を支えないでどうする。


「ずっと……俺のことを想っていてくれてありがとう。俺の想いに応えてくれてありがとう。ああ、今この瞬間がまるで夢ではないかと思うほどに信じられない」


「私こそ、ありがとうございます。誰かに私の思いを聞いてもらえて、私を信じてくれる人がいて、とても嬉しかったのですから。リディ様、」


「──ねえ。一つわがままをいってもいい?」


「……? はい、何でしょうか」


「ルドフィルと、呼んでもらえないだろうか。君には名前で呼んでもらいたい」


俺の腕の中でおろおろとするミモザ嬢は可愛らしい。晴れて恋人になったのだ。これくらい、許されてもいいだろう。


「る……ルドフィル……様」


なんという破壊力だ。こんなの俺以外の男が聞いたら理性をなくして飛びかかってしまうぞ。だが俺も公爵家の長男。そんな事は……しない。手が動きそうになったが、、決して何か良からぬことをしようとしていたわけではない。


「様はいらないな。ミモザと俺は恋人なんだから」


恋人!? とミモザ嬢の声が裏返る。

さっきまでも赤かった顔がもっと色味を増し、りんごのようになってしまった。このまま食べてしまいたい。


「む……むりです。リデ……ルドフィル様を呼び捨てなんて」


「でもミモザは僕の恋人だ。恋人は呼び捨てで呼ぶものだよ」


そこから何十分も苦労して、ようやくミモザ嬢が俺をルドフィルと呼んでくれたときにはもう見回りという名の自由時間は終わろうとしていた。


圧倒的語彙力のなさ(;∀;)

誰か私に語彙力を……

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