40 いちじく≠キウイ
やっぱり今日は休日というのもあって人が多い。押しつぶされるほど多くはないが、気をつけておかないとぶつかりそうなくらいには多い。
今日の私は田舎の町娘風コーデだ。膝がギリギリ隠れるくらい短いワンピースに、大きなつばの付いた麦わら帽子。もう秋も深まってきているため、いつでも脱ぎ着しやすいシンプルなカーディガンを羽織っている。
ライラに街に出かけると言ったら猛烈に反対された。でも押し切ってきたぜ。まあライティアやヨイがいるから許してくれたってところはあるけど……。
それにしてもライラはよくこんな服持ってたな。まるで私が街に行くと想定したようなコーデで、今日の私が完成したときは思わず3度見してしまうほどにはびっくりした。
ヨイとライティアもどこで手に入れたのか分からない、人間仕様の服装になっている。ふたりともいつも神話に出てきそうなゆったりとした服を身についけているが、今日はふたりともお洒落だ。
ライティアは私よりも丈の長いシンプルな白のワンピースに、胸元の花が咲き乱れている感じが余計に清楚感を醸し出している。近所のお姉さんというのはおこがましいくらい綺麗である。まるで女神のような……あ、あながち間違いではないのか。
ヨイはね、インテリイケメン極めてるね。伊達の黒縁眼鏡にきっちりとしたズボン。またそれがいい味出してるんだけど、その上には他の人も着てそうなゆったりとした襟付きの服。なんか、たぶん何着ても似合うんだろうな。
うーん……。これは、私、もしかしなくても失敗したのではないだろうか。いや、私の変装はたぶん87%くらい完璧よ。誰がどう見ても田舎から飛び出てきたちょっといいところのお嬢様に見えると思うんだけど、周りがね。
一応恐れ多くも私に付き合っている使用人という体でいるんだけど、二人が主役と言っても過言ではないくらい輝いている。ほら、先ゆく人々が4回くらいこちらを見てから去っていっているではないか。これではお忍びがバレバレである。
「なんかさあ……もうちょっとキラキラ感抑えられない?」
ダメ元で聞いてみる。もしかしたらこう、モサくなる魔法みたいなのがあるかもしれないし……。
「キラキラ? 何を言っておる。妾はいつも以上に変装しているじゃろう? 誰も妾が精霊王だとは思わぬまい」
いや、たぶん精霊王だとは思わなくても何かしら高貴な人なんだろうなっていうのは感じ取られていると思うよ? それに予想してたけどそのキラキラ、わざとじゃないんだよね。まあそりゃそうだよね……。
……もういいや。貴族の殆どは今領地に帰っているだろうし、ちょっと良いところすぎるところからお忍びで出てきた3兄妹くらいに見えてくれればいいや。諦めよう。
「イリス! あちらのきらきらした宝石は何じゃ? 石ではなさそうじゃが……」
「あれはフルーツジュースだよ。買ってくるからライティア、ヨイ、何味がいい?」
「ジュースとな。なかなか珍しいものもあるのじゃのう。妾がいちじくが良い」
いちじく!? それはあるのだろうか。なんでそんなマイナーなところ責めてくるかな。
「僕はじゃあパイナップルがいいな。一人で持つの難しいでしょう? 手伝おうか?」
「ううん、大丈夫。トレーくれると思うから。じゃあちょっと待っててね!」
今ライティアを1人にすればとてもまずい気がする。かと言って全員でここに並ぶのもまずい気がする。ライティアは、、ヨイがいれば変な輩は近づいてこないだろう。ヨイに勝てると思うやつは誰もいないだろうし。
で、今一番の問題はライティアご所望のいちじく味があるかどうかっていうところなんだけど……、いちじくなかったらキウイで許してくれるだろうか。だいぶ違う気もするが……黙ってたらたぶん分かんない。
次に私の順番が来ようとしたときだ。後ろから聞き馴染んだ声が聞こえ、思わず反射的に列から飛び出てしまう。
また1から並ばなければいけないとか、そんな事は正直どうでもいい。何故彼らが今ここにいるのか。
このまま何事も接触なく、ジュースは諦めてライティア達のもとへ戻ろうとしたときだ。案の定というべきか不運というべきか、やはり呼び止められてしまった。
いちじくとキウイはだいぶ違います。たぶん黙ってライティア様に出したら吐き出されるくらい違うと思います。




