39 憧れは常にあるもの
「妾は出かけたい」
おお、急でなおかつざっくりとした願望だな。
アッサムティーを飲みながら談笑していると突然ライティアが立ち上がり、今すぐに外に出ようとする。
「ちょっとまってちょっとまって。一回落ち着こう? どうしたの、急に」
すとんと素直に座ったライティアは先程とは嘘のように優雅さを取り持ち、アッサムティーにミルクを入れて楽しみだした。
情緒大丈夫か? ほんとに訳がわかんないんだけど……。
「そのままの通りじゃ。昔と違って今は昔にはなかった面白そうなものがいっぱいあるしのう。ちょっとだけ見に行きたいのじゃが」
「前みたいに髪の色を変えて行けばいいじゃないか。何をそんな今急にいうんだい?」
まあ確かに。ヨイの言い分もわからなくはないが……
「皆で行きたいからこうして今言ってるのはろうに。ちょっとは分かれ、ヨイ」
ぷいとそっぽを向いてしまったライティアの耳の先がほんのりと色づいている。……可愛らしいといえば怒られるから黙っておこう。
「いいよ、みんなで行こうよ。ライティアもヨイも、顔は知られてないんでしょう? だったらバレる問題もないし、、あ、私が一番駄目なのか」
私は顔は知られなくても髪色で一発アウト。この髪をどうにかしたいんだけど……そういえばさっきの話の流れ的にヨイが変えれそうだったんだけど、、
「ヨイ、私の髪の色って変えれたりする?」
「ん? ああ、もちろん。どうして変える必要があるんだい?」
「私の髪色って結構有名なのよ。街を歩いていたらすぐにバレてちゃう」
一応これでも公爵令嬢だからね。あんまり知られてないとはいえ、無闇矢鱈に外に出るのは推奨されていない。それにライティアが行きたいのはきっと城下町の事だろう。それならなおさら目立つ格好では行くことが出来ない。
はあ、せめて欲は言わないからアル兄様の髪色に近かったらな……。私みたいに私しかいない色じゃなくて誰かは絶対にいるだろうなっていうメジャーな色が良かった。
「何色がいいんだい? 僕たちは昔みたいに髪色で僕たちの正体を見極めて信仰してくる人はもう少なくなってるからそのままでいこうと思うんだけど、僕と同じ色にしてみる?」
あ、これは冗談半分で言われてるな? 確かにヨイの色はやってみたい色トップ10くらいには入ってるけど……、ヨイ髪色も皆の常識的に言ったら尋常じゃないほど魔力を持ってることになるのよ。
それに私達は髪色に魔力量が出るからか、髪色を変える魔術なんて存在しない。それこそヨイ特有の魔術のうちの一つと言っても過言ではないだろう。
それをホイホイと使うのもどうかと思いが、別に本人特有の魔力だし悪いことは一つもしていないため別にいいかとも思う。髪色は絶対に変えないだろうていう謎の先入観があるから髪色変えるだけで変装完了になるのはとても便利だ。
「ヨイの髪色は逆に目立っちゃうよ。んー……無難にブラウンとかどう? あんまり濃すぎないやつ」
無難とか言いつつ結構憧れの色でもある。庶民に多い色だけど、普通に便利なくらい魔力が使えて、なおかつあんまり目立たないんだよ? 次また生まれ変わることがあったら是非私の髪色をブラウンにしてほしい。
「え、そんな色でいいの!? もっとこの際さ、真っ黒とか紫とか、いっそのこと虹色とかにしてみなよ」
「えー、普通にやだ。逆に目立っちゃうよ」
なんでヨイの発想はそんなにメルヘンなのよ。それに黒髪って目立つどころの騒ぎじゃないよ。
……そういえば最近綺麗な黒髪の人にあったな。彼のことは何故かずっと頭の何処かにいる。どうしてだろうか。……まあまた会う機会があるだろう。なんか、そんな気がする。
「じゃあブラウンね」
そう何故か不服そうにヨイが一言つぶやくと、瞬く間に私の視界に入る私の真っ白の髪の毛がブラウンに変わった。
「うわあ」
なんか感動。
ヨイに等身大の鏡を出してもらい、全身を映す。
……やっぱりいいねえ、ブラウン。素朴な感じが出てとても私に似合ってる気がする。自画自賛と言われても別に構わないくらい感動に打ちひしがれている。
「おお、似合うじゃないか。ならこれで準備は出来たのじゃな?」
うきうきしているのライティアが可愛いとか言ったらまた怒られそうだから黙っておく。
準備は出来た。
いざ、出発!!




