31 中間試験 3
「最終決戦、アルベルト・ラナンキュラス、ルドフィル・リディ!!」
審査員の一言でさっきとは打って変わってしんと会場は静まり返る。
「やっと……見ることができる……!!」
珍しくミモザの頬が薄っすらと赤く染まっていた。
3,4年生の部で勝ち残ったのはアル兄様とルドフィル様だったのかー。アル兄様はなんかもう予想できてたけどルドフィル様は結構意外だった。
するとアル兄様とルドフィル様ががちらりとこちらを見た。
……一応手でも振っておいた方がいいのだろうか?
ふと頭によぎり、小さく手をふると、アル兄様がふわりとほほ笑んだのが見える。
「「「キャーーー!!!!」」」
客席のあちこちで黄色い悲鳴が湧き上がった。中にはその場で倒れだす子もいる……。
「イリス……分かってたんだけど一言欲しい……」
「そうね……同意するわ。何でイリスがこの笑みを見て平気でいられるのかが不思議で仕方ないわ……」
直で受けてしまった二人は顔を赤くしてうつむいてしまった。
珍し……やめておこう、怒られる。
「その……ごめんね?」
小さいときからもうなんか見慣れていたから違和感なかった……。そうだった、アル兄様私以上の鉄仮面だった。そりゃあ見慣れていなかったらあの笑顔は心臓に来る。私も不意に来られると心臓止まるかと思う。
「こほんっ……。そ、それでは初め!!」
の合図とほぼ同時にルドフィル様がアル兄様の横腹へ剣をいれようとするが、アル兄様はそれを軽々とかわし、ルドフィル様に真正面から斬りかかる。
いきなり始まったかと思えばいきなり白熱した試合。さっきのことは忘れたようにみんなもその姿をじっと見ている。
ルドフィル様が危機一髪のところでアル兄様の剣をかわし、すぐに攻撃を仕掛けている。と、どちらも気を抜いたらやられてしまいそうなドキドキとハラハラがまじった試合が続く。
その姿はまるで神話に出てくる武神の舞みたいで、後ろに音楽をつけても絶対大丈夫な雰囲気が出ている。
……なんかものすごく綺麗。
語彙力がなさすぎるのは許してほしい。
動き一つ一つが洗礼されているっていうのかな。とりあえず動きに一切の無駄がない。私は剣を持てないからわからないけど、剣が自分の体の一部のように色んな方向、角度に変わっている。
そう思っているのはおそらく私だけではないだろう。
多くの生徒が彼らの姿に見とれ言葉を失っている。
……やっぱり、アル兄様の方が体力はあるらしい。段々と時間が立つにつれてルドフィル様の動きが鈍くなっていくのに対し、アル兄様は汗一つかいていない。
どうなってるんだ? こんなに動いて表情が変わらないどころか汗もかかないって、アル兄様は人間か? もう少し頑張ったらアル兄様武神説立証できるんじゃない?
「……勝者、アルベルト・ラナンキュラス!!」
おおおぉぉぉぉ!!!!
これまでで一番大きな歓声が上がる。
二人はお互いに握手を交わし、それぞれ違うところへはけていった。多分ルドフィル様はこの後生徒会の仕事だろう。アル兄様、ほんとにちゃんと仕事してるのかな? 生徒会長だよ? 後輩に全部やらせてそう。
「……ちょっといってくるね!!」
「「行ってらっしゃいー」」
私は急いでソフィアナからタオルを受け取りアル兄様の元へ走り出した。
◇◇◇
「アル兄様!!」
今あんな激しい試合をしていたとは思えない風貌で立っているアル兄様を後ろから捕まえ、タオルを渡す。
向こうは少し驚いたようだがすぐにほほえみ返し、濃いブラウンの瞳でこちらを見つめ返してきた。
うっ……。自分からやっておいてなんだけどこの至近距離でこれはきつい。
周りでは渡しそこねたタオルをもった令嬢達が顔を赤らめながら悶ている。
この笑顔は妹にしか見せないというのか。罪な男だな……。というか私前の人生で結構嫌われてたのにね。アル兄様、ほんとに前世は一回も笑ったことないんじゃない……?
いつかアル兄様にも心を許せる人が現れますようにとそっと心のなかで手を合わせる。
……そんなことをしてる場合じゃなかった!!
「アル兄様、優勝おめでとうございます。ところで、生徒会の仕事はよろしいのですか? 先程ルドフィル様がいかれたように見えたのですけれど……。」
「ああ……、それは問題ないよ。今回はそんなに人はいらないんだ。勝負に負けたほうが仕事に行くことにしていたからね。……そんなことより……さっきイリスに剣を向けたやつ、後で殺ってもいいかい?」
なんかしょうもない事をかけながら中間試験に挑んでいる風だけど……。いや、生徒会の仕事はしょうもなくないのか? それに気の所為だろうか。やってもいい? が殺ってもいい? に聞こえるのは。
……やっぱりもう一つの殺気はアル兄様だね。
ソフィアナもだけど可愛そうだからやめてあげてね!? その子、きっと多分今頃震え上げっているよ。
私にあたって勝っただけで殺されそうになるなんてもはや事件だよ!!
「兄様? 私は全然大丈夫ですしむしろ早く終わってよかっとも思ってます。私は剣すらまともにふれなくて……。やはりアル兄様はすごいですね。4年連続優勝なんて普通は絶対に無理です」
「ふふ、ありがとう。これでも一応は騎士学校を卒業してるからね。イリスはもう学園には馴れたかい?」
「はい! お友達もできました!!」
うふふあははと笑い合っている姿を信じられない目で見ている皆様。アル兄様はこうやっても笑えるのですよ! まずは近づくことから始めてみてね!
と、誰に言っているかもわからないイリスの心の声を聞くものは案の定誰もいなかった。




