1 静かな引っ越し
手入れがされていないとひと目見てもわかる無駄に広い庭の奥には、鬱蒼と生い茂った暗い森が広がっている。いくら耳をすませてもあたりは静まり返って物音1つ聞こえない。
そんな場所に小さな屋敷がある。ここは『離れ』。ラナンスキュラ家の本館とは一応繋がっているが、誰も近づくことはない。ここはどうやら罪を犯し、幽閉されたラナンキュラス家の者が入れられるところらしい。そのため防音の魔術が施されており、内からも外からも音が漏れない。ただそれを知っているのは現在ではラナンキュラス家の者と家令、そして私だけだ。 そんなこともあってここには滅多に誰も足を踏み入れないし、ラナンキュラス家以外の人はこの『離れ』の存在を知らない。外からすれば無いものと等しい空間である。
さて、私は今『離れ』の小さな部屋にいる。
例の件で早速移されることになったのだ。それはもう準備が早かった。たぶん私が生まれたときから私がここに入ることは決まっていたのだろう。
初めの頃は1人になったのが寂しかった。自分が存在しないようなものに扱われて、右も左も分からないけれど確かに両親や人の愛を欲していた。あんな扱いをされ続けてきてたのにやっぱり昔の私は両親が好きだったんだと思い知らされる。だから何もないと思っていたこの部屋がとても嫌いだった。
が、何回か人生を重ねるうちに今はこの部屋、実は結構気に入っている。
読まれなくなって、無造作に積み上げられた大量の本。全開にしても薄暗く、存在意義があまりない大きな窓。静まり返って物音一つ聞こえず、誰も私の邪魔を場所。
今現在、私は齢3歳。
何故こんなに冷静にしていられるのか。理由は簡単、過去に同じ人生を4回繰り返しているからである。
……といっても全ての人生17歳を迎える前に死んでるんだけど。
何故生きられないのかと考えても、結論が見えてくる気がしない。だって思い返してみてもほんとになにもしてない。記憶があると言っても全部を細かく覚えているわけではないしね。
冷静に考えてみよう。普通3歳の小さな子供を一人で部屋に閉じ込めるか?
せめて公爵令嬢なんだから使用人1人くらいつけてよ!3歳って死ぬよ!?うちの親は常識というものが欠如しているのではないだろうか。それだけ私のことが嫌いだったのだ。
まあ生きているんだけど。たぶん両親的には死んでくれた方がありがたかったのだろうけど。私無駄にしぶといから幼少期は毎度何故か乗り越えることができている。
そして唐突にきました。私の人間が怖い件について。社交不安症ともいうらしい。
簡単にいうと、これまでに殺された経験があること、親が自分のことを道具としてしか扱ってなかったことがあげられる。人生何回もループしてるけど結構怖い。ついでに精神的ダメージも来るし……。
一度目の人生では、ラナンキュラス家だからこんな扱いなのかなーって思ってたけど、まさかの親、私の兄溺愛……。
こんなことを知ってしまった私は流石に心が折れた。自分はなんのために生まれてきたのか。そう考えない日はなかった。
どうやったら愛されるか。色々考えたこともありました。そしてようやくたどり着いた答え。
諦めよう。
……これはもう仕方ない。1回や2回ならまだしも4回だよ!普通の人間の精神してたら無理です。
そして、諦めたと同時に私の表情は消えた。すとん、と。それはもう自分でもわかるくらいに。
どうもこんにちは、能面令嬢です。
しかしこの能面、悪いことばかりではない。
なんだかんだで結局生きていれば社交界には出なければいけない。そのときに今の私の顔は誰にどう悪口を言われようが、暴力を振るわれようが微動だにしない。いわば最強のポーカーフェイス令嬢!
……公爵令嬢をやっていく上で結構便利である。
そんなこともあって、またまた嫌われていた私。普通3歳児で一度も笑わない子供なんて気味が悪くて仕方がないだろ。
それは私も思う。とてもよく思うよ。でもよく考えてみて。
誰がなんと言おうと原因はあなたたちだ。
今までもそうだけど、今回も一度も笑いかけてくれなかった。ほとんど今までの世話を乳母にやらせっぱなし。(そしてその人も相変わらず無愛想で、最低限のことしかしない)
これは私じゃなくても誰でもそうなりますよ!むしろこんなに真っ当な人間に育ってるだけ素晴らしいと思わないか?
……本題に入ろう。何だかんだ私の人生、文句は尽きないけど、今はそんなこと、どうでもいいのだ!
今確認しなければいけないことは、これからどう生きていけばいいのか。
私は17歳になるまでに必ず死んでいる。つまり、長生きしたことがない。今回の人生が5回目だから年齢で言えばかなりの年数を生きているが…、精神年齢は身体の歳に引っ張られるのだ。私は人として普通の歳の取り方をしたい。別に婚約者いらないから自由に生きさせてほしい。
長生きはしたいよ。
人生楽しくなくてもきっと何かは見つけられるはず。そう信じたい。いや、信じさせてくれ!
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