1 静かな引っ越し
手入れがされていないとひと目見てもわかる、無駄に広い庭。奥には鬱蒼と生い茂った暗い森。いくら耳をすませてもあたりは静まり返って物音一つ聞こえない。
そんな場所に小さな屋敷がある。ここはラナンスキュラ家の本館とは一応繋がっているが、誰も近づかない「離れ」。防音の魔法が施されているのだろうか。大きくなってから知ったが、ここはどうやら罪を犯し、幽閉されたラナンキュラス家の者が入れられるところらしい。ただそれを知っているのは現在ではラナンキュラス家の者と家令、そして私だけだ。そんなこともあってここには滅多に誰も足を踏み入れないし、何ならラナンキュラス家以外の人はこの「離れ」の存在を知らない。だから外からすれば無いものと等しいのだ。
さて、私は今「離れ」の小さな部屋にいる。
例の件で早速移されることになったのだ。それはもう準備が早かった。たぶん私が生まれたときから私がここに入るのは決定だったと思う。
はじめの頃は一人になったのが寂しくて、自分が存在しないようなものに扱われて。右も左も分からないけれど確かに両親の愛は欲していた。あんな扱いされてきてたのにやっぱり昔の私は両親が好きだったんだ。だから何もないと思っていたこの部屋がとても嫌いだった。が、何回か人生を重ねるうちに今はこの部屋、実は結構気に入っている。
読まれなくなって、無造作に積み上げられた大量の本。
薄暗いが、一応ある大きな窓。
静まり返って物音一つ聞こえず、誰も私の邪魔を場所。
今現在、私は齢3歳。
なぜこんなに冷静にしていられるのか。
さっきもちらちら出てきてたけど、理由は簡単、過去に同じ人生を4回繰り返しているからである。
……まあ全て16歳の誕生日で死んでいるのだが。
何故死んだ? と考えても、結論が見えてくる気がしない。だってほんとになんにもしてないし、記憶があると言っても全部を細かく覚えているわけではないしね。
冷静に考えてみよう。
普通、3歳の小さな子供を一人で部屋に閉じ込めるか?
せめて、公爵令嬢なんだから使用人一人くらい入れてよ! 3歳って死ぬよ!? うちの親は一体何を考えているのか……。それだけ私のことが嫌いだったのだ。絶対そうだろう。
まあ、生きていけるのだがな! 褒めてくれてもいいぜ。
そして唐突にきました。私の人間が怖い件について。社交不安症とも言うのだが、なぜ人が怖いか。
まあ簡単に説明すると、これまでに殺された経験があること、親が自分のことを道具としてしか扱ってなかったことがあげられる。殺されたってなかなかないけど、人生何回もループしてるしね。結構怖いよ。ついでに心にも来るし……。
一度目の人生では、ラナンキュラス家だからこんな扱いなのかなーって思ってたけど、まさかの親、私の兄溺愛……。
こんなことを知ってしまった私は流石に心が折れた。自分はなんのために生まれてきたのか。そう考えない日はなかった。
どうやったら愛されるか。色々考えたこともありました。
そしてたどり着いた答え。
諦めよう。
……だって仕方ないじゃん!! 1回や2回ならまだしも4回だよ!
普通の人間の精神してたら無理です。むしろ今回もすぐに死のうと思わなかったことを褒めてほしいくらいだ。誰もそんな相手いないけれども。
そして、諦めたと同時に私の表情は消えた。すとん、と。それはもう自分でもわかるくらいに。
どうもこんにちは、能面令嬢です。
しかしこの能面、悪いことばかりではない。
なんだかんだで結局王太子の婚約者くらいにはなるんだから社交界には出るのよ。あ、詳しくは後ほどね。んで、そのときに今の私の顔は誰にどう悪口を言われようが、暴力を振るわれようが微動だにしない。いわば最強なのだ!! ポーカーフェイス極めまくった令嬢と呼んでくれても結構。
……公爵令嬢をやっていく上で結構便利である。
そんなこともあって、またまた嫌われていた私。
普通3歳児で一度も笑わない子供なんて気味が悪くて仕方がないだろ。
それは私も思う。とてもよく思うよ。
でもよく考えてみて。
誰がなんと言おうとたぶん原因あなたたちだ。
今までもそうだけど、今回も一度も笑いかけてくれなかったし……、ほとんど今までの世話を乳母にやらせっぱなしだったし…………。(そしてその人も相変わらず無愛想で、)
これは私じゃなくても誰でもそうなりますよ! むしろグレなかっただけ素晴らしいと思わないか?
……本題に入ろう。何だかんだ言ってたけどそんなことはどうでもいいのだ!
今確認しなければいけないことは、これからどうするかという事。
さっきも言ったけど、私は16歳の誕生日で必ず死んでいる。つまり、長生きしたことがない。今回の人生が4回目だから51歳? そんななんかよくわからない51歳はいらない。どうせなら新しい人生がほしいし、別に婚約者いらないから自由にさせてほしい。
長生きはしたいよ。
人生楽しくなくてもきっと何かは見つけられるはず。
そう信じたい。いや、信じさせてくれ!
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