11 蒼龍 2
いつも誤字報告、ブクマ、評価など、ありがとうございます。
…………できるかわからないけど善は急げだ。試してみよう。
青年の横腹にそっと手をかざす。すると私の手のひらから暖かいな光が出てきて同時に怪我が治っていった。……よかった、成功だ。
こころなしか青年の顔色も良くなっている。
しかしこの力は何なんだろう。何回目の人生かは忘れたけど、いつの間にか使えるようになっていた。
過去に、6歳まであの「離れ」で生きてこれたのはこの力が大きい。
自分でもこの力について調べてみたけど、なんにも書いてない。私自身、魔力がすっからかんだからたぶん魔法ではないと思うんだけど……。私はびっくり人間なのか?
今は調べるのは諦めて、便利だなーっていう認識で使わせてもらっています。
「うーーーん……」
おっ、気がついたかな?
青年が目を開けてこちらを覗き込んでいる。
深い深い蒼の髪。泉と同じ色だ。全てを見透かしたような蒼の瞳で、一言で言うと美青年、だ。何やらただならぬ気配がするぞ。
「君が助けてくれたのかい?」
少し驚いたような顔をした青年の口から響くような声が聞こえた。
「いいえ、この場所に連れてきてくれたのはあちらにいる聖獣のファルです。私はあなた様の手当をさせいてもらいました」
ぱしぱしと青年は瞬きを繰り返し私を、じっと見ている。すると突然何か納得したような様子で頷いた。
わけがわからん。
「じゃあこの傷は君が直してくれたんだね。……名前を教えてもらってもいいかな?」
「イリス・ラナンキュラスと申します。もしよろしければあなた様のお名前もお伺いしたいのですが……」
私の自己紹介が終わると、青年は少し考えるような仕草を見せ答えた。
「僕は蒼龍のヨイ。敬語はいらないよ。ねえイリス、君は僕にあったことがないかい?」
デ、デジャブ……。たしかライティア様にも同じこと聞かれたな。私は共通の誰かに似ているのかな?
そしてなんでみんなそんなに敬語外したがる。
私が無理に敬語を使っているように見えるのか?
それにしても蒼龍のヨイ? ……こっちも全く覚えがないな……。
「ごめんなさい、覚えてない……」
「そっか、そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ。そのうちわかる。それよりも、折角だからそんなイリスにここを紹介しよう!ここは蒼の泉。僕が住んでいるからこう呼ばれるようになったんだ」
ははっとヨイは爽やかに笑う。
突然だな。
さっきの傷のことは忘れてるな?
気になるけどそのことについては教えてくれそうな気配は全くと言っていいほどない。
私はヨイに手を引かれて泉の周りを見て歩いた。
すごく綺麗なところである。
蒼の泉を中心としてこの空間は成り立っているように私は感じた。
そんなに広くないようにも見えるし、果てし無く広がっているようにも見えるのが不思議だ。
さっきから聖獣や龍を時々見るけど、みんな泉で体を清めに来てるんだって。
蒼の泉はヨイの魔力でできていて、穢れの払い、傷の治療、またおかしくなった人を正気に戻したり……。
とりあえずすごい所だそうだ。
蒼の泉は現実にはないといわれていても、エルアティナ国のおとぎ話によく登場する。
私の部屋にも本があったし、詳しく書いてある古そうな本も何冊かあった。
その本の一節を借りるとするならば、
『蒼の泉とは、神の水のことである。蒼龍様が自ら作られ、私達人間には行くことのできない幻の都市の中心にある。500年ほど前に大魔術師が訪れることに成功した。大魔術師曰く、"それは美しく、どこまでも深い蒼をしていた。"と語っておられる。この事から推測すると、おそらくは魔力量が桁違いに高いものでないと行けないのだろう』
らしい。なんの本かは忘れたけれど神話関連のものだった気がする。
たしかにここは神々しさを感じる。多分ヨイはライティア様と同じく神様に近い存在なのだろう。
またすごい方と出くわしてしまった……。
ヨイにつれられて色々なところを見て回っていると、ファルが呼びに来てくれた。
「ああ、もうこんな時間になってる。君といると退屈だった時間がすぐに過ぎていくようだ。この聖獣がいるといつでもここに入ってくることができるからね。また遊びにおいで」
そう言いながらヨイはファルの頭をなでる。ファルは嬉しそうにもふもふの尻尾をふっている。さすがヨイだ。この子結構人見知り激しいのにこの短時間で仲良くなるとは……!
気がつくと空はオレンジ色に輝き、紫色に染まりだしているところもある。
おぉ、もうこんな時間か。
「また来るね。今日はありがとう、ヨイ。次は泉の向こう側にあった教会みたいなところに連れてってね。ばいばい!! じゃあよろしく、ファル」
ファルは返事の代わりに体を揺らして私を乗せる。こうして家へと帰っていった。
「イリス……。見た目はそのままだったな。あの頃の小さいときに戻っているみたいだ。しかし……あれは呪いがかかってる。ふむ…………負のループか……。僕のことは覚えていない、おそらくはライティアもだろう。……ということは……」
ヨイのつぶやきを聞くものは誰もいなかった。