10 蒼龍 1
私、風になってる!!
というのは半分冗談で。
今私は、ファルの上に乗って庭を駆け回っている。
ファルっていうのは私が一番中のいい聖獣のこと。前に精霊の森にお邪魔したときにものすごく聖獣たちに懐かれた。
聖獣たちはみんな全体的に普通の動物よりも大きくて、大人の身長を遥かに越すものも多くいる。特に翼が生えている子達が多い。
ちなみになんか光ってる動物がいたなーって思ってたけどあの子達が聖獣なんだって。精霊たちもそうだけどなんで光ってるかって言うと、聖獣や精霊は人間に比べて魔力量が桁違いに多いらしい。というか人間が少なすぎるって言われた。
だから簡潔にまとめると魔力量の違いで人間は光らないけど、聖獣や精霊は光る。
……人間の常識がここでは通用しないことを思い知らされた出来事だったよね……。
あんまり深く考えないようにしよう。
で、ファルは精霊の森から帰るときにそのままついてきちゃった。
ファルはぱっと見は大きな狼みたいだけど、一番違うのは大きさ。聖獣の中でも一番二番を争うくらい大きい。私の部屋、多分一杯になる。というか入れないだろう。
白銀の毛並みを持ってて、そこに光る美しい金色の瞳。体以上に大きな翼が生えてて、なんたってこのもふもふ!!
はー、癒やされる……。
「ファル」っていう名前は私がつけた。何故かこの子を見たときに急にこの名前が浮かんできたのだ。なぜだろう……。……まあ、いつものことながら、あんまり深く考えても結局結論は見えてこないけどね!
そんなファルの上に私は乗せてもらっている。今日だけにかかわらず、よくこうして走り回っている。
この子、すごく乗り心地が良くてうっかりしてると眠ってしまいそうになる。
……前に一回落ちかけちゃったことはここだけの秘密☆
その時はこの大きな翼で支えてくれたっけ。ほんと申し訳ない……。
「今日は一緒に森の中に入ってみる?」
そう訊ねると、ファルは嬉しそうに体を揺らして私を乗せたまま森の中に入っていく。
ファルは私の言葉がわかっているような行動をいつもする。たぶん、いや絶対わかってるだろうな。
聖獣は賢い。もちろん精霊も。それこそ人間を上回るくらいは余裕であるだろう。
人間は知識と思考力が少なすぎるのだ。そんな少ない知識で世界を支配しているように勘違いしている。by精霊王
まあ、全員が全員そんな人じゃないから一概には言えないんだけどね。
話を変えて、最近森に動物が増えたなーとあたりを見回しながら考える。今は5月で春だから冬眠から冷めて必然的に増える時期ではあるのだけれど、あきらかに普通の動物たちではないものも混じってるよね……。
みんなわかりやすい。光ってるもん……。
……だって!! 私が精霊の森を離れるときに勝手についてくるんだもん!!
そんなことを思いながら、ちょっと変わった森を眺めていると突然ファルが立ち止まった。
どうした?
ふと前を向く。
……………………幻覚か? ついに私は目までおかしくなってきたのか?
そこには空中都市みたいなのが浮かんでいた。
あったじゃない、浮かんでいたのだ。地面とどれだけ離れているかって言われたら"わからない"としか答えようがない。ほんと近くにあるようにも見えるし、ものすごく高いところにあるようにも見える。
ほんとどうなってんの、これ?
触ろうと思っても触れないからやっぱり幻覚なんじゃないかって思うよ。
ファサッ
「…………!?!?」
突然ファルが翼を広げて飛び出した。
ちょ、待て待て待て。私乗ってるんだけど!? しかもファルって飛べたの!? その翼ってずっと飾りだと思ってた……。ごめんなさい。
ファルは私の意志とは関係なく、どんどん上へと登っていく。人生で初めて飛行という体験をしました。
うん、不思議と怖くはないんだけどね、飛ぶときは一言言ってほしいな!!
そろそろ上の地面へ下り立つ頃だろうか。
そして近づいてくると同時に心地よい風と懐かしい気配を感じた。
……なにこれ、デジャブだろうか。
降り立ったと同時に目に入ったのは深い深い蒼の泉だ。多分ここも人間の世界ではないのだろう。
だって……普通の泉は光りません!!
あれ? これもデジャブ……。
ツンッ、と鼻を指すような匂いが漂ってきた。
これは…………血の匂い?! いきなり知らないところに来たと思ったら血の匂いがするって……。
なんで、どうして? こんなところで怪我をしている人?
……とりあえず探さなきゃ!!
どこだ……探せ……多分私なら見つけられる…………気がする。
じっと気配を探る。数秒間くらい辺に集中して気配を探っていると遠くの方でなにかの反応があった。
…………いた!! 多分あそこで間違いないだろう!
なんでこんなことができるのかは私にもわらないから聞かないでね!!!!
「ファル、あそこまで連れて行って!!」
"わかった"というように体を揺らしてファルが飛ぶ。
速く、でも安定感のある完璧な乗り心地だった。さすがとしか言いようがないね……。
匂いのもとにたどり着くと、そこには横腹から血を流した青年が横たわっていた。
ひどい出血である。
なにか出来ることは……えーと、えーと…………パニック!!
お、落ち着け、とりあえず落ち着け。
深呼吸だ。
すーはーすーはー
…………とりあえず落ち着いて(二度目)考えてみよう。