初めて〈閑話〉
また同じ日が始まる。何度も何度も繰り返す日々。
今はたぶん一月の第二週目あたりだろうか。二週間前くらいから降り出した雪は止むことを知らず、しんしんと空から落ちてきては雪をまた深く積もらせた。
も、ものすごく寒い!! しかもこの部屋、古いっていう理由が一番だと思うけど隙間風がびゅうびゅう入ってきて全く寒さがしのげない! ちらちら雪が入ってきているのも見える。
…………と……凍死してしまうぞ……!
そういえばいつもこの時期になると寒さと毎日格闘してたなー……。服は薄いのしかないから少ない枚数を何枚も重ねてきて出来るだけ暖かくするしかないし、ご飯は12月くらいになるとものすごく回数が減る。多分使用人の人たちも寒くてここまで持ってくるのが億劫なのだろう。しかもご飯超冷たい……。
寒いのはわかるけどご飯はせめて持ってきてよ!! 私餓死するよ!!!
こんなこともあってこの時期は私の体は骨みたいになる。これでも私一応は公爵令嬢なんだけど……。
…………とりあえず寒い!!!!
今私は本と本の間に挟まっている。なぜここにいるかって?色々暖かい場所を探してみた結果、ここだと気づいたのだよ! 本を積み重ねることで風が入ってくることを防ぐことで、少し暖かくなるような気がする。気がするだけだけど。
本の使い方が間違ってるって? そんなことは分かってるよ。わかっててこう使ってるんだから少し大目に見てほしい。
……ほんと命がけの日々である……。
最近アル兄様がこないから食べるものがないんだよねー。お腹すいた……。
カチカチと震える体でアル兄様が来ることを願っていたら願いが届いたのかドアをノックする音が聞こえた。
「…………はい……」
「開けるよー」
案の定、明るい声を響かせながらアル兄様が元気よく入ってきた……と同時にものすごい勢いこちらへ走ってきた。
「大丈夫!? ちゃんとご飯きてる? こんなに痩せて……。最近来れなくてごめんね」
ご飯ここまで届かないんですよ!! 気遣いは嬉しいが寒すぎて唇が震えてちゃんとした返事が返せない。
アル兄様が毛布をかけてくれる。
あ、暖かい……。
おお、生き返る。今アル兄様が輝いて見えるよ……!
でもこんな高価そうなもの私が触っても大丈夫かな? あきらかこの肌触りは一級品である。しかも多分魔法がかかってる。汚してしまってアル兄様が怒られてしまうかもしれない。
そんな私を見てアル兄様はくすりと笑った。
「大丈夫だよイリス。それは僕からのプレゼントだ。光魔術をかけてもらっているから温かいと思うよ」
エ、エスパーか!? なんでこの能面と呼ばれる私の考えていることが分かる……?
す、すごい。
「それ、僕が作ったんだよ。イリスの誕生日にと思って。誕生日おめでとう、イリス!!」
誕生日……。プレゼント……。手作り……。
あっ、今日私の誕生日だ。ずっと生まれてこなければ良かったって言われ続けてたから自分の誕生日は忘れるようにしてたんだ。初めておめでとうって言われた。自分が忘れてどうするんだ。祝ってくれる人なんていやしないのに、私が自分の誕生日を忘れたら誰が覚えているのか。いや、今回はアル兄様が覚えててくれたんだ。そうだ。今回は……
私は何度も壊れたようにアル兄様の言葉を心のなかで繰り返す。
「どうしたのイリス!? 嬉しくなかった……?」
アル兄様が困ったような、焦った顔でこちらを覗き込んでいる。
え? どうしてそんなこと聞くの?
どうしてって聞こうとしたとき、ふと私の頬に温かいものが流れ落ちていることに気がついた。
あれ? 私、泣いてる……?
どうして? 今まで涙なんて出たことなかったのに。
……ああ、手作りのプレゼント。初めておめでとうって言ってくれた。
そうか、私嬉しいんだ。
「う……嬉しい……です。……ありが…………と……ござ……」
最後のほうがもう声になってない……。
すると、そっとアル兄様は何も言わずに優しく抱きしめてくれた。
温かいな。
この思い出を大事に心にしまい、アル兄様を小さな腕でぎゅっと抱き返した。