9 精霊王
…………ここは何処だろう。
今私は精霊のリーたちに手を引かれて森の奥へとぐんぐん入っている。
私、森のことについては全部知ってるって思ってたんだけど……前言撤回です。ここどこですか?
まず一番に目に飛び込んでくるのは、空にまで届きそうな太い木々。それにどういうわけが太陽が全く見えない。光すら届いていないのだ。多分この大きな木々が天井みたいにして塞いでるんだと思うけど……どうなってんだ、これ? それをカバーするために、道の脇には見たことがない宝石みたいな花や草まである。しかもここにいる動物たちもこころなしか少し光っているような……? よく耳を傾けてみるとどこからか水の流れる音までする。森に水なんてなかったはずだけど。
…………絶対ここ人間入ってきちゃ駄目なやつだよね。普通はこんなに木は大きくならないし、植物や動物は光りません!! (私の知識では)
それにさっきからちらちらと視線を感じるのは気のせいではないだろ。
「……ねえ、みんな。ここは何処? それに気のせいかもしれないけどさっきからたくさんの視線を感じるのだけれど……?」
『みんな僕達が羨ましいんだよ~。イリスとお友達なのは僕達だけだもん。みんなイリスとお友達になりたいんだよ〜!』
へえ、じゃあこの視線は他の精霊たちのものかな?
あっ、よく見ると木々の隙間から小さい精霊たちがこっち見てた!!
でも私が一番知りたかった疑問はここがどこかって言うことなんだけど……。
もう一回聞いてみたけど『秘密〜』って言われた。
多分この様子だとつくまでは教えてくれなそうだな。
他の精霊たちとは後で時間があったらお話してみよう。それにしても沢山いるなー。私がここから見るだけでも100人近くはいるだろう。
みんなそれぞれ違う髪の色をしている。
……精霊たちも人間と同じように魔力量の違いで髪の色が変わるのかな? それだったらこの三人の中だったら一番魔力が強いのはライってことになるけど……。今度リーたちに聞いてみよう。
どれくらい歩いただろう。
この不思議な空間は自分の時間感覚がおかしくなる。もう数時間歩いたような気もするし、まだ数分しか経ってないようにも感じる。
自分でもよくわからない、なんとも不思議な感じだ。
ふわっ
不意に懐かしいような気配がした。
…………?…………なんだ?
懐かしいって言っても私まだ3年しか生きてないぞ?
一人疑問を抱いていると、リーたちから声をかけられた。
『ついたよー』
慌てて思考を戻すと、
「……………………!!!!」
顔を向けた瞬間心地よい風が吹き、ものすごく美しい女の人と目があった。
女の人はほほえみながら木々の間に作られた玉座に腰をおろしている。
…………一瞬思考が停止してしまいましたよ。
少々お待ち下さい。
……ちょっと復活です……。
多分、いや絶対この方は精霊王、ライティア様だ。彼女から放たれるオーラが違う。
精霊王様の周りにはリーたちよりも一回り小さい精霊たちがふよふよと飛んでいる。
「お主がイリスかえ?」
透き通るような声が森の中を波紋のように広がっていく。
「は、はい! 私はイリス・ラナンキュラスでございます、精霊王様」
この世界の最上級とも言われる挨拶をする。
何故できるのかって?
ふっふっふ。これは過去4度にわたって行った王妃教育の成果であるのだ!!
ほんとにこれだけは真面目に受けててよかった……。
精霊王様の怒り買っちゃいましたー、とか洒落になんないからね。ほんと、下手すると国が滅ぶ。
……挨拶がちゃんと出来ているかは久しぶりすぎて分からないが。
「ははは、そんなにかしこまらなくてもよいぞ。妾のことはライティアとでも呼ぶと良い。あと敬語もいらぬ。……主に敬語を使われると変な感じがするからのう」
最後の方少し聞き取れなかったけど、そんな無理難題を押し付けないでいただきたい……。
でも待て、私は今3歳だぞ。そんな子が改まった喋り方をすると逆に変に見えるのかもしれない。
うん。多分違うけどそういうことにしておこう!!
「わかりました……わかった、ライティア様。」
「うむ、まあそれで許してやる。それにしてもイリス、お主…………なるほどそうなっていたのだな。」
ライティア様が一人でクスクスと笑いだした。
あのー、ちょっと待ってもらってもいいですか?
私にはライティア様にとって一体何が面白かったのかついていけません。
最後の方はやっぱり独り言みたいになってて聞き取れなかったし……。
いつの間にかリーたちは他の精霊たちと遊び始めている。私一人でこの状況をどうにかしろと!?
「ライティア様、ここは何処?」
どうにでもなれ! 私はしらん!
投げやりで聞いてみると、笑いが収まったライティア様が少し考えるような仕草をして答えてくれた。
「ここは精霊の森と言われておる。ときにイリス、そなた妾とあったことはないかえ?」
ライティア様と? 今初めて会ったと思うけど……。
昔の人生? いや、こんな存在感の強い人にはあったら絶対忘れないだろうし、仮にあっているとしてもライティア様がそれを知るわけない。
「ごめんなさい。覚えてない……」
「まあよい。ならばときが来たときにそなた自身のことは教えるとしよう。また来るが良い」
「また来れるの?」
「当たり前じゃ。離れとやらにある森に入るときにここへ来たいと願え。そうすれば来ることができる。みんな、イリスを外まで送ってやれ」
その言葉と同時にリーたちをはじめとしたたくさんの精霊や動物たちが集まってきた。
押しつぶされそうになりながらももと来た道を辿っていく。
また来よう。
ふわっふわのご都合設定です。
それをふまえて楽しんでいただければと……。