12話 招待状
「招待状、ですか?」
「ええ。グレゴリー家から謝罪も来ているわ」
「謝罪……?」
カルミラさんから謝罪の手紙がエバンス家に届きました。
謝罪も兼ねての『お茶会』を開きたいのだとか。
「お茶会」
「そうなの」
「……これは、どう捉えるべきでしょう?」
私の印象としては、あまりよろしくない。
だけど抗議文は、グレゴリー家へお義父様から送られた後。
順当に考えれば、親に叱られた事で真剣に反省して正式に謝罪したがっている、と。
私にとっては、まだカルミラさんの事を判断する材料は少ない。
もしかしたら出逢った時の彼女が特別に切羽詰まっていた可能性も捨てきれないわ。
度が過ぎた相手であれば、もちろん今後の付き合いは考えると言えるけど。
正式に謝罪をするというのなら。かしら?
「難しいところねぇ。謝罪は受け入れる、と手紙で返答してひとまずお茶会は断る……というのもいいと思うわ」
「お義母様は、そうするべきでないと思われている?」
「べき、とまでは言わないの。もちろんシャーロットが嫌なら、とも思うわ。ただね」
「はい」
「……シャーロットなら普通にこなせてしまいそうだな、と」
「え」
お義母様が困ったように私を見つめてきました。
「先に問題だったのはあちらよ。だから断る理由はある。でも、このお茶会は周辺の貴族家に声を掛けているみたいでね」
「つまりカルミラさんだけじゃなく、他の令嬢や夫人も参加すると」
「そう。シャーロットを見に、ね?」
「私を見に」
平民上がりの子爵令嬢。
『どんな女なのか』という興味は、きっと持たれているのでしょう。
リック様……が、パトリック様なのかはさておき。
そういう話が広まっているのかもしれない。
「貴族令嬢としての私のお披露目には、図らずも丁度いい……ですか?」
「そういうこと。そしてシャーロットなら上手くこなせると思っているの。貴方を貶めようとする者も居るかもしれない。だけど同時に、そんな人達に貴方という人間を見せつける機会でもある」
「奥様……、いえ、お義母様……」
「不安ならお断りするわ。貴方の能力を信じているけれど、心の準備は別でしょう?」
「……いえ」
これは『洗礼』というものでしょう。
貴族令嬢として生きていくための。
リック様が、そういうお立場なら逃げていては……機会が遠のくでしょう。
私は今、貴族令嬢としてどうかを常に見られているの。
このお茶会を上手くこなせれば、ぐっと彼との婚約話が近付くわ。
(恋に……生きている、私)
なんて不思議な気分だろう。
それが許されるなんて。
貴族の結婚は、家のためのもの。
でも今の私はエバンス家のことしか知らない。
……まだ正式に相手のことも教えて貰えていない程度の、立場。
お義父様は重い話ではないと言っていたから、リック様からの告白待ちなのかもしれないけどね。
でも、これは私に出来る努力の範疇よ。
それに、やってやれない事もない……ってそう思うの。
「そのお茶会、参加致します。お義母様。どうかお力添えいただけますか……?」
「……分かったわ。もちろんよ、シャーロット」
「ありがとうございます」
己の力を過信せず、周りの協力も受ける。
どんなに優れていたって、人は一人では何でもこなせないの。
それに『味方』が居るだけで心強い。
私は、この1年、色んな人に支えられたわ。
知らない人の、知らない事を色々と知って。
手を取り合える人々の温かさを知った。
そんな『今の私』がどこまで通用する世界なのか。
なんだかワクワクも……したりするのよ?
そうして、少しだけ時間を置いて。
私は『初めて』のお茶会に参加することになったのよ。




