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エピローグ ~ただのシャーロット~

 ぐらぐらと世界が揺らぐ感覚を覚えた。

 思考がまとまらない。

 私は今、何をしていたかしら?


「大丈夫……、気をしっかり……」

「…………」


 誰かに話し掛けられている。女性の声。

 でも聞き覚えのない声。


 返事をしようにも私は、……なんと返事をすれば良かったかしら?


 えっと。出てこない。自然な答えが。

 そもそも認識が追いつかない。視界がぼやけたまま。


「……っ! ……!」


 誰かが絶えず声を掛けてくれた。

 知らない誰か。出逢った事のない誰か。


 きっと、当たり前にこの世界に生きてきたのに、語られる事のなかった、誰かが。


 身体が引き摺られる。

 どこかに運ばれる。


(一体、私は……)


 分からない。

 認識する世界と、それに対応した反応を結び付ける事が出来ない。


 話し掛けられれば……なんと答えるのか。

 目を開けられない私は、なにを伝えればいいのか。


(私は……私……は)


 何を考えて。何を思い浮かべて。何を願っていたの?



「どう見ても貴族の……」

「……私だって……でも……」

「……助けたのはいいんだ……、どうする……」


(誰かと誰かが話している。聞こえているけれど……)


 それらの言葉に理解が伴わない。

 意味不明の言葉群。

 それについて思考しようにも、その思考の寄る辺が失われている。


「俺は触らない方が……だから、お前が」

「……そうね。とにかく医者……」


 女性と男性が居る。二人が何かを話している。

 彼らはおそらく私の事について話し合っていて。


 それに口を挟もうにも何を言えばいいのか分からない。

 言葉が出てこない。


(歯痒い……)


 私は何かを失くしていた。失くしていて。どうにかしたいのに、出来なくて。


 もがく手足を失くして水中に放り込まれたかのよう。



「…………」

「……可哀想に。心配しないでいいのよ。私が面倒見てあげるから」


 その女性の言葉。

 そして触れる手に……私が唯一、辿り着いた言葉があった。


 だから、自然とその言葉を口にしたの。


「……お母……様……」


 そうすると彼女は、とても驚いた。

 私の目から熱い液体が零れ落ちていって。


 そうして私は、また意識を失ったの。




「おはよう。目が覚めたかい?」

「…………」


 目を覚ました私に、女性が話し掛けてきた。

 彼女に視線を向け、その後で周りに視線を向ける。


 今、私はベッドに横たわっている。

 木製の家の中に居て、近くに座っているのは、年上の女性。


「う……あ……」


 話し掛けないと。でも、なんと言えば良かったかしら?

 出てこない。


「落ち着きな。心配しないで。ここは安全だよ。別に……そう。あんたをどうこうしようってヤツはどこにも居ないからね」

「あ……う……」

「あんたぁ! 嬢ちゃんが目を覚ましたよ! 医者先生を呼んどくれ!」

「もう呼びに行ったよー!」


 女性が呼び掛けた先で、答えたのはまた別の女性の声だったの。


 そうして、すぐにその声の主らしい女性が、部屋にやって来たわ。


「ほら。お水持って来たよ」

「よしよし。アンナ、ありがとう、ね」

「あ」


 そうだった。


 『ありがとう』だ。今、私が言いたかった言葉は、それだったの。


 とても、しっくりくる言葉よ。


「あ……り、がとう……」


 あら? それだけだったかしら?

 もっと。こう。物足りないような。


 ありがとう。ありがとう。


 あら?


 私が困っていると、彼女達は驚いたように目を見開いてから。


「……いいんだよ。あんたが無事なら良かったさ」

「そうそう。まずは命あっての、ってヤツよ」


 命? 命が。そう。


 彼女等の会話から、意味を引き出していく。

 頭の中で繋がらなかった言葉があって。


 引き出したいのに引き出せないような、そんなもどかしさ。


「ほら。とりあえず。水飲んで落ち着きな。今、ウチの旦那が医者呼んで来てるからね。ちょっと遠いから遅くなるけど。見たところ、怪我とかはしてなそうだったしさ」


「あり、がとう」

「いいんだよ」


 もどかしい。きっと足りないのに。

 でも、ありがとう、は正しい筈よ。


 彼女に手渡されたコップには『水』が入っている。


(水……)


 分かる。繋がる。意味も。うん。


「飲んでいいよ」


 飲む。そう、水を飲む。

 当たり前のような、そうでないような不思議な気持ちで、私は水を飲む。


 ゴクリ、ゴクリ、と。


 そうして息を吐いて。


「ありがとう……」


 ありがとうを伝えた。

 でも、やっぱりもどかしい。ありがとう、だけじゃ……何か足りないような気がするの。



「私はベルって言うんだ。この子は娘のアンナ。今、うちの旦那のクラウトが医者を呼んでるからね。……あんた、名前は?」

「名前?」


 名前。私の名前は。


 ……、……、……。


 『記憶』を必死に繋げる。

 己の名前を問われて、すぐに答えられないもどかしさ。


 でも、でも……私は。



 ──『シャーロット。貴方を愛しているわ』──



(あ……)


 その『記憶』は残っていた。

 優しく、温かだった、私の……お母様の記憶。

 お母様が私を呼んでいたの。


 だから、だから私は、私の名前が分かるわ。



「……シャーロット。私、は、シャーロット……」


 うん。しっくり来る。

 私の『名前』は、シャーロットよ。


「……シャーロット、ね。ええと。それで、その。家の名前、とかは?」

「家、の?」


 家の名前?


「ああ、うん。ええっと。話したくない、とか?」

「お母さん。あまり首、突っ込まない方がいいんじゃない?」

「いや、でもねぇ」

「え、と?」

「ああ! そのね? 別に詮索する気じゃないんだよ」


 私は意味が分からなくて首を傾げたの。


「でも、ええと。そうだ。家出なのかい?」

「家、出?」

「うん?」


 彼女は私に何を聞きたいのだろう。

 別に隠す事なんて何もなかった。だから何でも答えるつもりだったわ。


「えっと。あんたはシャーロット、だね?」

「ん……」


 肯定。肯定? えっと、そう。

 『頷く』だ。


 いちいち、行動に考えを挟まなければいけなくて、苦労した。


 今まで一瞬で繋がっていた筈の何かが、ブツリと断ち切られてしまって、反応が遅れてしまう。


「シャーロットの、ほら。家の名前とか、あるんだろう?」

「家の、名前?」


 家の名前って何だろう。木製の家、とか?


「家名、とか。ええと、ぶっちゃけて聞くけどね。どこの貴族様?」

「キゾク」


 『貴族』。うん。意味は分かる。

 理解……出来る。


 でも、えっと?


 だから。そう。『家名』。

 それは……、つまり、お母様と同じ名前という事で。


「……シェリル、お母様」

「うん?」

「お母様の名前、は、シェリル、よ?」

「いや、それはアンタの母ちゃんの名前だろう」


 カアチャン。

 なんだろう。新鮮な響きだわ。カアチャン。


「カアチャン。うふふ」

「あん?」

「あ……その」


 彼女を笑う気はなかったの。

 でも、その響きが楽しかったのよ。


「ねぇ。お母さん。なんか様子おかしいよ。お医者さん待った方がいい」

「そ、そうだね。とにかく目が覚めて良かった。とりあえず休んでおきな」


 その女性、ベル、の言葉に私は『頷く』をしたわ。



 そうして、しばらくした後、『お医者さん』が来てくれたの。

 その人となんとかやり取りをしてみる。


 その間も私は、繋がらない言葉を頭の中で必死に繋いで、意味を理解していったわ。



「どこの家の人か、聞いてもいいかな? シャーロットさん」

「……家の?」


 私は首を傾げたの。


 えっと、だから。


「私は、シェリルお母様の、娘よ?」

「いや、えっと」


 あら? 何がおかしいのかしら。

 なんと答えればいいのかしら。


「あの。えっと。家、は、お母様で。お母様と私と共通の、名前。だから。家の名前は、お母様の?」

「…………、あんた、もしかして」

「はい」


 そう『はい』よ。

 頷く言葉は『はい』という言葉。


 それが繋がったわ。

 相変わらず頭の中は、ぐちゃぐちゃで。


 繋がっている筈の『糸』が切れているような感覚。

 出来る筈のこと、知っている筈のことがすぐに出て来なくて困ったわ。



「父親の名前は? 覚えているかい?」

「『父親』」


 その言葉の『意味』は理解……出来るわね。

 ええ。


 理解できる。のだけど?


「ええと。ええと? 『父親』は、ええと。意味は分かる……のだけど。ええと」


 でも、その『父親』の顔も名前も思い浮かばないの。


 一生懸命、思い出そうとしているのよ?

 でも出て来なくて……。


 うんうん、と私は声を上げて頭を抱えたわ。


「ああ、いい。一旦、落ち着いて。ね?」

「はい……。『落ち着く』……」


 そして『お医者さん』の彼は私に告げたわ。


「……記憶喪失、だね。これは」


 って。




 それからね。

 ええと、しばらくこの家、ベルさんとクラウトさん、そしてアンナさんの家族にお世話になったの。


 私の状況も何とか伝える事が出来たわ。


 何か言葉を掛けて貰えると私の頭の中で『繋がる』事も沢山あったの。


 それはとても助かったわ。

 だから私、一から言葉を学び直しているの。


 それでね?

 しばらくベルさん達と過ごした後で、会う事になった人達が居たわ。


 それが『エバンス』夫妻よ。


 その人達には『家名』があったの。


 そこで私は、ようやく『家名』がなんであるのか、しっくりと来たわ。


 ああ、そういう事。



「何か思い出したのかな?」


 エバンス夫妻は、優しそうな方達だったわ。

 それで彼等は『貴族』だったの。


 だから『家名』があるのね。

 うん。そこまでは頭の中で繋がったのよ。


 でもね。


「えっと。『家名』が何であるかが、分かっただけで……その」

「……ふむ。君の『家名』は何かな? 申し訳ないが、君の顔を見ても分からなくてね……」

「ええと? 私にも、その『家名』はある……のですか?」

「それは」


 エバンス夫妻と、ベルさん達一家。それからお医者さん達が顔を合わせるのだけど。


「うーんとね。なんと言おうかな。どう見ても君は、その。貴族令嬢だから」

「貴族……レイジョウ」

「ああ。最初に見つけた時は……なんだ。ドレスを着ていたんだろう?」

「はい。『真っ白』な」


 真っ白の、ドレス。

 あら? 『白』? あら?


 何か変な感じがするけれど、今の私はアンナさんの服を貸して貰っているのよ。

 とても『ありがとう』だわ。


「覚えているのは自分の名前と、母親の名前だけだそうで。顔見知りでなければ……分かりませんかね? 捜索願いなどは?」

「そうだな。少なくとも私達は知らない。今のところ、どこかの家の令嬢が失踪した、とか、誘拐された話も聞かないね……」

「ええと?」


 私は首を傾げたわ。


「私は、『貴族』なのですか?」

「……それは、確証があるワケではないんだが。まぁ、おそらく」

「あの!」


 と。そこでアンナさんが手を挙げて話をしてくれたの。


「シャーロット、さんって。家出したんじゃないですか? 見つけた時、その。別に怪我を負ってたワケでもなさそうだったし。それに……特に服だって汚れてなかったんです。だから『事故』とか。襲われた系じゃないんじゃないかな、って」

「……ふむ」

「こら、アンナ! 子爵様に失礼だろっ」

「だって」

「いや、いいんだ。大事な情報だからね。そうか。家出……。環境が良くなくて、の可能性も。しかし、な」


 『困った』わ。

 私は、このエバンス夫婦に『迷惑』をかけているの。


 それは、とても『ごめんなさい』だわ。


「貴族名鑑を探してみるが……。そうだな。先に私達の方で預かって、ディミルトン家に相談してみるか」

「えっと?」

「……うむ。分かるかな? 私達は、子爵家。エバンス子爵だ。と言っても、領地持ちの貴族ではない。高位貴族に仕える下位貴族……なのだが。そういう……繋がりとか。仕組み、と言うべきかな。分かるかね? もしかしたら貴族側の話の方が、君には馴染み深いかもしれない」

「ええっと」


 子爵。爵位。高位貴族。下位貴族。


 必死に頭の中から、途切れた糸を繋いで引っ張り出していく。


 ……うん。うん? ええと、ええと。

 そうよ。たしかアンナさんが言ってた言葉があったわ。


 とても、しっくりくる言葉なの。


「『偉い人』?」

「ふっ!」


 私がそのしっくりくる言葉を告げると、アンナさんは笑ったわ。

 でも嫌な笑いじゃないのよ。


 思わず吹き出した。そういう感じね。


「シャーロットさん、もしかしたら本当に平民だったんじゃない?」

「平民。じゃない、の? 私」

「いや。どう見ても……その。見た目がね? ドレスも着ていたと言うし。でも何も思い出せないのか……」

「『ごめんなさい』」


 とても『ごめんなさい』だわ。


「シャーロットさんはさ。『どうしたい』の? 思い出せなくてもいいけど。貴方は家に……帰りたい?」

「え」

「貴方の『記憶』じゃなくて『気持ち』を教えてよ。ね? それって、きっと大事な事だわ!」


 記憶じゃなくて、私の……気持ち。


(どう感じている? どういう気持ちなの? 私)


 家、という言葉に真っ先に思い浮かんだのは。


「家、は……ベルさんの、家?」

「…………」


 違ったらしい。でも、そうじゃないの?

 違う、のなら、それは。

 


「帰り……たくは、ない……?」


 私は首を傾げたの。それでも私は私の気持ちを口にしてみたわ。


 たぶん、私は帰りたくないと思うの。

 というより、なんと言えばいいのだろう。


「『帰りたい』が……私の気持ちに、ない。と思う、わ?」

「……ふむ」

「やっぱり家出っぽい!」


 家出。家出、ね。そうなのかしら。そうなのかも。


「ふーむ……。どうするのが一番かな。家に問題があるのか、はたまた。このまま帰すのも。いや、帰す家が分からないのだが」

「名鑑を見れば、母親の名前と彼女の名前は分かっているのだから……」

「まぁ、そうだな……。まず調べてから……」


 困ったわ。どうなるのかしら。

 助けて貰っているのだけど、私からは何も出来ない。


 私はエバンス子爵をじっと見つめたの。困ったままの顔でよ。


「……心配しないでいい。すぐに家に突き返すような真似はしない。ただ、そうだね。もしもの時に私達では君を守れないかもしれないから。私達が仕えている家に、間に入って貰う。……貴族令嬢と分かっていて、不当に匿ったと分かればどうなるか分からないからね。そこは……彼等の為にも納得して欲しい」


「え、と。は、はい」


 私がベルさんの家に居続けるのは『ごめんなさい』なのね。

 その事は分かったの。


「私はシャーロットさんが一緒に暮らしててもいいけどね!」

「……急に人一人分、増えるのは困るだろう。一時的ならともかく。彼女の面倒は私達が見るからね」


 エバンス子爵がそう言うと、ベルさん達は、なんとも言えない表情を浮かべたの。

 私は『楽しかった』だけど、やっぱり『ごめんなさい』でもあったのね。


 うん……。だから、そう。


「あの。えっと。私、『楽しかった』の。それで『ありがとう』だわ。だから、えっと。『ごめんなさい』」


 私はベルさん達に何とか、私が思っている事を伝えたわ。

 上手く伝え切れる言葉が出てこなくて、とてももどかしい。


 もっと勉強しなくちゃいけないって思ったの。



 ベルさんの家から、エバンス子爵の家に『移動』して。

 それで、たくさん私の『家』を探して貰ったの。


 でもね。どうも、見つからないらしくて。


 それからね。

 彼等、エバンス子爵の『上』の『偉い人』のところに一緒に連れて行かれたわ。


 その人達が『ディミルトン家』って言うの。

 貴族の上下。だから。えっと。


「伯爵、と、えっと。侯爵、様?」

「……辺境伯様、だね」

「ヘンキョーハク」

「……うん。ちょっと。爵位について思い出すのは……、いや。もう『学ぶ』方が早いかな」

「ごめんなさい」

「……いいんだよ。何も。私も妻も、シャーロットの事を悪く思ってないのだから」

「…………ありがとう」

「ああ」


 そうして私は、その『偉い人』に会ったのよ。

 エバンス子爵と、同じぐらいの年齢の方だったわ。



「ふむ。記憶喪失のシャーロット。貴族名鑑には……」

「探したのですが、該当する名前はなく」

「……そうか。私も……顔に見覚えはないな。令嬢の顔をすべて把握しているワケでもないが」

「捜索しているような家門は?」

「いや。耳に入っていないな」


 どうもね。特に『手掛かり』はないらしいのよ。


「その」

「……どうしたのかな」

「私、は、『平民』では、ないのですか?」


 何日も経って、暮らしてきて、彼らにお世話になったけれど。

 どうしてもよく分からないのよ。


「………………君は『平民』がいいのかい?」

「えっと」


 どう、なのだろう。

 それは選べるものなのかしら?


 分からないわ。


「私は、その。街で暮らして『楽しかった』です……」

「…………そうか」


 『偉い人』達が目を見合せる。

 私の答えた言葉に何かを察したような、そんな雰囲気だったの。


 その後も、やっぱり色々と『ごめんなさい』だったのよ。

 でも、どうしても私の『家』は分からないままだったの。


 そして、どの家も私を探してはいないそうなのよ。

 『貴族名鑑』というモノがあって、そこの『記録』にもシャーロットの名はなかったそう。


 だから。


 そう。だから。



「……君の後見人には私達がなろう。でも、今の君は『平民』だ。シャーロット」


 エバンス夫妻がね?

 私の『面倒』を見てくれる事になったのよ。


 でも私は『平民』だって認められたわ。


 『偉い人』のヘンキョーハク様が、色々と手を回してくれたんだけど……。


 『貴族』のどこにも『シェリルの娘のシャーロット』は居ないそう。

 誰も探してないそうよ。


 うふふ。


 そうして私は『家』で過ごさせて貰ったの。

 もちろん『平民』なんだもの。


 だから私は……『働く』をするわ。


 エバンス子爵様達は『土地』を持っていない『貴族』なのだけど……。


 でも、お屋敷はご立派なのよ?

 そこで私は『メイド』の仕事を覚える事になったの!


 メイドとして働けば『お給料』が出るのよ?


「うふふ」


 楽しい。とっても楽しい日々が始まったの。

 覚える事が人よりも多い私だったけど。


 そのすべてが新鮮だったわ。


 屋敷を出たら、そこには街があって。

 私は、そこで『買い物』をしたりするのよ。


 それに『休み』の日はお出掛けして、外で買った食べ物を食べたりするの!



 ……そうして、新しい生活が始まって、1年が過ぎた。



「シャーロット! 今日もおつかい?」

「ええ! アンナ! 今日は、シーゲルさんの店のお野菜が安かったのよ!」

「本当? じゃあ、私も後で買いに行くわ! また一緒に遊びましょう!」

「ええ、もちろん!」


 言葉もたくさん覚えて、流暢に喋れるようになったのよ、私。


 ベルさんの家のアンナとも、あれから何度も交流があって。

 今では友人になれたわ!



「ふふ。今日もいい天気ね」


 私は青い空を見上げながら、そうつぶやいた。

 新しい生活に慣れて、忘れてしまった生活の事なんて気にも留めなくなっていって。


 毎日が楽しいのよ?

 優しくて、いい人達ばっかりだから。


 今日もとっても平和な街を……私は軽やかに歩いていく。

 自然と笑顔になっていったわ。



 私は平民のシャーロット。


 ただのシャーロットよ──




ここで終わっても赦されるのでは!?

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― 新着の感想 ―
彼女の優秀さが周りの人間の憎しみを呼んでいた状況から一転、普通以下の知性の(ようにみえる)状況に陥って初めて友人や心から親切にしてくれる人に恵まれる「幸せ」を得る…「アルジャーノンに花束を」を連想して…
シャーロット、無意識かもしれませんが、お母様の記憶は天秤に乗せられなかったんですね…… それしかいらなかったとなるなら、切ないですよ……
[良い点] 途中までしか読んでないのに感想書くのもなんですが、自滅するにもむこの民のための願いを天秤に載せる時点で、シャーロットは十分に聖女、いや、王族以上の王や統治者の器だなあと思いました。 そして…
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