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Gift ~林檎の樹の下で~  作者: 秀田ごんぞう
第二幕 ぎこちない笑顔
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第8話 幕間

 目を覚ますと、いつもの真っ白な天井が眼前にあった。久しぶりにぐっすり眠れた気がする。ゆっくり身体を起こしながら腕を伸ばすと、寝起きのまどろみが消えていく。


 徐々に意識がはっきりしていく中で、夢の内容を思い起こす。


 覚えているのは映像を切り取ったような断片的な風景だ。夢の中の私はなぜか白い着物を着ていて、見知らぬ男の子に背負われている。男の子におんぶされた経験なんてないから、ちょっぴり恥ずかしかったけど、そんなに悪い心地はしなかったなぁ。

 所詮は夢なので、話の展開は飛び飛びになっているのだけど、私はその男の子の家に行くことになった。彼の家はごく普通の家庭に見えたけど、なんとはなしに感じるぎこちなさがあって、彼自身、家族にも打ち明けられない秘密があるみたいだった。それが何なのかは気になるけど、残念ながら、その辺りで夢から覚めてしまった



 昔、読んだ本にこんな話あったかなぁ……?

 夢で見るくらいだから、何か強い印象があったはずだけど……うぅ~ん、思い出せない。


 そんな不思議な夢に思いせていたところ、廊下の方からガラガラと台車の通る音が聞こえてきた。もうすぐ朝食が運ばれてくる時間か。悪い夢じゃななかったおかげで、いつもより気分は爽快である。


 ……と、ここでようやく部屋の扉が開けっ放しになっていることに気が付いた。

 私がいるのは個室だから、普段は扉は閉まっているはずなのだけれど……誰かがお見舞いに来たのかもしれない。こんな早い時間から来るんだから、きっとお母さんだと思うけど。


 部屋の外からはパタパタと人の足音が聞こえてくる。こんな早朝から仕事だなんて、看護師さんたちも大変だなぁと思う。きっと学校に通っている皆は今頃、目覚まし時計の音で目を覚まして、わたわたと朝支度を整え始める頃合いなんだろうか……私にはわからないけど。


 再び、私の意識は今日見た夢の内容にシフトしていた。


 ここに来てからというもの、夜に見る夢は、地面に引きずり込まれたり、窓から飛び降りたり、謎の人物に追いかけれたりといった悪い内容ばっかり。起きた時にはいつも身体が重だるい倦怠感けんたいかんに包まれていた。

それがどうしたことか。今日はイヤにスッキリと目が覚めた。別段楽しい夢ではなかったのだが……なんというか不思議としか言いようのない妙な現実感があった。目が覚める直前までは、夢だなんて思えなかったくらいだ。


「あらひかり、起きてたの?」


 聞き慣れた足音でやって来たのはやっぱりお母さんだ。お母さんは持っていたバッグを窓脇に置いて、椅子を引っ張ってきて側に座る。


「おはよう。お母さんも、今日は早いね」


 いつもは仕事帰りによってくれるお母さんが、こんな朝早くから来るなんて珍しい。なにかあったのかな、と思ったけど、にこやかな笑みを絶やさないお母さんの顔を見ていると、そんな心配はすぐに消えてしまう。

 お母さんは一階の売店で買ってきたであろうコーヒーを飲みながら言う。


「仕事が長引きそうで、夜に来るのが難しそうだったから行く前に寄ったの」


「毎日来なくてもいいよって言ってるでしょ」


 するとお母さんはやれやれと手のひらで示しながら


「実は仙石せんごく先生が目当てなのよ。あの人、かっこいいじゃない」


 主治医の千石先生は一般的にイケメンに分類される容姿だ。腕も確かなようで、若手の医師ながら、独身ということも相まって看護師の間でも評判がいいらしい。

 お母さんがかっこいいと言うのも頷けるが、正直なところ、私は苦手だ。けれど、そういうことを言うと、お母さんが面倒な説教文句を並び始めそうだったので、私はやれやれと肩をすくめながら言った。


「……もー面倒くさいからそういうことにしとく」


「あんたねぇ! 冗談言ったんだからツッコみなさい!」


「別に、私お笑い芸人じゃないし」


 至極しごくもっともなことを言ったはずなのだが、お母さんは残念そうに首をもたげていた。


「はぁ……光ももう少し愛想が良ければねぇ……」


「余計なお世話」


 すると、何故かお母さんは私の顔を見てにっこり笑った。

私、別に面白いこと言ってないのに。変なの。


「なんで笑ってるの?」


「え? なんだか今日の光、元気だなぁって思って。あなたいつもなーんか疲れた顔してるもの。あんまり後ろ向きなことばかり考えるものじゃないわよ」


 やっぱりあの夢を見たからだろうか。今日の私は、お母さんの目から見ても、いつもより元気に見えるらしい。まぁ、いつもより気分が良いのは確かなんだけど。


「やっぱりあの夢のせいかな……?」


「夢?」


 お母さんは楽しそうにニコニコ笑いながら、椅子から乗り出して私が話すのを待っている。目をキラキラさせて、年甲斐もなく楽しそうにしているお母さんを見ていると、私も自然と気持ちが楽しくなってくる。起きてから少し時間が経った今でも、不思議とはっきり覚えている夢の内容を思い返しながら、私は口を開いた。


「えっと……実は今日ね、ちょっと不思議な夢を見たの。知らない男の子の夢なんだけどね――」


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