第48話 声
息が荒い。大きな声を出したのは久しぶりだ。
あの少年、翔はいったい何なのだ?
今日また、彼が現れるなんて思わなかった。夢で見る翔はずいぶん口うるさい姑みたいだったけど、話してみると案外普通の人のように思えた。
だからだろうか……つい病気の話などしてしまったのは。
あんな話をするべきじゃなかった。聞かされた方も困っているだろう。
翔に自分にできることはないか? と言われたとき、正直に言えば少しだけ嬉しかった。
でも、それだけだ。結局、私の悩みは翔が何をしても解決はしない。
解決できない問題もこの世にはある。私はそう思う。
彼はまた遊びに来てくれるだろうか?
今日は少し言い過ぎたかもしれないし、もう、遊びには来てくれないだろうな。話友達を失う、というのはやっぱり寂しい。自分勝手なこと言ってるってわかっている。
思えば、母さん以外に誰かがお見舞いに来るなんて、いつ以来だろう? 小四のころはクラスメイトがたまにお見舞いに来ていた。
しかし、学年が上がるごと、だんだん少なくなって……やがていつの間にか誰も来なくなった。中には親しかった友達もいたけれど、人間、そんなものなのかもしれない。彼等と私とでは住む世界が違う。不用意に関わるべきではないのだ。
いいんだ、それで。病気になったとき、そう、決めたじゃない。
決めたはず……なのに……。
ふと、前に見た夢の光景が脳裏に広がった。
家出した翔を追いかける夢だ。たがが夢なのに、なぜこうもはっきりと覚えているんだろう。どんどん遠くなる翔の背中を見つめながら、私はなんとしても追いつきたくて必死で走った。
放っておけなくて夢中で走った。
それから後のことは覚えていないけど……、本当に不思議な夢だった。
――本当に覚えていませんか?
言葉が胸にとくんと響いた。
――本当は知っているんでしょう。ただ、気づかないフリをしているだけで。
誰? あなたは誰なの?
――あなたは私。わたしはあなた。
意味がわからない。
――あなたは怖いのよ。傷つくのが怖いから。だから自分の殻に閉じこもっている。
何をいいたいの?
――先生に言われたでしょう。あなたは自分で自分の可能性を否定しようとしている。
自分の可能性? なにそれ? 私はそんなこと考えたこともないし、あなたに言われる筋合いもない。誰なの? あなたはいったい誰なのよ?
――はぁ。ネガティブ拗らせた腐れミジンコ女の相手は疲れますね。ま、あなたのことは彼に任せたし。わたしはこの辺でおいとましますか。
ちょっと! 待ちなさいよ! あなたは何者なの!?
――何度も言わせないで。あなたは私。わたしはあなた。
声はそのままスー……ッと消えてしまった。




