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Gift ~林檎の樹の下で~  作者: 秀田ごんぞう
第十一幕 青葉病院西病棟304号室
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第48話 声

 息が荒い。大きな声を出したのは久しぶりだ。

 あの少年、翔はいったい何なのだ?

 今日また、彼が現れるなんて思わなかった。夢で見る翔はずいぶん口うるさい姑みたいだったけど、話してみると案外普通の人のように思えた。


 だからだろうか……つい病気の話などしてしまったのは。

 あんな話をするべきじゃなかった。聞かされた方も困っているだろう。


 翔に自分にできることはないか? と言われたとき、正直に言えば少しだけ嬉しかった。

 でも、それだけだ。結局、私の悩みは翔が何をしても解決はしない。

 解決できない問題もこの世にはある。私はそう思う。


 彼はまた遊びに来てくれるだろうか?

 今日は少し言い過ぎたかもしれないし、もう、遊びには来てくれないだろうな。話友達を失う、というのはやっぱり寂しい。自分勝手なこと言ってるってわかっている。


 思えば、母さん以外に誰かがお見舞いに来るなんて、いつ以来だろう? 小四のころはクラスメイトがたまにお見舞いに来ていた。

 しかし、学年が上がるごと、だんだん少なくなって……やがていつの間にか誰も来なくなった。中には親しかった友達もいたけれど、人間、そんなものなのかもしれない。彼等と私とでは住む世界が違う。不用意に関わるべきではないのだ。

 いいんだ、それで。病気になったとき、そう、決めたじゃない。

 決めたはず……なのに……。


 ふと、前に見た夢の光景が脳裏に広がった。

 家出した翔を追いかける夢だ。たがが夢なのに、なぜこうもはっきりと覚えているんだろう。どんどん遠くなる翔の背中を見つめながら、私はなんとしても追いつきたくて必死で走った。

 放っておけなくて夢中で走った。

 それから後のことは覚えていないけど……、本当に不思議な夢だった。



 ――本当に覚えていませんか?



 言葉が胸にとくんと響いた。

 


 ――本当は知っているんでしょう。ただ、気づかないフリをしているだけで。

 


 誰? あなたは誰なの?



 ――あなたは私。わたしはあなた。



 意味がわからない。



 ――あなたは怖いのよ。傷つくのが怖いから。だから自分の殻に閉じこもっている。



 何をいいたいの?



 ――先生に言われたでしょう。あなたは自分で自分の可能性を否定しようとしている。



 自分の可能性? なにそれ? 私はそんなこと考えたこともないし、あなたに言われる筋合いもない。誰なの? あなたはいったい誰なのよ?



 ――はぁ。ネガティブこじらせた腐れミジンコ女の相手は疲れますね。ま、あなたのことは彼に任せたし。わたしはこの辺でおいとましますか。



 ちょっと! 待ちなさいよ! あなたは何者なの!?



 ――何度も言わせないで。あなたは私。わたしはあなた。



 声はそのままスー……ッと消えてしまった。


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