現在ー ユキと莉子 ー
「よっ、久しぶり!」
「ユキちゃん、いらっしゃい」
相談したいことがあって、半年ぶりくらいに莉子に連絡を取ったら、どうせだから家に来て夕飯でも食べていけと言われた。
来る途中に買い出しを頼まれた時点で、手伝いが欲しかったんだろうなと何となく察しはついている。
「お邪魔します。あとこれ、酒とジュースとキャベツとツナ缶だっけ?」
「ありがとー! いやー助かった」
「たすかったー!」
「美衣、元気だったか?」
「うん、ユキちゃんにあいたかったー」
「はは、ありがと」
自分の膝上あたりにある頭を撫でて、伸びてくる両腕が望むまま小さい体を抱き上げた。
5年ほど前、莉子は結婚した。相手がいることは知っていたけれど、結婚となるとまた新鮮な感覚になるもので、オレも穂澄も突然の報告に驚いた。同時に妊娠も発覚したものだから、余計に晴天の霹靂だった。
生まれてきた女の子は莉子によく似ていて、今ではこうしてみんなに可愛がられている。
「美衣は甘え上手だな」
「ねー、ホントどこで覚えてきたんだか」
「旦那は?」
「あと1時間くらいで帰るってさっき連絡きてた」
「そうか」
リビングで抱えていた美衣を下ろすと、少し不満そうにしていたが、幼稚園に上がって気持ちが成長したのか、大人しく隣に座っていた。
「さーて、では仕事を申し付けよう」
「そうだと思った……」
「ウチは今日、餃子パーティです」
「それでキャベツの買い忘れは致命的だな」
「ママうっかりー」
「シャラップ。そういう訳で、ユキはこの買ってきたキャベツを微塵切りにして下さい」
「相変わらず人使いが荒い」
「働かざるもの食うべからず」
料理はあまり得意じゃないのになと思いつつも、世話になる身としては手伝わざるを得ないので、素直にキッチンに立つ。
一人暮らしとは言え、自炊することは多くない。出来合いのものを買ったり、外食で済ませたり。人よりも量を食べるくせに、自分のために作るとなると途端に面倒くささが勝ってしまう。
とはいえ、微塵切りくらいはできるけれども。
「粗くてもいい?」
「粗いくらいのが食感出て美味しいからよし。あと千切りも作って」
「え、どのくらい?」
「半玉みじん、半玉千切り」
「ひと玉全部……」
もう一度言う、人使いが荒い。
母親になっても、莉子の本質は莉子のままで、ちょっと安心する。
「ユキちゃん、見てー」
「おー、可愛い」
美衣がソワソワしながら幼稚園の制服を羽織って、カウンターキッチンの前でクリルと回ってみせた。
「えへへー」
「よく似合ってる」
「もうー、みんなに見せびらかすんだから」
「お姉さんになったのが嬉しいんだろ」
「まあ結局可愛いんだけどね」
苦笑しながらこぼす莉子は、やはり母親の顔をしていて。その深い愛情が垣間見えたことに、むず痒い気持ちになった。
「莉子みたいな母親なら、楽しかっただろうな」
「ちょっと、こんなデカい子供いらないんだけど」
「すいません」
「あはは、ユキのちっちゃい頃とかマジ美少女だったもんねー。まあ私が親なら着せ替え人形にするわ」
「なんで知ってる……」
「え、アルバム見たよ?」
「どこで!?」
「ユキの家にあったじゃん。あ、そっか。あんたが寝てる間に穂澄と見たわ」
「プライバシーって知ってるか?」
前言撤回。デリカシーのない母親はちょっとどうかと思う。
莉子がサクサクと隣で何品か作り、最終的に餃子の餡を包む工程は美衣も加わった。
「ユキちゃんじょうずー」
「ありがと。美衣も上手」
「えへへー」
「子供の扱いが上手いのは、美衣が生まれるまで知らなかったなぁ」
「弟いるからかな、歳はそう変わらんけど」
「ユキちゃん、おとうとがいるの?」
「お姉ちゃんと弟がいるよ」
なかなか肝の据わった姉と、その姉に頭の上がらない弟が。
最近は実家にも帰っていない。父と2人はどうしているだろうかと思って、そう言えば連絡すらもほとんどしていなかったことに気づいた。
「いいなー、みいもおとうととおねえちゃんほしい」
「お姉ちゃんは無理かなー?」
さすがの莉子も、困り顔で否定する。
「ええー、ユキちゃんみたいなおにいちゃんはー?」
「それもちょっと無理かなぁ?」
「ええー、じゃあみい、ユキちゃんとけっこんする」
「なんでそうなった??」
兄弟の話をしていたはずでは?
子供の突拍子もない発想は面白いなと呑気に親子の会話を聞いていたら、後ろでドサっと何かが落ちる音がした。
「?」
莉子と2人で振り返ると、いつ帰宅したのか莉子の旦那が立ち尽くしていた。
「い、いくらユキさんでも、ウチの子は嫁にはやりませんからあああぁ!!」
盛大な勘違いとともに。