エピローグ
それからユキさんは、もう一度音楽を始めた。
あの曲の作者を、プロメテウス側が発表したことも要因の一つなのだと思う。
ジルのファンだったと言う人間が今度はこぞってプロメテウスを叩いていたけれど、盛大な掌返しに呆れて物も言えない。
皆なにかしら、鬱憤を晴らす対象が欲しいだけなのだ。
この中にどれだけ、本当にあの人たちの音楽を愛していた人間がいるのだろう。
(ま、俺が一番愛してるけどね!)
結局、作者は発表したものの、ユキさんからの曲提供であり、作曲したユキさん自身がその曲を使用することは何の問題もないという着地点に落ち着いたらしい。
プロメテウス側の影響も考えての妥協点なんだろう。ユキさんは、それで納得しているようだった。
「涼ー! この本棚どこに置くのかってお兄さんがー!」
「あ、ごめんちょっと待って!」
俺はと言えば、引っ越しをした。
今までなんとなく住み続けていたアパートはセキュリティ面が褒められたものではなかったから、エビちゃんから再三引っ越しを提案されていた。
忙しさと面倒臭さもあって全てをエビちゃんに任せていたら、ガッチガチに芸能人が住むようなマンションを契約してきて、今に至る。絶賛引っ越し中の俺は恐れ慄いているわけです。
広いな! 3LDKいる? 一人暮らしに必要?
家賃は事務所が折半してくれるって言うから了承したけど。
「……猫とか飼えばいいのか?」
広々としたリビングで呟いたら、手伝いに来てくれた静馬が笑った。
「あっはっは! 海老原さんてこう言うとこ思い切りいいよなぁ」
「広過ぎない? なに? 俺結婚でもす……」
「お、いいんじゃん? ユキさんと住めば?」
「それだ」
天才か、と人差し指を向けたら、静馬はドヤ顔で同じポーズをとる。
いや、ホントに天才か。そうだそれだ。もうすぐユキさん手伝いに来てくれるし、一緒に住みましょうって提案しよう。
家具の配置を業者のお兄さんに指示しながら、頬が緩みそうになるのを何とか耐えた。
「涼ー! ユキさん着いたってよー」
インターホンが鳴った数秒後に静馬の呼び声が響く。なんでお前が出てんだ。いいけども。
「いいけど! いいけどさ!」
お前の家じゃないと言いたいのをグッと抑えて、玄関前に移動しようとした所で気づいた。
「あ、しまった」
「どしたー?」
「いや、ここエレベーター分かりにくいかと思って。ちょっと迎えに行ってくるわ」
「おー」
静馬に断りを入れて、荷物搬入のために開け放たれたままの玄関を出たら、丁度お隣の部屋の玄関がガチャリと開かれる。
(あ、お隣さん……)
挨拶をしようと顔を上げると、見覚えのある刺青が視界に入ってきた。
目立つ金髪に長身、整った顔立ちと色素の薄いヘーゼルの瞳、バチバチのピアス。
それはもう、紛うことなく。
「えっ」
目が合った瞬間、思わずそう発してしまった。
「……えっ」
そうだよね、そう言う返しになりますよね。俺もめちゃくちゃ驚いています。エビちゃん、一生恨むから。
「涼、ここエレベーターわかりにく……」
ユキさんはどうしてこのタイミングで現れてしまうんですか。
固まっている俺と龍臣さんを交互に見渡して瞬きしているユキさんの方へ、二人して錆びついたロボットみたいに顔を向けたら。
「……早い再会だったな?」
「冷静すぎるでしょ!!」
前言撤回。同棲の提案は、もう少し様子を見ることにする。
end
第一部終了です。
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました。
この後は番外編や小話などを投稿していきます。
第二部も今後投稿予定です。




