現在ーそれは、突然のー
緊急で入っていた仕事連絡を一件だけ済ませて、通話を切る。
正直なところ、涼をここに連れてくるかどうかは迷った。
朔夜は自分のセクシュアリティをジルのメンバーにしか知らせていなかったし、涼にも、穂澄に嘘を吐かせていたことがバレてしまう。少し、怖かった。
(それでも、涼なら……)
そう思う自分がいた。
涼なら、からりと笑って、全て受け入れてくれるのではないかと。
あの頃何があったのか、過去に何があったのか。ちゃんと、話さなければいけないと思っていた。
話しておきたいと思った。
朔夜も、その事を察してくれているようだった。
SNSはあまり活用するタイプではなくて、発信したりするよりは仕事のためにトレンドを検索したりすることが常だった。
だから、本当に偶然だった。
偶々、涼のアカウントが流れてきた。
懐かしくて思わず目頭が熱くなったけれど、社食にいたので何とか耐えた。
(涼、大人っぽくなったな)
当たり前だ。あれからもう5年も経ってる。
役者をやっているとは思わなかったけれど、音楽を続けていることがわかって嬉しかった。
そんな折、ひょんなことからライブに行くことになり、今に至る。
自分から距離を取った癖に、勢いに負けて会っている。
(いや、言い訳だな)
自分も、涼に会いたいのだ。
はぁ、と大きく一つため息を吐いて店に戻ると、何故か恨みがましい視線とかち合った。
「な、に……どうした……?」
「いえ、取り敢えず乾杯しましょ。折角ですし」
「あぁ、うん」
涼の神妙な面持ちに多少気圧されながら返事をする。なんだ。なんか怖いな。
「じゃあアタシも一緒に乾杯しちゃお」
「……お前な……」
楽しげに入ってきた朔夜の片手にもビールジョッキが握られていて、3人で一緒に乾杯する。
あの頃にはこんな日が来るなんて思ってなかったから、ただ純粋に嬉しい。
「ユキさん、お願いがあります」
「え、はい」
ジョッキの3分の1ほどを呷ってから、涼が真剣な顔でこちらに向き直った。
その雰囲気に、思わず敬語で姿勢を正す。
涼は完全に体ごと俺の方を向いて、何かを決意したような目をしていた。
「俺と、結婚してください」
「けっ……こん……」
「はい」
驚きすぎてうまく口が回らないオレの後ろで、朔夜が叫んでいる。もう本当にうるさい。
「きゃー!! やだ急にプロポーズだなんて涼くん!! えっ、なにドラマ!? カッコ良すぎない!?」
「朔夜うるせえ」
「やだごめんなさいねぇ、うふふふ」
不気味な笑い方をスルーしてもう一度涼を見ると、真っ直ぐにこちらを見据えてくる。
「本気で、言ってる……?」
「俺はいつでも本気です。ユキさんが言ったんですよ、20歳越えてから出直してこいって。出直しました」
「や、そんな言い方はしてない、けど」
「ね、絶対好きだって言ったでしょ?」
可愛くない。昔に比べて随分遠慮がなくなった。本当に可愛くない。けれど、変わらない真っ直ぐさと強さが眩しい。
「はー……」
開き直ったこの後輩に、再会した時から勝てる気はしていなかった。
これも、言い訳かもしれないけれど。
「朔夜、会計」
「えっ! 来たばっかで!? ちょっとアタシ目撃者になりたかったんだけど!?」
「あ?」
「わかったわよぅ……後でちゃんと報告しなさいよねっ! 今日はアタシのオゴリにしといてあげるから!」
「了解」
立ち上がって涼の腕を引く。覚悟は、できた。
「え、え? ユキさん?」
「行くぞ」
「行くって!?」
「ウチ」
「ええ!?」
驚く涼を見たら、仕返しができた子供みたいに楽しくなってしまった。




