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現在ー彼の告白ー

 バタバタしていた舞台稽古も本番も、幕が上がればあっという間に終わってしまった。 

ユキさんは公演中一度だけ観に来てくれて、くれた感想は一言。


『面白かった』


 いや、あの人にその辺の期待はしてない。面白かったと言ってもらえただけで嬉しい。嘘じゃないです本当です。因みに始まってすぐは俺がどの役かわからなかったらしい。

バチバチにメイクしてるしウィッグ被ってるしね、仕方ないね。もうちょっと俺に興味持って。


「はあぁぁー」


 まあ、そんなことどうでもいい。今はこれからの待ち合わせの方が問題なわけで。

約束していた日が来てしまった。

時間よりも早く着いてしまって、大きくため息を吐いて緊張を逃している。どうしよう。いや、どうしようもない。

この間のことで、多少の気まずさもあるし。それを気にしてるのは俺だけだと思うけど。


「……大丈夫」


 自分に言い聞かせる。そもそも酒を飲むだけ。飲むだけだ。ユキさんと飲めるのは俺だって楽しみにしていたんだから。あの人が忽然と消えなければ。


「涼」

「うぉっ、お、疲れさまですっ」


 いつの間にか目の前に立っていたユキさんに驚いて変な声をあげてしまった。気配、気配を察知させて下さい。


「ごめん、待たせた」

「いえ、全然!」


 慌てて姿勢を正し、改めてユキさんに向き直る。

ロング丈のカットソーに黒のインナー、細身のジーンズと柄物のハイカットスニーカー。

この人自分を生かす格好をよく分かってるなと毎回思う。オシャレだし、それがめちゃくちゃ似合ってるし、今度全身コーディネートしてプレゼントするから着て欲しい。ごめん、最後のは願望。


「行きましょうか、時間早いです?」

「いや」


 冷静を装いながら歩き出す。

そう言えば店はユキさんが連れて行ってくれると言っていたけれど、詳細については聞いていない。

歩き始めてから数分で有名な歓楽街に入ると、ちょっと派手なネオンの看板があるビルの地下へと足を踏み入れた。

連れて行かれた場所に内心驚きながら、ユキさんがガラス扉を開ける様子を見ていた。


「はぁーい、いらっしゃいませー! ってあらユキじゃない!」

「2人なんだけど」

「大丈夫よ、カウンターでいいなら好きに座って」

「ん」


 やっぱりここ、そういうバーですよね?

さすがに今まで足を踏み入れたことがない場所だ。


「ユキにツレがいるなんて初めてじゃない? やだー、ついに春? 春来ちゃったの?」

「……こいつの顔よく見ろ」

「え?」


 落ち着かない俺を指差してユキさんは言った。カウンター越しにその人と顔を見合わせると、どこかで見たことがあるような、いやすげーあるな。


「朔夜、さん?」

「ええええええええええ涼くんんんん!!?」

「あ、お久しぶりです」

「ちょっとおおおお連れてくるなら連れてくるって言ってよあんた馬鹿なのぉ!? てかいつの間に再会したの!? アタシなんの連絡も受けてないわよ!」

「4ヶ月くらい前」

「一言で終わらすんじゃねえ! たんまりあんだろが報告がよぉ!」


 まさかすぎて俺も言葉が出ないほど驚いてるんで、ユキさんはもう少し報連相を身につけて欲しい。


「朔夜さん、お店やられてたんですね」

「そうなのよ。3年くらい前にね。ごめんね涼くん、ビックリしたでしょ? こいつ本当言葉足らずだし、アタシはこんなだし……」

「いや、はい、驚きはしましたけど、朔夜さんと会えたのは嬉しいです」

「ねえこの子ホントいい子ね! なんか大人になって更にいい男になったわ涼くん」

「あ、ありがとうございます」


 朔夜さんとも随分会ってなかったから、こうして会えたのは普通に嬉しい。でもユキさん、これは朔夜さんとは連絡をとっていたと言うことでいいのかな?


「……ユキさん、誰も連絡取れなくなったって聞いてたんですけど」

「あー……元のバンドメンバーとは、取れる」

「俺は穂澄さんに嘘をつかれていたということですね」

「………ごめん、オレが頼んだ」

「いえ……わかります」

「まぁまぁ! ほら一杯目なに飲む?」


 事情が分かるだけに怒っているわけではないが、微妙に凹む。あの頃の自分が何かできたわけでもないし、確かにガキだった。

ただ、やはり何も出来ることは無かったんだと再確認してしまって、情けなくなる。


「取り敢えず生。あとごめん、ちょっと仕事の連絡だけしてくる」

「あ、はい」

「涼くんは?」

「あ、じゃあ俺も生ビールで」


 席を立ってスマホ片手に外へ出ていくユキさんを見送ると、ことりとビールジョッキとつまみが目の前に置かれる。


「ユキはね、涼くんを巻き込みたくなかったのよ」

「え……」


 困ったように笑いながら、朔夜さんはそう言った。


「涼くんは取り分けユキと仲が良かったから、余計な火の粉を被って欲しくないって。まだ若い涼くんにはこれからがあるのに、自分と関わったことで潰れて欲しくなかったのよ。あいつ、アタシたちにも自分が勝手にやったことにして知らぬ存ぜぬで通せって言ったの」

「……」

「馬鹿よね。あなたに言い訳するよりも、あなたやアタシたちを守ることを優先したの。ユキの精神も限界だったのにね」

「……なん、ですか、それ」


 そんなの聞いてない。聞かされるはずもない。あの人が優しいなんてわかってた。

わかっていたのに。


「言い訳くらい、して欲しかった」




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