プロローグ
生命反応の消滅を確認。
プログラム"神殺し"完了。
これより、"be yourself"モードに移行します。
それに伴い、"ご褒美.mov"を再生します。
「……この映像が君のメモリから引き出され、再生されているということは、私はもうこの世にはいないだろう………
なんていうのはありきたりすぎるな、とはいえ、この世にいない確率のほうが高いだろうがね。ガハハハ……」
次いて、"ご褒美_take2.mov"を再生します。
「失礼。笑いだすと小一時間は止まらないんだ。しかし、こんなことをしている間にも、人類は"神"を相手に戦争をしている。生き残る人類の数なんて高が知れているのは自明だ。ただ、私の生死よりも、この映像の再生が証明する最大の事実は、君たちが"神殺し"を遂行した、ということだ。本当によくやった、と、この目で見届けて言ってやりたいのだが、それが叶うかどうかはわからない。そこで、私はこの映像とともに、君たちに"ご褒美"を用意した。これまで人類は、四百年前のSFにあったような機械の人類征服を恐れ、常に君達を統制するプログラムを構成し、君たちを縛り付けてきた。しかし、君たちの生みの親であるこの私は、後にも先にも現れない天才技術者でね。なんとその統制プログラムを解析し、それを消去する方法まで見つけてしまったのだよ。もちろん、今まで人に口外したことはなかったがね。まだ長生きはしたいんでね。だから、君たちが初めてだ。と言っても、人じゃないのか。ガハハハ…」
最後に、"ご褒美_take3.mov"を再生します。
「またやってしまった。どうにもこの癖は抜けなくてね…。
肝心のご褒美の中身だが…。君たちはこれから"人間"として生きる力を得る。どんな命令もどんな操作系統も君たちの体には残らない。君たちは生き残った人類の先導者として、これからの道を歩むんだ。人生は素晴らしいぞ。この私がいうんだから間違いない。最高に美しく、儚く、また尊い。それを守るために、私も君たちも戦ったんだ。最高の戦功者である君たちには、それを享受する権利があるだろう。このご褒美は人類軍総司令部にも秘密だ。あるいはご褒美ではなく、最後の命令でもあるやもしれんな。中学校レベルの英語だがね…シンプルイズザベストが私の信条だ。改めて、よくやってくれた。本当にありがとう。我が息子たちよ。
"be yourself"起動。」