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厨二病患者は擁護できません


 ◇



「本当ーーーーに、ありがとうございました!!!」

『助けていただきありがとうございました!!』


 助けられた冒険者達は何度も何度もこちらが大丈夫だと言っても頭を下げお礼を伝えてきた。


「君達が無事で何よりだ。それに先輩として助けるのは当然だからな」


 頰をぽりぽりと掻き居心地が悪そうに視線を逸らす。


 俺自身普通のことをしたまでだし。そんな畏まられるのは慣れていないからできれば全員で頭を下げるのはやめて欲しいんだけど…なんか俺の顔をキラキラとした目で見てくる少女に関しては俺の方に手を合わせてるし。俺は神かなんかかな。


 「参ったな」と密かに思いながら冒険者達の想いは無碍にせず受け取る。近くから聞こえてくる足音を聞きここにくるまでの経緯を思い出しながら。



 ◇◇◇



 あの後一人で魔物を殲滅させた。魔物をある程度倒すと魔物達は自然に消え、そのことに冒険者達は安堵から人心地。

 フロアが2階層という低階層のことも助かっている。数は多くても所詮初心者用のフロアに生息している下級の魔物。昔はともかく今は烏合の衆も同然。勝負になどならずほとんど一方的な虐殺となっていた。


「……」


 「この頃冒険者。それも初心者が消息を断ち戻らないことが多いから偵察してきてくれないか?」とカインさんから聞かなければ目の前の冒険者達を助けられなかった。

 ただおかしな話だ。冒険者達が行方不明という話もそうだが2階層で「増殖の罠」が発動した実例など聞かない…知らないだけで今回のケースのように稀にあるのかもしれない。でも…今回の行方不明も合わせてどうもきな臭い。裏で何かが起きている可能性も捨てきれない。


「ボールス。俺達は冒険者(こいつらの)護衛ついでに冒険者組合(ギルド)に一旦戻るがお前はどうする?」


 色々と考察していると増援で来た青髪の同期冒険者クトリに話しかけられる。


「ん? あぁ。俺はもう少しこの場に残る。少し調べたいこともあるからな」

「そっか。なら俺達は先に戻るわ。心配はしてないがこの頃物騒だから用心しろよ」

「あぁ。クトリ達もな。彼らを頼む」


 返事を聞いたクトリはそれだけ言うとボールスに背を向ける。


「おう。んじゃな。ほらお前らも行くぞ」

『は、はい!』


 冒険者達は何か言いたそうに見ていたがクトリ達の後をついて行く。


「……」


 自分一人だけになった。一応周りを見て誰もいないことを確認する。


「…さて。案外近くにヒントがあったりな。“視てみるか”」


 俺は【ブースト1段階(アインス)】を使用した状態で目に力を込める。あの時シノとの戦いで魔力の残滓を視た時のように。


 各階層には一フロアが5つから8つと枝分かれしていて今いるフロアに違和感を覚えた。結局「増殖の罠」の触媒は見つからなかったことも含めて怪しんでしまう。


「【ブースト1段階(アインス)】でダメなら前回同様、その上を使うが…」


 あの時の感覚を思い出しながら目を細めて集中する。頭の冴も視界も研ぎ澄まされるような感覚が…すると薄らと白いモヤのような物が自分がいるフロアから壁に沿って伝っていることがわかった。


「! 視えた」


 白いモヤ…魔力の残滓を見るこの能力を「スキル外スキル」と呼んでいる。それは単純に「ステータス」に正式なスキルとして反映されていないから。


「しかし妙だな。壁? 確かダンジョンの壁は破壊不能だ。でもその先までモヤは伸びている…行ってみる価値はある、か」


 少し不安になるも意を決してモヤを伝って壁に進む。モヤが伸びる先。壁の周辺を見てもそこら辺のダンジョンの壁と遜色ない。


「普通の壁だよな。触ったら通れるとか馬鹿な話があるわけ…あるのね」


 壁に右手を置くと何か透明の膜を通り抜ける感覚があった。手首から先が壁と一体化している状態なのでなかなかシュールな絵面。何度か腕を出し入れしたが問題はなさそう。


「うし」


 腕だけではなく自ら壁の向こうに入ることにした。何があるか気になる点も考慮して直ぐに脱出できる体制を作りながら。


「――っ」


 無事通り抜けれた。ただその空間に足を踏み入れた瞬間、さっきまでは感じなかった血と腐敗臭が混じった血生臭い臭いがボールスの鼻を刺激し、その凄じい臭いに嗚咽を漏らす。手で鼻と口を押さえるが顔を顰めてしまうほどの悪臭。背負っているバックから布を取り出して口元にあてがう。


「…やらないよりはマシだがこの臭いは大分堪えるな。この異様な臭気のお陰で嫌な予感は的中したが…この先に何かあるな」


 俺はまだ白いモヤが先に伝っていることを確認した。周りの光源は魔光苔ぐらいなので薄暗い。魔力で強化した視力で見て、音を立てないように慎重に進む。


 少し進むと階段が見えてきた。その間魔物や人とは出会っていない。


「階段か。いよいよ怪しくなってきたな。こういう場合は黒幕が下で待っているのがお決まり(セオリー)だよな…油断せずに」


 一呼吸入れ、内心少しワクワクとしながら棍棒を構え一段一段下る。階段で鉢合わせたら誰だろうと問答無用で殴ろうと決めていた。こんな場所にいる奴は全て悪人(偏見?)。


「光?」


 階段をかなり下ったときさっきまで魔光苔の淡い光しかなかったのに街中にあるようなランプの光源が見えてくる。


「それもなんだこの量の白いモヤは…これが全て魔力だと言うのか…」


 ゴクリと唾を呑み込む。嫌な予感がしたのでまずは気配を押し殺して階段の角から顔を少しだけ出してその先を伺う。


「――――」


 そこには炎が立ち昇るトーチが並ぶ祭壇。その他は特に他の洞窟と変わらないが面積はかなり広そうだ。よく目を凝らすと祭壇の近くに黒いローブを纏い包帯が巻かれた両手を組み何かを拝む人物がいた。上手く聞き取れないが何か呟いている。


 何をやってるんだ? 呪文、詠唱のような言葉が聞こえるが…明らかに怪しいな。


「――そこにいるのはわかっているのですよ。出てきなさい」

「――ッ」


 不審に思っていると突如その人物は振り向きもせず隠れている存在を知っていると言うような言葉を仄めかす。ボールスは声を上げることはなかったが内心冷や汗ダラダラだ。


 不味いな気づかれていたか。どうする?…気づかれているなら姿を晒すか。だが…。


「――バレてしまったようですね」


 自分が姿を見せるか悩んでいると少し離れた場所から声が聞こえてくる。その人物は祭壇にいる人物と同じ格好をしていた。


 あ、危ねぇ。他に誰か居たのかよ。


 バレていないことに安堵した。それでも口を押さえる手に自然と力が入る。


「して、様子はどうですか?」

「えぇ、順調です。馬鹿な冒険者がノコノコとこの地に訪れてくれるから“生贄”の供給が安定しています」

「それはなにより。後は時間の問題ですね」


 二人は互いに近状の報告でもするかのように話し合っている。どちらとも黒いローブを纏っていて見分けがつかないので祭壇に初めからいた黒ローブを不審者A。後から来た黒ローブを不審者Bとする。


「はい。我らの宿願は直ぐそばです。我らが主に祝福を」

「祝福を」


 そんなことを話す二人は妖しく嗤う。


 生贄? 主?…何を言ってやがる。カインさんが言っていた冒険者の失踪事件の原因はコイツらか?


 そう考えた俺は少しでも情報を手に入れる為にもう少し様子を見ることにした。


「――“第三開門”に昇格して漸く“福音”が体に浸透してきましたよ」

「おぉ! そうですかそうですか。貴方も早く私のような“第二開門”になるのですよ」


 不審者Bの言葉に不審者Aが喜ぶ。


「そうですね。あぁ、この禁忌に触れる感覚がたまりません。見てくださいこの封印の進行が進んだ右腕を!」


 不審者Bが包帯で巻かれた右腕を掲げる。


「それは素晴らしい。ただ慢心はいけませんよ。私が貴方と同じ時期には既に『信徒』としての力を授かっていましたからね」

「さすがです」

「ふふ。貴方も時期私に追いつきます」


 そんなわけのわからない話が不審者ABの間でされていた。


 コイツら…ただの”厨二病患者“なのかもしれない。


 初め頭のおかしなカルト集団かなんかと思っていたが違った。話を聞いていて緊張など吹き飛び冷めた目を二人におくる。


 いるよねぇ〜良い大人になっても思春期に見られる背伸びしがちな言動をする輩。見ているこっちが恥ずかしいわ 。格好と言動から察するに恐らく周りが頭のおかしい連中しかいなかったか教育が行き届かず空想と現実がごっちゃになってるのだろう。南無三。


 二人に一礼。ただ生前自分の周りに厨二病と呼ばれる人種がいなかったので興味本位で聞き耳を立てる。


「――貴方は娼館通りの娼館には寄りましたか?」


 不審者Aが問う。


「いえ、まだです」

「そうですか。この街の娼館は王都ほどではないですがレベルの高い娼婦達がいましたよ」

「なんと! お気に入りはできましたか?」

「ふふ。貴方も気になりますか。私はエルフのイーリアさんがとても気に入りましたね。清楚の中にある大胆さとその大きな乳房は眼福でした」

「ほほぉ、貴方も好きものですね…私も気になるのでこの後行ってみます」


 厨二病談話はどうした! 何娼館の話なんてしてるんだよ!!…ただエルフのイーリアさんねぇ。ふーん。へー、ほーん。


 正直反射で怒ったが厨二病談話よりも二人が話す娼館の話が気になり「エルフのイーリア」という人物の名前を心のノートに書き記す。


「――この年になってもまだまだ若者には負けませんよ」

「ふふふ。我々も年をとったと言ってもまだ現役。女性達をテクで鳴かせましょう」

「貴方はどんなプレイがお好きで?」

「私は幼子プレイが好きですね。たまに母性が知りたくなるのです」


 なんか話の路線がまた違う方向に向かっているように感じるが…うむ。


 当初の予定を忘れているのかまだ聞き耳を立てるのをやめない。


「私は〇〇○(ピーー)よりも〇〇○(ピーー)を好みますね。動物の本能と言うのでしょうか。相手が〇〇(ピーー)姿は堪りませんね」

「ほほう。〇〇○(ピーー)。通ですね。私も好きですがやはり安定の〇〇○(ピーー)です」


 おい。もう猥談というか伏字がありすぎて何を話しているのかわからねぇよ…いやさ、ナニの話なのは確かだが…。


「ははは、○〇〇(ピーー)


 ナニ笑ってんねん。どつくぞワレ。


 不審者Aの笑い声を聞いてキレる。


 今も〇〇○(ピーー)〇〇○(ピーー)と放送禁止用語を使い話し合う二人を見て思う。コイツらは生きてちゃダメだ。ここで仕留めなくては。


「――」


 口元を押さえていた布をしまうと棍棒片手に無謀にも二人の前に姿を晒す。


「! 誰だ貴様は!」

「怪しい奴め!」


 猥談をしていた二人はボールスの存在に気づき急いで持っていた武器()を構える。そんな不審者達に物申す。


「お前らだけには言われたくないわ! この不審者共が!!――【スイング】!!」


 不審者との距離は約三メートル。本気の【スイング】を放つ。


『ぐわっ!?』


 棍棒を振り回すと暴風と空間を震わす振動が発生し【スイング】から生まれた真紅の斬撃、『魔刃(マキガ)』が不審者を襲う。


 対話をせずにいきなり攻撃を仕掛けてくるとは思っていなかったのかボールスの攻撃をまともに喰らい不審者が吹き飛ぶ。

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