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ツヴァイ


 


「――どうしたどうしたどうした!! もっとボクを楽しませろよ!!!!」

 

 楽しそうに可笑しそうに嗤いながら叫びながら悪魔のようにこちらに無数の不可視の攻撃を放つ。


「ぐっぅぅ…」


 建物を背にして猛攻を耐える。耐えるしかなかった。


 「シノ」という人物が名前を告げた直後、攻撃の雨に曝されたボールスは【スイング】で何発か相殺した。それでも全てを防げるわけもなく体中に攻撃を受けた。

 死屍累々の中好機を見つけるために抵抗したが今は両手、両足。左目を貫かれ上手く動かせず。体中血だらけ。建物を背にして息も絶え絶え。【ブースト1段階(アインス)】も切れてしまい為す術が無く身を隠すのが精一杯の状態。


「ほら! こいよ! 出てこいヨォ!!」


 シノは相変わらず狂人じみた奇声を上げながら楽しそうに追い詰める。


 くそ。やっぱ俺じゃあ無理だ。このままじゃ本当に死ぬ。俺が生きているのは奴が手加減して俺を嬲り殺すためだろう。

 どうすれば――いや、一つ。一つだけ方法ならあるのか。でもあれ、使う時も使った後も、キツイんだよなぁ。


 そう思っても猶予はもう無い。魔力も底をつくギリギリだ。血も流しすぎた。このままでは魔力も底をつき本当に嬲り殺しにされてしまう未来しかない。


「――ふぅ」


 肺が痛むが一つ呼吸を入れ、決心する。その目はまだ死んでいない。


 一か八か。


「――我。力を求む者。過酷なる不可に耐え忍び楔を解く、【ブースト2段階(ツヴァイ)】――がァッ!!」


 少しでも動かすと痛む右手を無理に動かしてでも胸に掲げ詠唱を唱えた。瞬間体中に今までの比ではないほどの激痛が走る。その痛みに顔を歪め耐えながらも自分の身体から蒼白いオーラのようなものが溢れて体の奥底から力が湧き出てくることを実感した。それとは別に疲労感も増してくる。



 【ブースト2段階(ツヴァイ)


 【ブースト1段階(アインス)】よりも強固な身体能力向上のスキル。膨大な使用魔力と使う時の負荷と使った後の代償があり諸刃の剣もいいところだ。一度実験として試した時は今後使いたく無いと願ったスキル。



「――使いたく無いと思っていたそばから使う羽目になるとは。けどこれで、動ける」


 自分の動く手足を見て思う。それでも無闇に相手の目前に出るのは得策とは言えない。


「目に見えない攻撃が厄介だ。戦っていてシノ()の身体能力も高いことがわかる。まずはこちらの攻撃を与える決定打がないと…」


 攻撃を当てると言っても残り魔力は極僅か。それも【ブースト2段階(ツヴァイ)】を使ったことで動けるようになっただけ。


「魔法。スキル。どちらにせよ魔力が籠るものなら目で見えそうだけど。そう言ったスキルも持ってなければ自然とできる道理はないし。いや、今の俺なら【ブースト2段階(ツヴァイ)】を使った今なら…」


 そう思い今もこちらに猛攻をしてきているシノの方に目を細めて集中する。


「――いける、かも」


 目には薄らとだけどシノ(あいつ)が攻撃をする際に右手や左手から白いモヤのようなモノが発生しているのが確かに視えた。


 ボールスは気づいていないが自分の目の周りがぼんやりと淡く発光している。


「辿ったら…俺目掛けてナニかが飛来してきてる…これは、魔力の残滓?…だとしても」

  

 ただ魔力らしき物が感知できるようになっても苦渋の決断になる。一歩間違えたら自分は死ぬ。そしてシノ(相手)は本気を出しているのすら怪しい。


「…だとしても、だとしても。やらなくちゃ他の誰かが奴のターゲットになりかねない。何が目的か知らんが街に魔物を呼ぶ頭のとち狂った野郎だ」


 俺はそこで揺らいでいた決心をねじ伏せて覚悟を決める。


「――【スイング】!!」


 シノが攻撃を放った直後を見計らって無理矢理動くようになった右手で棍棒をシノに向けて振るった後に自分も躍り出る。身体中からギシギシという嫌な音が鳴り、じせつ痛みが増し立っているのも億劫になるがそれでも歯を食いしばり立ち向かう。


「イィィタァァァ!!」


 ボールスが放った真紅の刃を簡単に弾くとローブで唯一見える口をニタリと歪ませる。


 その時に薄気味悪さを感じたが気にすることなく俺は突っ込む。シノは初期位置から動いておらずまだ建物の屋根の上にいる。


「ドブ鼠のようにコソコソと隠れるのはもう終わりかぁーー?」


 人間とは思えない狂気じみた声を上げて攻撃をしてくる。微かに見える魔力の残滓を辿って身体能力が向上した体で躱す。いなす。躱す。躱す。躱す――


「――はっ! 窮鼠猫を噛むって言葉は知ってるかぁ? 油断してるとその首根っこ噛みつくゼェ!!」

「やれる物ならやってみろよ! 雑魚がァァ!!!!」


 シノが向けてくる右手に今までの比じゃないほどの高出力の魔力が貯まるのを感知した。その魔力に目をくれずシノがいる建物に突っ込む。


「言われなくてもやってやるわぁ!!!!」


 攻撃を躱すついでにシノがいる建物を棍棒でどつく。「バキャッァァァ」という音が鳴り建物の壁に亀裂が入る。それを何度も繰り返す。


「オラァ! 砕けろ! 壊れろ! 崩壊しろヤァ!!」



 建物への攻撃を繰り返すこと5回ほど。建物は「ドシャァァッァ」という音を立てて崩れる。


「チィッ!」


 ボールスの不可解な行動を辞めさせようとしたがシノがいる位置からは射程範囲外で止めることができない。

 そうこうしているうちにシノが居た建物は崩壊した。舌打ちをして隣の屋根に乗ろうとしたところをボールスの【スイング】が追うように追撃する。


「あぁ鬱陶しいなぁぁ!!」

「その言葉、テメェにそっくりそのまま返すわ!」

「なんで君がここにィィ!?」


 放たれた真紅の刃を弾く。その時シノの真後ろからボールスの声が聞こえ、狼狽える。


 簡単な話。シノが居る建物に向けて【スイング】を連続で5回放つ。そのままシノにバレないように【スイング】を放ち真後ろに回り込んだだけだ。【ブースト2段階(ツヴァイ)】ありきの限界を超えた素早い荒技だがなんとか後ろをとれた。


「とった!!!」

「図に乗るなよ、三下ぁぁ!!」


 棍棒を両手で持ち本気のスイングを放つ。シノは振り向き様に右手を振るい攻撃を放つ。


 「パン」という甲高い音が鳴り棍棒が吹き飛び、棍棒を握っていた右手に激痛が走る。


「ぐうっ…あぁぁ!!」


 棍棒(武器)を失くした俺はシノから放たれた攻撃が自分に直撃しようが目の前のシノに身のままで抱きつく。そのまま隣の屋根へ移る。


 何故か初めの屋根から動かなかったシノ。「ボクをこの場から動かしてみろよ」という強者の余裕なのかそれが攻撃をするための条件なのかは知らないが、隙を作れた。


「終わり、だぁ!!」

「きゃ!!」


 自分の命を代償にした捨て身の特攻。【ブースト2段階(ツヴァイ)】の怪力を使い体を潰そうとした。だが何かおかしい。抱きついたらやたらと体が柔らかい。感覚が薄れてきているから気のせいかもしれない。

 「きゃ?」とは女性みたいだなと思いながら絶対に逃がさないためにシノの胸まで感覚が既にない腕を回した。すると「ふにゃり」という不可解な感覚が。


「観念しろ!」

「……」


 何が何なのかわからないがいきなりおとなしくなったシノを逃がさないために抱き締める両手に力を込める。


 うぇっ。なんか甘い香りがする。男が変な香水つけんなよ。日本でも居たが自分じゃわからないのかな?


 そんなことを思いながらも自分の体力とシノの体力どちらが持つか勝負。シノを抱き締める腕に更に力を入れる。男同士で抱き合うのなんて死んでも嫌だが今はそんなことを言っている場合ではない。


「う、あ、んっ」

「いぃぃ!? うげぇ!!」


 そんな時シノが妙に艶の入った気色の悪い声を上げたことにより腕を離してしまう。


「あ」


 屋根の上だったこともありバランスを崩した俺はそのまま地面に墜落。


「――ガハッ!」


 「しまった!」という思いはあったが既に限界を超えていた体では受け身も取れずに地面に体を強打してしまい倒れたまま体を動かせそうにない。


 やべ、気持ち悪いからって気が緩んだ。【ブースト2段階(ツヴァイ)】ももう切れた。万事急須か…。


 悔しい思いが募るがやることはやった。自分の一つのミスで好機を逃し負けた。

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