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白猫からの勧誘



 北門から街に戻ってきた俺は少し早足である場所に向かう。目指していた場所近くになると見知った顔が見えてきた。


「お、ボールスか。今日も『野良狩り』お疲れさん」

「うす。カールじいもお疲れ」


 額に鉢巻をしているガタイのいい老人に声をかけられた俺は挨拶を返す。この俺に話しかけてくれた人物はラクシアに転生した際に初めて声をかけた武器屋のおじさん。武器屋「鉄心」の店主の「カール・ラッセガル」さん。通称「カールじい」。


 白髪の短髪に皺が多い厳つい顔。黒色のたすきに白色のズボン。仲良くなると今のように笑みを見せてくれるとても気さくで気の利くおじさん。あの日棍棒を購入してからの付き合いで今も新しい棍棒に新調してメンテナンスも頼んでいる。


 そんな俺の武器は棍棒一択となっていた。


 改心(笑)してからも『冒険者ギルド』からよく思われていなかった。そのため魔石の売却も上手くできなかった当時、カールが魔石の売却を請け負ってくれてその他も親身になってくれた大恩人だ。



「おう。そう言えばボールス。“また”嬢ちゃん来てるぞ。顔出してやれ」

「…またか。わかったよ」


 カールじいから「嬢ちゃん」と聞いた俺は“わかっていたこと”だが少し仏頂面になる。その顔を見てカールじいは楽しそうに肩をバシバシ叩いてきた。


「カァー、モテる男は辛いねぇ」

「いて。いてて、別にモテてないから」


 肩を叩かれながらも自分が「モテない」ことなど知っているので否定する。


「そうか? 今の改心したお前さんなら物腰柔らかいし話しやすいと良物件だと思うのだが。彼女や妻ができてもおかしくないな。結婚披露宴はわしがスピーチでもやってやろうか?」

「やめてくれ。そもそも彼女とは付き合ってないよ」

「ま、上手くやれよ〜」


 カールじいの声を背に待ち人の元へ向かう。カールじいが経営する武器屋の隣にはカールじいの息子夫婦が営む宿屋がある。

 カールじいの知り合いということでその宿屋に泊まらせて貰っている。今では宿屋の主人、奥さんと娘さんとも良好な関係を築いている。


「この先に待ってるのか。あ、また胃が痛くなってきた…」


 あることを思い出した俺はキリキリと痛む胃を押さえ少し体調が悪そうに顔を青ざめながら宿屋「日の園」のドアの取手を掴み開けて店内に入る。

 中はかなり広く綺麗だ。ドアから少し離れた場所にある木製でできたカウンターに立つ肌色の衣服を着る妙齢の優しそうな女性と食事をとるスペースの各テーブルに残る食器の配膳をしている赤色のエプロンを着る若い美人な女性が居た。二人は俺に気づくと会釈をしてくれるので俺も会釈を返した。どうやら店主は見当たらないらしい。


「えっと…」

 

 待ち人を探していたら休憩スペースのある一角を押さえこちらに手を振って来る――キャットシーのルル(待ち人)がいた。


「……」


 知り合いの姿を見てドアの前で立ち竦んでしまう俺に宿屋の女将のミアハさんと娘のミリナさんは苦笑いをしていた。


「ボールス遅い。遅刻したから罰として今日は一緒の部屋で寝る」


 出会って早々そんなことを恥ずかしげもなく真顔で言ってくる。彼女の本名は「ルル・マーシー」。

 自分のことを「うち」と呼ぶ白い髪の毛に前髪に水色のメッシュが入った短髪と無表情で眠たそうな目が特徴的。美人の女性だが胸の薄さが唯一の欠点。

 席の近くには自分の武器であろう赤色の籠手が置いてある。格好は黒色で動きやすそうであり肌面積が多い衣服。下は藍色のショートパンツなので生足が見えてしまい直視が困難。

 初め初心者冒険者だと思っていたルルは「A」ランク冒険者だった。その話を聞いた俺は驚いた。実質最上級冒険者にボールス(アホ)が知らずに声をかけたのだから。俺の驚く顔を見れたルルは御満悦だったが。

 ルルのジョブは『闘神』という格闘系統の最強ジョブで目で追えない速さと強さから『迅神の白猫(ホワイトキャッツ)』という通り名もあるそうでボールス(自分)の通り名である『初心者狩り』と比べて枕を涙で濡らした。一度手合わせをしたが一瞬でのされた。やはりこの世界の女性は強すぎると確信した。


 ルルは黒髪の青年ともう一人の少女の三人と共に行動をしていたが俺が恩人であり「ボールスのことを気に入った」とかで絶賛付き纏われている。

 俺としてはコルデー(聖女)の息が掛かっている存在だとルルのことを認識していてあまりお近づきになりたくない存在(勘違いだが)。カフェで働いていたのは趣味とお金を手に入れるためとか。そんなルルに呆れを含んだ視線を送る。


「約束してないだろ」

「ん。いまうちが決めた。だからボールスは従う」

「んな理不尽な」


 ルルの言葉に肩を落としてしまう。その時にルルが椅子に座りながら組んでいた足を組み直し太腿をわざと強調させる。おみ足をついつい見てしまう。


「んふ〜」


 俺の視線を感じたルルは小悪魔のように笑う。そのことにやっちまったと思う。


「うちもボールスに足を舐め回すように見られた。邪な目を向けられて大変不快感を感じたからボールスにはうちの言うこと聞いてもらう」

「…はぁ。わかったよ。聞くよ。で、今回はどうした?」


 「そんな視線向けてねぇよ」とか思ったがルルのいつもの行動にため息を吐きながら早々に負けを認める。押し問答しても無駄な時間だと知っているから。


「ん。今日こそボールスとパーティを組む」

「“また”その話か。前回もそうだが断っただろ。それに“ユート”が許さない」

「…ユートは関係ない。うちが決めること」


 俺の口から「ユート」という言葉を聞いたルルは不機嫌になり否定する。その姿を見た俺は「はぁ」とまたため息を一つ。


「いや、あのなぁ」

「何?」

「…なんでもない」

「変なボールス」


 俺の口籠る姿を見てルルは首を傾げる。


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