閑話 ゆがんだあい
少しでも楽しんで頂けたら幸いです!
◇
「――では、騎士さん達はボールス様の監視に出向いてくださいね〜」
『『はっ!』』
コルデーから命令を受けた騎士達はその言葉にただ従う。自分達の職務を全うする為にコルデーとレイアだけを残して部屋から出ていく。
「……」
その光景をレイアは何か言いたそうに見て、何も言えずに押し黙る。コルデーは隣に座るレイアの行動を見てニコニコと笑う。
ボールスが部屋からホテルから出たことを確認し、直ぐ様に騎士達に命令を出した。それはボールスを「監視」するという為、そしてもう一つ理由があった。
「レイアさーん、どうでしょうか〜私はよくやれていたでしょうか〜?」
コルデーは表情を崩すことなくレイアに問う。
「は、はい。聖女様はしっかりとやれていたかと」
問われた問いに「ビクッ」と一瞬肩を振るわせるが、間髪いれずに答える。自分が求めていた答えだったのかレイアの言葉を聞きぱあっと満面の笑みになる。
「そうですかそうですか〜!! レイアさんのお墨付きなら安心です〜はぁ〜ボールス様に「“嫌な子”」と思われていたらどうしようかと思いましたが、杞憂でした〜」
「聖女様を嫌うなんて、他の方でもそうですがボールス様に限ってありえないです」
「そうでしょうか〜?」
「はい。ボールス様は悪人になったと言っていましたが根がとてもお優しいお方です。なので今のボールス様もとてもお優しいのです」
ボールスのことをよく知っている(調べた)レイアは胸を張り自慢げに口にする。
「羨ましいですね〜レイアさんのボールス様への気持ちに私少し“嫉妬”してしまいます〜」
レイアの話を聞いたコルデーはわかりやすく頰を膨らませいじける。
「あ、いや。これは違くてですね。恩人のボールス様の情報を集めていまして、決してあのお方は聖女様を嫌う人ではないと思っていまして、その――」
面白いように慌てふためくレイアを見て右手を口元にやり上品に笑う。
「ふ、ふふふ。冗談ですよ〜だってレイアさんはボールス様に“憧れ"ているのですから〜」
「そ、そうですね。私はボールス様の性格、そしてあの思いやりの気持ちを尊敬し、敬意を払い憧れています」
コルデーが「憧れ」と口にした時、少し曇った表情を浮かべるがレイアは主の言葉に賛同する。
「「“恋”」とはこのようにもどかしいものなのですね〜」
ボールスに“始めから「好意」を持っていた”コルデーはボールスの前では絶対に言えなかった気持ちを吐露する。
コルデーは一目惚れだった。コルデーは初恋だった。初めての恋心にその顔は赤く熱った頰に熱を帯びた目をして切なそうに息を吐いてうっとりとしていた。
今もボールスのことを考えて胸が一杯なのだろう。
今までの話だけを見るとコルデーがボールスを嫌っている、という形に囚われてしまうが実際は真逆だった。
コルデーはボールスを嫌っていたわけではない。むしろその逆で好きだった。ではなぜボールスにその気持ちを言わず、酷い仕打ちをするかというと、それにも理由がある。
「その、聖女様。烏滸がましいことを言いますが、何故ボールス様に直接想いを告げないのですか?」
「…私はボールス様にちゃんと見てほしいからです。ですが、今のボールス様は私を「聖女」としか認識していません。“本当の私を見てくれません”」
間延びした口調をやめて自分で口にして悲しそうな顔を作る。
「ですが私は知りました。焦らして相手に気持ちを気付かせる方法を。その方法がボールス様に試練として「善行」を働いて貰うということなのです。ルクセリアの街の人にも良い印象を与えられますし『善悪計君一号』を肌身離さず持っていれば否応が無く私のことを思い出せるので一石二鳥だと思ったのです」
微笑むとそれが正解だと決めつけるように唯の少女のように無垢に純粋に言葉を紡ぐ。
「そ、そのような考えがあったのですね。浅慮な私には思いもつきませんでした。ですが、その…ボールス様から告白を、されたらどうするおつもりですか?」
「……」
その言葉を聞いたコルデーはぴたりと動きを止める。先程まで微笑みを絶やさなかった笑みを消す。
「――ッ」
ヤバイ、余計なことを聞いてしまったと思うレイア。どうすれば良いか模索していた時、それも杞憂に終わる。
「嬉しいに決まっているじゃないですか〜!!!!」
その場で顔を俯き体全体をプルプルと震えていたコルデーはいきなり大声を上げ、嬉しさを体全体で表現する。
コルデーの気に触ったわけじゃないと安心したレイアは一つ息を吐く。ただ目前にいる自分の主の顔を見てギョッとしてしまう。
「嬉しい嬉しい嬉しい、嬉しい。答えなんて初めから始めから当然に当たり前に絶対に否応がなく私の答えは決まっています。「はい」以外ありえません。あぁ、どうしましょう。私ボールス様に想いを告げられたらおかしくなってしまいます。好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで――大好きで愛おしくて狂おしい想いが溢れ出して昇天してしまいます〜」
突然その場に尻もちをつき自分の顔を両手で抱え、その綺麗な青い瞳を限界まで開き思いの丈を募る。
その顔はその姿は何か恐ろしいモノの片鱗を感じた。
「……」
見たこともない主の姿を見たレイアはどうしたら良いかわからなかった。
聖女――コルデーとレイアは幼少期から顔を合わし仲良しだった。だが今までこんなコルデーなど見たことがない。
少し危機感を感じたので違う話題への転換を試みる。
「せ、聖女様。「救世主」の件はどう致しますか?」
「……」
「救世主」と聞いたコルデーはピタッと動きを止めスッと表情を戻す。
「あぁ、そう言えば“そんな人”もいましたね〜ボールス様を「更生者」としてでっち上げることしか考えていませんでした〜」
特に何も考えていなかったのか無感情でどこか平坦な声を出す。
「そ、そうでしたか。ですが、ボールス様も恩人と言っていましたのでお会いした方が宜しいかと存じますが…」
「む、そうですね〜ボールス様の恩人なら一度会ってみても良いですね〜」
「そうでございますか。ではボールス様が言っていた外見で見つけてみますので聖女様はこちらでゆっくりしていてください」
「わかりました〜」
コルデーの返事を聞いたレイアは立ち上がり、お辞儀をするとその場を後にする。
◇
「――レイアさんも隠すのが下手ですね〜そんな切なそうな顔をしていたら貴女がボールス様を「好き」な気持ちなんてわかってしまいますよ〜」
レイアが部屋から出ていったことを確認したコルデーは始めからわかっていた。心の中を見通すようにクスクスと笑う。
「ただ〜恋は、恋愛は過酷なほど燃えるんです〜貴女が私の障壁として立ち塞がっても良いですが〜ボールス様は絶対に渡しませんよ?」
真顔のコルデーは顔に目になんの感情も灯さず、仄かに陰が差す目でレイアが出ていった扉をずっと凝視していた。
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「――はぁ、やはりこの気持ちは隠しておくのがいいのでしょうか。主と同じ人を好きになってしまうとは、せっかくお会いできたのに…ボールス様。私は――」
コルデーを一人部屋に残し、レイアは扉の前で幼子のようにしゃがみ込む。
自分の「憧れ」の人物であり15年前に助けて貰った時からずっと持っているこの儚い想いに蓋をしようと、するが。
「ボールス様。私はそれが決して叶わない恋でも貴方に「好き」だと伝えたい」
自分の想いを強く持つ。蓋をするではなく、この想いが報われなくても良いから無理でも伝えようと決心した。
これにて「カクヨム」でも投稿している分全て投稿するさせて頂きました。
次回の更新は不定期ですが。「カクヨム」に投稿する際にまた顔を出しにきます!




