8話 ジュエリーダンジョン
どうやら屋敷には仕事に行かなくていいらしい。
【ダンジョン攻略に集中せよ】とのことだ。給金も普段通り支払われる。
ドロップ品についても30階層の宝箱以外は自由にしていいそうだ。
父さんにダンジョンについて聞いてみた。
「父さん、父さんは東のジュエリーダンジョンに潜ったことありますか?」
「あるぞ。あのダンジョンは、レベルが高い。B級以上じゃないと厳しいかな。父さんもB級だが1階層でも大変だったな。擬態系のモンスターがでる。3階層までなら行ったことがあるが、大した宝石はドロップしなかったな。確か21階層からじゃないと高価な宝石は出ないらしい。最深部が30階層だったな。」
「・・・そうなんですね。」
「そんな簡単に金儲けは出来ないぞ。ははは。」
やはり攻略本か何かないと難しそうだ。しかし、30階層が最深部って酷くないですか?ダンジョンをクリアーするって事じゃないですか。
取り敢えず冒険者ギルドへ行くことにした。が、5歳の俺を相手にしてくれるとは思えないので学生のふりをする。この世界には学校はあるが貴族向けの学校しかない。一般の国民は学校には行かず働いている。ので貴族の学生のふりをし学校の自由課題でギルドについて学んでいることにする。当たって砕けろだ。
冒険者ギルドは東西南北にそれぞれ一か所づつある。一番近いダンジョンや森などの情報を手に入れ冒険者や国へ流す役割やドロップ品の買取も直ぐに行えるため、このような配置になっているらしい。で、ジュエリーダンジョンの情報を一番持っているのが東冒険者ギルドとなる。
受付のお姉さんに声をかける。さすがに5歳の子供に絡んでくる輩はいなかった。
「すいません。学校の自由課題で冒険者ギルドについて特にジュエリーダンジョンについて調べているのですが協力して頂けないですか?出来ればジュエリーダンジョンの攻略本か何かあったら買いたいのですが・・・。」
と言ったら受付嬢のメアリーさんは快く引き受けてくれた。
「こちらが攻略本です。3,000ロックになります。」
金貨1枚が10,000ロック、日本円で10,000円位である。なので攻略本は3,000円だ。この間ロデオ様から頂いた金貨で支払う。
「金貨1枚お預かりします。7,000ロックのお釣りです。ご確認ください。」
「では、ギルドについて説明させて頂きます。」
基本的には、ビクトリア様と父さんの話と同じだったが、復習のため聞くことにした。
やはり、B級以上が望ましい。擬態系モンスターが発生し、討伐すると魔石やモンスター固有の品がドロップするとのことだ。
擬態モンスターは、階を追うごとに強くなっていく。しかし、1から20階層までは、モンスターが強い割には、それに見合った品が出ない。それが理由で挑戦する冒険者が少ない。10階層と20階層のボスを倒すと宝箱の中に宝石と一緒に転移石が入っている。次回からは、その転移石を使って移動が可能となる。
転移石は冒険者ギルドで販売しているが高額であるため殆どの冒険者は1階層からスタートするそうだ。
取り敢えず10階層を目指すことにした。
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ジュエリーダンジョンに到着した。
ダンジョンの門は固く閉ざされている。門にギルドカードをかざす事で許可された冒険者のみ入ることが許される。では、早速かざしてみる。
「ピッ!」
「ゴ!ゴゴッ!ゴ~~!」
石が擦れる音が鳴り響く。【ん~かっこいい!】遺跡って感じで門や壁のいたるところに彫刻が施されている。素晴らしい。中は、そんなに広くない。一本道が真っ直ぐ続いている。道に迷うことは無さそうだ。
「!」
ジュエリーポーチが現れた。その名の通り宝石の袋だ。ただ、目や口がついていて笑っている。馬鹿にされているようで腹が立つ。が、心を落ち着かせて殴ってみる。
「パチン!」
エンシェントドラゴンと比べると手応えがない。空気を殴っているようだ。
「パチン!パチン!パチン!」
次々に倒していく。当然、ドロップ品も無いためボクシングの練習をしている様だ。あっという間に1階層のボス部屋の前に着いた。ボス部屋に入っている冒険者は居ないようだ。入口同様にギルドカードをかざすと開くらしい。
「ピッ!」
「ゴ!ゴゴッ!ゴ~~!」
【おお!冒険者って感じで感動する】
ちょっと大き目なジュエリーポーチが出現。
「パッチン!」
手応えが無さすぎる。ワンパンチで消滅する。代わりに宝箱が出現。
「…。」
飴玉ほどの宝石が一つ。ショボい、ショボ過ぎる。挑戦する冒険者が居ない筈だ。
2階層、ジュエリーポーチの大きさが一回り大きくなっているが1階層とさほど変わらない。
「パチン!パチン!パチン!」
「パチン!パチン!パチン!」
「パチン!パチン!パチン!」
階層ボスも数が増えるか大きくなるだけだった。
「…。」
ボスのドロップ品も飴玉ほどの宝石が一つ…。テンションが下がっていく…。これは無いよね。
あっという間に10階層、そして飴玉ほどの宝石1つと転移石…。
まだ、1時間も経っていないので11階層に挑戦する。
「パチン!パチン!パチン!」
「パチン!パチン!パチン!」
「パチン!パチン!パチン!」
「パッチン!」
「…。」
飴玉ほどの宝石…2個…。2個…2個…2個…と転移石…。って感じで20階層クリア…。何て効率の悪いダンジョンなんだ。しかし、思ったほどモンスターが強くない。21階層に挑戦です。
多少、手応えが出てきたものの簡単にクリアーする。
「パチン!パチン!パチン!」
「パチン!パチン!パチン!」
「パチン!パチン!パチン!」
「パッチン!」
「!」
21階層からは階層ボスのドロップ品が豪華になった。
宝石で装飾された短剣がドロップした。
21階層:装飾された短剣
22階層:装飾された腕輪
23階層:装飾されたカチューシャ
24階層:装飾された盾
25階層:装飾されたネックレス
26階層:装飾された剣
27階層:装飾された槍
28階層:装飾された弓
29階層:装飾された鎧
いよいよ30階層に挑戦です。
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遂にジュエリーダンジョンの最下層に挑戦だ。
話に聞いた様なレベルの高いダンジョンでは無かった。毒などの特殊な攻撃はなく物理攻撃だけであったのでカイトにとっては拍子抜けだったのだ。
ダンジョンに在りがちな罠も発動しなかった。実は、本人は分かっていなかったが、カイトが体が小さく体重が軽かったため発動条件を満たさなかったため全ての罠を素通りしていたのだ。
大人の冒険者だったら悲惨な目にあっていたことだろう。
「パチン!パチン!パチン!」
「パチン!パチン!パチン!」
「パチン!パチン!パチン!」
「パッチン!」
ジュエリーポーチの上位種を難なく倒していく。
さて、最下層のボス戦だ。
「ピッ!」
「ゴ!ゴゴッ!ゴ~~!」
最下層のボス部屋の扉が開かれる。
「!」
煌びやかな王冠とティアラをつけたジュエリーポーチだ。キングジュエリーポーチとクイーンジュエリーポーチだろう。
取り敢えず殴ってみることにする。
「バゴ~ン!バゴ~ン!」
「バン!バン!」
2匹とも風船のように弾け飛んだ。…。これでダンジョン制覇?したのだろうか?
豪華な宝箱が出現。開けてみると禍々しいオーラを放つナイフとネックレスが入っていた。何か特別な効果がありそうだ。
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「オン シュリマリママリ マリシュシュリ ソワカ」
「ゴシゴシ。キュッキュッ。」
「ゴシゴシ。キュッキュッ。」
「キラキラ、キラキラ。」
トイレ掃除をする。
烏枢沙摩明王様、いらっしゃいますか?」
「!何じゃ、どうしたのじゃ。」
「このナイフとネックレスを見て欲しいのですが…。」
「ん!おお!ナイフの形だが魔剣じゃな。それも闇属性の魔剣じゃ。ネックレスの方は、あらゆる属性に耐性を持っていて装備者を守ってくれるものじゃな。」
「なかなかの代物じゃぞ。どこで手に入れた?」
「ジュエリーダンジョンです。」
「そうか。そうか。なるほど。ビクトリアの依頼か。」
「そうです。そこで相談なのですが、これをビクトリア様に渡して大丈夫なのでしょうか?」
「…。カイト、ち、ちょっとスマン。腹の調子が悪くてのぅ。失礼する。」
「え、ちょっと待って下さい。烏枢沙摩明王様~。」
烏枢沙摩明王は、あっという間に消えていった。
「…。」
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結局、カイトはビクトリア様に渡すことにした。
「トントン。」
「カイトです。ビクトリア様いらっしゃいますか?」
「どうぞ。」
「失礼します。」
「ビクトリア様、依頼の品お持ちしました。」
「!。早かったわね。もうダンジョンを制覇したのねぇ~。私が見込んだだけはあるわね。うふふふ。私の可愛い専属執事さま。」
【ぞわぞわ】負のプレッシャーが襲ってくる。くぅ~。この人、30階層が最下層だって知ってて黙ってたんですね。酷いです。
「あの~。毎度毎度ナイフを首に押し当てるの止めて頂けないですか?」
「まあ。いいわ。」
結局、やめて頂けないんですね。会話のキャッチボールになっていませんから。そして言っている事と、やっている事が、ちぐはぐですから!
「これが、30階層のドロップ品です。」
ナイフとネックレスを差し出す。
「まあ!ナイフまで入っていたの?素晴らしいわ。私のための宝箱ね。うふふふ。」
「何て美しいナイフなの。そして、何て美しいネックレス。」
いやいや、どちらかと言うと禍々しく、どす黒いオーラを放っていますよ。それ…。
ビクトリアは、戦利品にうっとりと夢中になっている。気付かれないようにそっと退出することにした。
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「カイト。」
ロデオに声を掛けられた。
「何でしょう。ロデオ様。」
「いやぁな。大丈夫かと思ってな。その姉さまの専属執事になったと聞いたのでな。」
「…。大丈夫だと思いますか?」
「い、いやその、だよなぁ~。ははははは。またな!」
颯爽と立ち去るロデオ。
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ダンジョンのドロップ品の買い取りをしてもらうためギルドを訪れた。
「メアリーさん、こんにちは。先日はありがとうございました。」
「あ、カイト君。いらっしゃい。」
「そうそう。カイト君が来たらギルマスの部屋に通すように言われていたの。こっちへどうぞ。」
と2階のギルマスの部屋へ案内された。
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「君がカイト君か?私がこのギルドのギルドマスター【シュナイダー】だ。よろしく。」
「よろしくお願いします。カイトです。」
「ビクトリア様から話は聞いている。早速、本題に入ろうか。ジュエリーダンジョンのドロップ品の買い取りだったね。」
「はい。お願いします。」
装飾された短剣・装飾された腕輪・装飾されたカチューシャ・装飾された盾・装飾されたネックレス・装飾された剣・装飾された槍・装飾された弓・装飾された鎧・宝石が30個・10階層、20階層の転移石をテーブルに並べていく。
「…。こ、これを全て君ひとりで?」
「まさか。そんなことないですよ。僕はビクトリア様のお遣いです。執事ですから。」
「ははははは。そうだよね。その齢で制覇出来たら化物だよね。ははははは。」
「そうですよ。ははははは。僕は、ただの執事です。」
「じゃあ、ちょっとギルドカードを確認させてもらえるかな?」
雰囲気が変わった。顔が笑ってない。
「あ!家に置いてきました~。ははははは。」
「その首に下がってるの何かな?」
「あ、ただの身分証明書です。あは、あははは。」
「ちょっと見せてくれるかな。」
「嫌です。」
「いいから見せなさいって!」
「嫌です。」
ギルドマスターが強引に迫って来て押し合いへし合いになる。
「ぜいぜい。はあ。はあ。」
「こっほん。買取をするにはギルドカードが必要だ。決まりだから渡しなさい。」
ギルドマスターが仕切りなおした。
「そんな事、一言も言ってなかったじゃないですか?」
「いや~。すまない。説明不足だったね。それと君の情報は、他言しないと約束しよう。それじゃ拝借するよ。」
強引に奪おうとする。カイトはギルドマスターの右手をかわす。
「本当に約束ですからね。」
「ギルドマスターの名にかけて誓おう。」
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カイト・クロノア
冒険者ランク E ダンジョン挑戦可能
Lv: 85
Hp: 1831
Mp: 3815
筋力: 289
魔力: 1121
防御力:724
俊敏性:46
スキル: 虐げられるもの
加護: 玄武の加護
追加情報:ジュエリーダンジョン1階層ゲート通過、ジュエリーダンジョン2階層ゲート通過……ジュエリーダンジョン30階層ゲート通過。
と色々な情報が映し出される。ダンジョン攻略したかは記載されないものの各ゲートを通過が記録されている。門を開けるたびに記録されていたのだ。
「…。化物だな。カイト、お前は人間なのか?」
「…。多分、人間?ですよね?」
「まあ。分かった。ドロップ品は換金しよう。査定に時間がかかるので1週間ほど時間をくれ。」
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一週間後、ドロップ品の換金がされた。冒険者カードが銀行通帳の代わりになっている。換金はカードに記録される。現金が必要な時はギルドの受付で受け取ることが出来る。
21階層:装飾された短剣 金貨30枚
22階層:装飾された腕輪 金貨34枚
23階層:装飾されたカチューシャ 金貨32枚
24階層:装飾された盾 金貨46枚
25階層:装飾されたネックレス 金貨40枚
26階層:装飾された剣 金貨60枚
27階層:装飾された槍 金貨70枚
28階層:装飾された弓 金貨56枚
29階層:装飾された鎧 金貨100枚
10階層:転移石 金貨20枚
20階層:転移石 金貨100枚
宝石ドロップ品各種 金貨140枚
合計 金貨728枚 で7,280,000ロックになる。日本円で728万円ってことになる。
もしかして、仕事をしなくて良いのでは?という考えが頭をよぎる。が、取り敢えず週3回の賄いは捨てがたいので続ける事にしよう。