6話 エンシェントドラゴン 玄武
メコノプシス・グランディスは、かなり値の張る品だったらしい。
ロデオ様他言無用です。
家の本棚を見ていてらモンスター図鑑があった。エンシェントドラゴンが気になったので調べてみる。
エンシェントドラゴン:エンシェントとは古代のを意味する。知力・体力・魔力とも他のドラゴンを凌駕した存在である。この世界には4体のエンシェントドラゴンがおり、それぞれ東西南北の山脈を縄張りとしている。北のドゴール山脈にはブルーエンシェントドラゴン、東のリスロー山脈にはレッドエンシェントドラゴン、南のロックシュレー山脈にはブラックエンシェントドラゴン、西のフェンウェル山脈にはホワイトエンシェントドラゴンがいる。
下に絵が描いてある。…。この間ボディブロウをしたエメラルド色をした美しいドラゴンにとても似ている。気のせいだ。エンシェントドラゴンがあんなに弱いはずがない。
「カイト、何を見ているんだ。」
「父さん、北のドゴール山脈にはブルーエンシェントドラゴンがいるんですか?」
「そうだ。東西南北の山脈それぞれにエンシェントドラゴンがいる。見つかれば確実に餌だな。だから、余程の事がない限り近づいたりしない。」
「依頼でも標高2,000m位までの依頼しか来ないぞ。それ以上はS級冒険者、A級冒険者の複数パーティーで行動する。」
「まあ、そんな標高まで登れる奴なんかいないけどな。ハハハハハ。」
「そ、そうなんですね。ハハハハハ。」
************************************
忘れよう。
「オン シュリマリママリ マリシュシュリ ソワカ」
「ゴシゴシ。キュッキュッ。」
「ゴシゴシ。キュッキュッ。」
「キラキラ、キラキラ。」
いい感じに出来たな。ふぅ~。続いて鬼門と裏鬼門の掃除をする。
やはり掃除は素晴らしい。
*********************************
「カイト、ちょっとお遣いを頼んでいいか?」
「はい。父さん。」
「防具の修理を頼んであって今日出来上がるはずなんだ。取って来て貰っていいか?」
「はい。行ってきます。」
「これが引き換え券だ。宜しく。」
と言う事で父さんの防具を取に行くことになった。
********************************
防具屋に到着した。色々な素材でできた防具が所狭しと並んでいる。【凄い。こんなに沢山の種類があるんですね。】
「父さんに頼まれて修理に出している防具を引き取りに来ました。」
引換券を渡す。
「おう。ちょっと待っててくれ。今準備するからよ。」
「はい。」
待っている間、防具を物色する。結構するな。俺の給金じゃとても買えないや。何年か先には冒険に出たい。お金をためて少しずつ揃えよう。などと考えていると防具屋の声がする。
「お待たせ。親父さんに宜しくな。重いから注意しろよ。」
「はい。ありがとうございます。」
意気揚々と防具屋を出る。すると後ろから突然抱きつかれた。柔らかい物体が背中に当たる。
「やっと見つけたわ。なかなか見つからないんだもの。坊や。」
背中に悪寒が走る。こんな声の人覚えがない。恐る恐る振り返る。
今まで見たことがない絶世の美女だ。瞳がエメラルドで何とも言えない強いオーラを纏っている。
「あの~ど、どちら様でしょうか?俺の知り合いにこんな美人いませんけど。」
「何を言っているの?先日会ったばかりじゃない。とても刺激的な出会いだったわ。」
「世界には、自分とそっくりな人間が3人いるそうですよ。他人の空似です。」
「うふふ。私が間違える訳ないじゃない。全て見通せるんだから。うふふ。」
**********************************
「私を傷物にしておいて逃げられると思っているの?」
「本当に身に覚え無いのですが…。」
多分、ボディーブローを何度かしたドラゴン?です。何とかと言う二刀流の武芸者が言ってました。【人は人に勝つこと。目には目を、歯には歯を、ドラゴンにはボディーブローを。】だと。
先手必勝です。相手が隙を見せた瞬間に攻撃です。
「ドス~ン!」
「・・・。」
「何度も何度も同じ手を。来る場所が分かっていれば何てことないわね。」
カイトのパンチは止められてしまった。そうですよね。何度も同じ手は通用しませんよね。
「すいません。ちょっと転んでしまって…。」
「うふふ。いいパンチだったわよ。坊や。」
作戦変更です。太陽を背にして。
「きら~ん。」
相手が怯んだ隙にダッシュして逃げます。逃げるが勝ちです。
「ビュウ~ン。」
何だか。とんでもない人【ドラゴン】に目を付けられてしまいました。ん~困った時は相談です。
************************************
「オン シュリマリママリ マリシュシュリ ソワカ」
「ゴシゴシ。キュッキュッ。」
「ゴシゴシ。キュッキュッ。」
「キラキラ、キラキラ。」
「烏枢沙摩明王様ご相談があります。聞こえていますか?」
「カイトよ。どうした?」
「実は、ブルーエンシェントドラゴンに目を付けられたらしく追われています。どうしたらよいでしょうか?」
「ん?何を悩むことがある。倒してしまえば良いではないか。」
「た、倒せるんですか?俺に?」
「何を言っておる。このあいだ渡した魔剣は、無属性じゃ。どの属性のエンシェントドラゴンにも効果覿面じゃ。」
「そうなんですね。」
「そんなに不安ならもう一本剣を貸してやろう。受け取るがよい。」
前回同様、小さな物体がどんどん大きくなり剣の形になっていく。そして、カイトの手に握られる。
「それは、ドラゴンキラーだ。ドラゴンの固い皮膚も容易く貫くだろう。」
「それとお主の誕生日だと…。明後日の午前中が最高の運気になっておる。勝負をするならその日じゃな。」
「ありがとうございます。烏枢沙摩明王様。」
早速、ブルーエンシェントドラゴンのところへ向かう。
************************************
「!どうしたのかしら?自分から姿を現すなんて。」
「逃げられないと思いまして。」
「観念したのね。」
「いいえ諦めてません。改めましてカイト・クロノアです。」
「どういったご用件でしょうか。」
「分かっていると思うけど、ドゴール山脈での屈辱を晴らすためよ。このままでは、いい笑いものよ。」
「ドゴール山脈では、何もありませんでした。って訳にはいきませんか?」
「いかないわね!私の気持ちの問題だから。」
「そうですか。では、明後日の午前中、日の出と同時にドゴール山脈の麓で決着をつけましょう。」
「いいわ。どうせ結果は同じ事だから待ってあげる。」
「では、明後日ドゴール山脈で。」
*********************************
ドゴール山脈の麓、朝日が差し込む。
しかし、カイトは現れない。日が高くなって来た。それでもカイトは現れない。
「あの子、逃げたわね!地の果てまで追って行って食べてあげるわ!忌々しい!」
ブルーエンシェントドラゴンは、イライラして平常心を保てない。そこへ呑気な声で。
「お待たせしました。」
カイトが現れた。
「いつまで待たせる!小僧!」
ブルーエンシェントドラゴンは、跳びかかってきた。
カイトは、ドラゴンの姿だったのでホッとした。見た目でも人間の女性の姿をした生物を切り刻むのは心が痛むので。
跳び込んで来た所へカウンターでドラゴンキラーを横に薙ぐ。右脇腹から左肩に向かって裂け目が出来、血が噴き出した。
ドラゴンは驚いている。堅牢なドラゴンの皮膚を切り裂く武器など殆ど無いのだから当然だ。
「な、何なのだ。その武器は!我の皮膚を切り裂くなどありえん!」
カイトは、怯んだドラゴンに追い打ちをかける。右手にドラゴンキラー、左手に魔剣アグニを持ち交互に打ち込む。
流石に骨まで切断出来ないが、体中を切り刻んでいく。
「ドス~ン。」
ドラゴンは、力なく倒れ込んだ。カイトは問う。
「あなたの名前を教えて頂いて宜しいですか?」
「お前は一体何者だ。私が敗れるなどありえない。」
「カイト・クロノアです。それ以上でも以下でも在りません。」
「…。よかろう。私が敗れたのは変わらぬ事実だ。私の名は玄武、水を司るエンシェントドラゴンだ。」
「玄武様、俺はあなたと争うつもりはありません。今回は何かの行き違いでこうなってしまいましたが…。今後も争うつもりは無いので宜しくお願いします。」
「そうか。だが負けは負けだ。カイト、お前と契約してやろう。」
すると、玄武とカイトを包み込むように魔法陣が展開し青く光り輝く。
どこからともなく声が聞こえてきて
【レベルがupします。加護:玄武の加護が付与されました。】
カイト・クロノア
Lv:80
Hp:1724
Mp:3588
筋力:283
魔力:1111
防御力:715
俊敏性:42
スキル:虐げられるもの
加護:玄武の加護
戦闘でもレベルが上がるのですね。なるほど。
「困った事があれば何時でも呼ぶがよい。」
玄武は、と言うと何かを唱えた。すると傷があっという間に癒えていく。そして、大きく翼を羽ばたかせると飛び去って行った。
どうやら無事に乗り越えられたようだ。カイトは家に帰ると早速トイレ掃除に勤しむ。
**********************************
「オン シュリマリママリ マリシュシュリ ソワカ」
「ゴシゴシ。キュッキュッ。」
「ゴシゴシ。キュッキュッ。」
「キラキラ、キラキラ。」
「烏枢沙摩明王ありがとうございます。何とかエンシェントドラゴンを倒す事ができました。」
「お、カイトか。無事で何よりじゃ。」
「ドラゴンキラーお返しします。」
「よいよい。お主が持っておれ。暫く貸しておく。」
「ありがとうございます。」
「また、何かあれば呼ぶがよい。」
「はい。ありがとうございます。宜しくお願いします。」
**********************************
ロデオ様は、メコノプシス・グランディスについて頑なに口を閉ざしているらしい。
話したところで誰も信じてくれまい。執事見習いの5歳の子供にメコノプシス・グランディスを取に行かせたなど。
そして、その5歳の子供がドゴール山脈まで行き、幻の花を採取してきたなど誰が信じるだろうか。
結果としてギュスター公爵家はロデオ様の結婚の申し出を受けざるえなくなってしまったらしい。ロデオ様は、目出度く公爵家令嬢と婚約するに至った。
【おめでとうございます。ロデオ様】
この事件は、解明される事なく迷宮入りしたのである。お陰でカイトの名前は表に出ることはなかった。
【目出度し、目出度し】
***********************************
聞き覚えのある声に引き止められる。
「カイト。カイト。ちょっと来い。」
ロデオ様だ。コソコソとカイトに声をかける。
「何でしょうか。ロデオ様。」
カイトはロデオに着いて行き、2人でロデオの部屋へ入る。
「こっほん!カイト。メコノプシス・グランディスを何処で手に入れた。採取不可能な幻の花と言うではないか。」
「そ、そうなんですか?ロデオ様は、そんな採取不可能な幻の花を5歳の執事見習いに取りに行って来いと?」
目に涙を貯めてウルウルしてみる。ロデオ様は慌てて。
「い、いや。そ、そんな筈はなかろう。」
「ロデオ様、余り深入りしない方が宜しいかと。危険が及ぶ可能性が…。」
「そ、そうか。そうだな。世の中には知らなくて良い事が沢山ある。こっほん!」
「では、褒美だ。受け取れ。」
拳大の袋を渡された。
「ロデオ様、ありがとうございます。また、何かありましたら何時でもお呼びください。失礼致します。」
袋には金貨が50枚ほど入っていた。カイトにとっては大金だ。
執事長が言っていた。
【お金は、神からの預かりものだ。人のために使ってこそ再び自分に帰って来るものだ。】
【それと何でもそうだが、大事にしてくれる所へ帰って来るものだ。欲しいなら大事にすることだ。】
と話していた。お金がまた戻ってきたい財布あるいは金庫が必要だ。今度、買いに行こう。
金運をupするには、家の玄関は南西にあるから西側に金庫を配置すればいいのかな?などなど考えを巡らせる。
父さん、母さん、姉さんに何かプレゼントをして、神殿の孤児院に寄付をしよう。
その前に金貨は洗って綺麗にしてから使うようにしよう。
標高4,000ḿで出会ったドラゴンはブルーエンシェントドラゴン?だったのか?
この絶世の美女は、一体?