3話 妖狐ジャンヌ
裸で縛られていた女の子。いったい何者なのか。昨日の狐?カイトの執事見習いは始まったばかり、どうなることやら。
女の子が目覚めた。
ロクサーヌがしゃしゃり出て来たので影から見守る事にした。
「ん、んぅ〜。」
「は!?ここは?私どうして…。ここに?」
女の子は辺りを見回す。
「起きたのね。」
ロクサーヌが声をかける。
「あなた、裸で倒れてるいたのよ。」
女の子は記憶を探る。昨晩、お屋敷に忍び込み大好きな万年青と戯れていたはず。突然、腹部に衝撃が…。内臓を握り潰される様な激痛…。
そこから記憶がない。
「すいません。昨晩の記憶が無くて…。」
「助けて頂いてありがとうございました。」
「そんな事は、いいわ。」
「お腹が空いたでしょ。ご飯を用意しておいたわ。」
すると女の子のお腹から
「ぐぅ〜。」
っと音がする。ロクサーヌは笑顔で
「どうぞ。食べて食べて。」
と食事をすすめる。
女の子は、お腹が空いていた様で凄い勢いで食べ始めた。
食事が落ち着いたところでロクサーヌが聞いた。
「貴方の名前は?私はロクサーヌよ。」
「私は、ジャンヌです。」
「これから街の警備隊の所へ連れて行くわ。」
「落ち着いたら行きましょう。」
「えっ。だ、大丈夫です。」
ジャンヌは、急に挙動不審になる。
「お腹に痣があるし、全裸で縛られていたのよ。大丈夫な訳ないじゃない。」
「いえいえ、大したことないですから。」
ジャンヌは必死に抵抗する。
カイトは思う。普通に考えたら大事件だよな。全裸で縛られて放置されていたんだから。
「本当に大丈夫ですからお気になさらずに。家にも帰れます。近所なので。」
「この御恩は必ずお返しします。」
と言うと逃げる様に帰って行った。
「ちょっと待ちなさいよ。」
ロクサーヌは追いかけたが、もう既にいなくなっていた。
良かった。どうやらパンチされた事は覚えてないらしい。
あ!そうだ。自宅のトイレ掃除もしようかな。
執事長に教わった様に掃除をしていく。
「ゴシゴシ。キュッキュッ。」
ふぅ〜。綺麗になった。
「烏す沙魔明王様。魔物を追い払っておきました。」
気配は無いが報告する。すると。
「コッホン。」
咳払いが聞こえた。
「カイトよ。良くやった。」
「褒美をやろう。」
小さな点が徐々に大きくなって目の前に短剣が現れた。
「わっ。」
落としそうになったが何とかキャッチする。
「それは、短剣だが、魔剣だ。気をつけて使うのじゃ。」
「それではまた会おう。さらばじゃ。」
そう言って消えて行った。
魔剣か?黒い刀身。何か文字が刻まれてる。
【この世の一切の汚れを焼き尽くすもの】
〔burn away all the dirt in this world〕
持つと文字が青白く光り輝いた。
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何となく気になって今晩も万年青を見に行った。すると。また狐が万年青と戯れていた。やはり近づいても食べるのに夢中で気付かない。学習しないやつだな。再び腹にパンチ打ち込んだ。
「ドスン。」
またもや腹を押さえてのたうち回っている。今回も同様に縛って家に連れ帰る。流石にリビングは不味いのでロクサーヌのベッドに忍ばせることにした。
「お休みなさい。」
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「ぎゃー。」
ロクサーヌの叫び声が聞こえた。なので聞こえない事にした。
今日は、仕事の日だ。騒いでるロクサーヌを横目に朝食のパンを手に取ってモンクレーの屋敷へ向かった。
「母さん、先に行ってます。」
「あら。張り切ってるわね。行ってらっしゃい。」
この後どうなったか。聞かないことにした。
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モンクレー家
「ビンセント様、おはようございます。」
「おはよう。良く来たな。今日もトイレ掃除からやってもらおう。」
「はい。頑張ります。」
「いい心掛けだ。」
「1つ教えておこう。」
「烏枢沙摩明王様には真言がある。」
【オン シュリマリママリ マリシュシュリ ソワカ】
「と言う。覚えておく様に。」
「はい。ありがとうございます。」
俺は、今日もトイレ掃除に猛進した。ある言葉を口ずさみながら。
「オン シュリマリママリ マリシュシュリ ソワカ」
「ゴシゴシ。キュッキュッ。」
「ゴシゴシ。キュッキュッ。」
「カイト。」
「聞こえるか。カイト。」
「はい。何でしょう。烏枢沙摩明王様。」
「どうにも例の魔物。執念深いのぉ〜。処分するしかないかのぉ〜。」
「ここの主人は、狸じゃからのぉ〜。」
「いやいや、狸似じゃから狐と相性が良く無いのじゃろ。」
本物の狸じゃないんだから相性とかあるんですか?ジャンヌを処分とか心が痛いんですが。
「わしには解決策が思い浮かばん。カイト。お前に任せる。じゃ。」
…。じゃって何ですか?どうすれば良いんですか?神様ぁ〜。
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モンクレー家の賄い(まかない)は最高だ。今まで見た事ないものが食べられる。たまにデザートも出て来る。
ありがとうございます。感謝です。
賄い目当てで執事見習いになって正解でした。
母さんと帰宅中、神様に丸投げされた件について思案に暮れる。
「どうしたの?カイト。元気が無いじゃない。」
「ちょっと悩み事が…。」
「大丈夫よ。カイトなら何とかなるわ。」
「ありがとう。母さん。」
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家に着くと何やら賑やかだ。
…。ジャンヌがいる。
「母さん。お帰り。」
「ただいま。ジャンヌちゃん。いらっしゃい。」
「私達仲良くなったのよ。」
「あらあら。良かったわね。」
「ジャンヌちゃん。良かったら夕食食べていってね。」
「あ、は〜い。ご馳走様になります。」
これは、いい展開だ。
「ジャンヌ、弟のカイトよ。」
「カイトです。宜しく。」
「ジャンヌよ。お邪魔してます。」
和気藹々(わきあいあい)と皆んなで食事した。
今日は、シチューだ。人参、じゃがいも、玉ねぎ、鶏肉、隠し味に複数のハーブが入った我が家特製シチューだ。うちの人気メニューだ。
食後のコーヒーが出て来た。
ちょっと思い付いた事を試して見る。
「そう言えば、最近執事の間で噂になっている事が有りまして。」
「実は、モンクレー家の北東には万年青が植えてあるのですが、その万年青に狐のお化けが出るらしいんです。」
「そんな。お化けなんか。いる訳無いじゃない。」
ロクサーヌは、怖がりだ。だが、それを悟られまいと去勢を張っている。
ジャンヌは、思い当たる事がある様で
「そ、そ、そ、そうですよ。」
「お、お、お、化けなんか。いる訳無いじゃないですか。」
かなり動揺している。シメタ。
「それが、何人もの人が目撃したらしく、討伐する為にA級冒険者を雇って退治して貰おうか。と言う話になっているんですよ。」
ジャンヌの顔は、蒼白になり動揺を隠しきれない。
「へぇ〜。た、た、大変な事にななってるんですね。」
「母さん、お母さんは、お化けいると思いますか?」
「そうね。まだ、見たことないわね。居たら面白そうね。うふふ。」
「わ、わ私、そろそろお暇させて貰います。」
「母が、心配しますのでご馳走様でした。」
ジャンヌは慌てて帰ろうとする。
「そうね。もういい時間ね。」
「またね。ジャンヌ。」
「ありがとう。ロクサーヌ。」
そして、ジャンヌは帰って行った。
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トイレ掃除がルーティンになってしまった。
「ゴシゴシ、キュッキュッ。」
「オン シュリマリママリ マリシュシュリ ソワカ」
「ゴシゴシ、キュッキュッ。」
トイレ掃除の時は無心になれる。素晴らしい。
生活の一部になってしまった。
「烏枢沙摩明王様、ありがとうございます。感謝します。」
「お休みなさい。」
「…。カイトよ。良くやった。」
結局、解決策はあるのか?カイトは、この課題をクリア出来るのか?乞うご期待。