2話 執事の仕事
異世界転生したカイトは、姉の理不尽な攻撃から逃げるために5歳にして働くことを決意する。
はてさて、どうなることやら。
母に連れられてモンクレー公爵家へ向かった。3mはあろうか。金属を加工したいばら模様の門が佇んでいる。
「母さん、とても大きいですね。」
「そうね。モンクレー公爵家は、ここらでは一番力のある貴族ですから。」
「私たちの国は、皇帝が国を治めているの。その下に貴族、準貴族があるの。貴族は5つの階級からなっていて上から公爵侯爵伯爵子爵男爵となっているの。準貴族は2階級からなっていて上から準男爵士爵(ナイト・騎士)になってるわ。」
「モンクレー家は公爵だから皇帝の次に力があることになるわね。」
「母さんは、凄いところで働いているんですね。」
「ちょっとした伝手があるのよ。」
「母さんの遠い親戚がメイド長をやっているの。うふふ。」
「そうなんですね。ビックリです。」
いばら模様の門を潜ってから10分は歩いただろうか。やっと屋敷についた。屋敷には様々な彫刻がされており一般市民のそれとは隔絶された優美さを醸し出していた。
「うわ~。別世界ですね。」
溜息しか出てこない。
「そうね。ちょっと次元が違うかしら。」
「さあ、行きましょうか。」
「はい。母さん。」
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「旦那様。先日お話しした息子のカイトです。カイト、デュラン・モンクレー様よ。」
「母がいつもお世話になっております。カイト・クロノアです。よろしくお願いします。」
「そうか。その齢で働きたいとか?」
!【た、たぬきだ!】髭を生やした割腹のいいおじさんだ。何を食べたらあんなに大きなお腹になるのだろうか。目の下に隈がある。寝不足だろうか。デュランって感じじゃない。名前負けしてる。
「はい。将来、執事になりたいので勉強させて頂けないでしょうか。」
昼の賄いが目的だとは口が裂けても言えない。姉に「ご飯をあげないからね!」と脅されるからでは決してないのだ。
笑いを堪えるのがのが大変だ。本当にたぬきそっくりだ。
「そうか。始めは週3日でどうだ?」
「よ、よろしくお願いします。」
「執事長ビンセントについて学ぶがいい。」
「ぱん!ぱん!」
モンクレー公爵は大きく手を叩く。
音もなく背後に現れる。
「わっ!」
思わず声を上げてしまった。
【が、骸骨だ!】
「旦那様、御用でしょうか?」
長身の骨ばった白髪交じりの男が立っていた。この人も隈がある。
「ビンセント、そこにいる子供を雇うことにした。」
「お前に任せる。しばらく週3で様子を見よ。」
「さがってよい。」
「は。」
「小僧、ついて来い。」
こちらに視線を向けてくる。目に異様な光を放っている。この人は本当に人間なのだろうか?
「は、はい。」
ちょっとビクビクしながら返事をする。
こうして執事長ビンセントの下で仕事を学ぶ事になったのだった。
「小僧、執事とはなんだ。」
「執事とは主を支える縁の下の力持ちです。」
「違うな。よく考えろ。思考を止めるな。」
「これから、お前の仕事はトイレ掃除だ。」
「俺は、まだお前のことを認めていない。」
「トイレには神様がいる。烏枢沙摩明王様と言う。」
「ほら、蓋の上に座っているだろう。」
「は、はい。」
逆らえないので肯定してみる。
いやいや、何もいないんですけど。この人どうかしているのだろうか。
「当然、知っているとは思うが掃除は上から下へ向かって行う。」
「トイレは神様だ。」
「何で掃除する?」
何を言っているんだ。この人。ブラシに決まっている。
「ブ、ブラシです。」
「違ぁ〜う!」
「神様をブラシで擦っていい訳が無かろう。」
「私のやり方を見ておけ。」
執事長は懐からキラキラしたハンカチを出し上から拭き上げていく。凄い速さだ。エレガントです。
「仕上げは、これだ。」
便器に手を突っ込んだ。
「す、素手ですか?」
「当たり前だ。素手でなければザラつきが分かるまい。」
「これをする事で金運があがる。」
「これがモンクレー家を支えているものの一つだ。」
「心して行うのだ。それと埃は悪霊だ。微塵も残すな!」
「はい。承知しました。」
「あ、因みにトイレは30カ所ある。」
「そうそう。」
まだ、あるのか…。
「愚痴や悪口、マイナス感情を口に出すな。」
「周りの運気がさがるからな。」
何て理不尽なんだ。トイレ30カ所を素手で磨けとは。まあ、取り敢えずせっかく見つかった仕事だ。頑張ろう。
頭の中で声がする。
「レベルが1上がりました。」
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早速、トイレ掃除を始める。
「キュッ。キュッ。キュッ。」
はぁ、何ヵ所目だろか。何処からか。声がする。
「おい!カイト。」
「!?。」
「聞こえるか?」
声のする方へ目を向ける。小さな物体が蠢いている。徐々にピントがあってきた。
腕が6本ある。髑髏どくろやら変わった武器の様なものやお香?を其々の手に持ちトイレの蓋の上に立っている。
これが執事長が言っていた烏枢沙摩明王様?
「う、烏枢沙摩明王様ですか?」
「そうじゃ。わしが烏枢沙摩明王じゃ。」
「カイト、小さいのにトイレ掃除とは感心じゃ。贔屓ひいきにしてやろう。」
烏枢様の方が小さいですから。とツッコミたい気持ちを抑え込んだ。
「いつでも呼ぶがよい。」
「ありがとうございます。」
「奢る事なく。精進するのじゃ。」
「はい。」
「こっほん。話しは変わるが、ぬしに指令を出す。」
「屋敷の北東に万年青が植わっておる。その万年青は、邪気を祓っておる。しかし、その万年青に夜な夜な嚙りついている魔物がおる。ちっと行って追い払ってくるのじゃ。」
「了解しました。烏す沙明王様。」
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という事で夜中に家を抜け出す。
こっそり屋敷へ忍び込み屋敷の北東を目指す。そっと覗きこむとそこには、狐?尻尾が沢山生えてる。九尾かな?万年青にかじりついて食べている。はて、どうしたものか?
取り敢えず近づいてみよう。
余りに真剣に食べているので気付かれない。死角から腹にパンチする。
「ドス!」
本気で殴っていないのだか。
狐はのたうち回っている。声も出ないらしい。ボクシングで溝打ちか肝臓を打たれると内臓を掴まれているような壮絶な傷みらしい。
まあ、そんなところか。
縛って連れて帰ることにした。
眠くてしょうがないのでリビングに放り投げておいた。
「お休みなさい。」
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「ぎゃー。」
悲鳴が聞こえてきた。
今日は、仕事はない。月、水、金の3日間だ。眠くて起きたくない。
「カイト!カイト!」
「早くきて!」
母さんの叫び声がする。父さんは仕事なのだろう。
半開きの目を擦りながらリビングへ向かう。あ!やばい!狐そままだった。知らないフリをする事にした。
「何?母さんどうしたの?」
「カイト!た、大変なの。」
「裸の女の子が!?」
リビングには、狐では無く裸の女の子が縛られた状態で転がっていた。
全く身に覚えが無い。
母さんは、直ぐに冷静になったらしく。
「一体何があったのかしらね。」
「取り敢えずロクサーヌの服をきせましょう。」
などと言っている。
ロクサーヌも起きて来て。
「一体どうしたのよ。騒がしいわね。」
などと言っている。そして、見て驚いた癖に。
「よくある事ね。」
と平常心を装う。よくある訳無いだろ!とツッコミたいのを我慢する。後が怖いので。
母さんは
「朝食作るから、その子の事お願いね。」
っと通常モードだ。
「母さん仕事に行くから、その子の事宜しくね。朝食も用意しておいたから落ち着いたら街の警備隊の所に連れて行ってあげて。」
「わかったわ。母さん。任せて。」
ロクサーヌは自信満々に胸を張った。
これから暫く執事見習いが続きます。
今後の展開やいかに!