ハプニングが起きた‼
〈パカラ――ン〉
「やったあ、またストライクよ‼」
ピンのはじけ飛ぶ気持ちのいい音が僕らのいるボーリング場に鳴り響く。
「初めてでターキーとか……人間ですかあなた?」
「いくら初心者でも三ゲーム目ともなれば慣れて来るじゃない
何となくコツを掴んで来たわ、やってみると意外とボーリングも面白いわね」
「いや、176とか、初めてボーリングをやる女の子が出すスコアじゃないよ」
忘れていた、この目の前に居る女の子は〈天才〉と言われた月島美月である
僕の様な常人の物差しで測るのはそもそも間違いなのだ。
結局3ゲームをこなし僕達はボーリングデートを終了する。
これ以上続けるとスコアにおいて圧倒的な差をつけられ主導権を握るどころか
益々惨めな思いを味わうことになると判断し撤収することにした。
「あー面白かった、三ゲームやって私の二勝一敗か、総合成績でも勝ったけど
どうせなら全部勝ちたかったわ」
ボーリングの料金を払い終わり一息つく僕達。ふと横を見ると美月はどうやら満足気な様子である。
だが僕にパーフェクト勝利できなかった事だけが悔しいようだ、どこまでも貪欲なお方だ。
「全く美月には驚かされるよ、さすがは【お台場坂49】のエース
二ゲーム目からもうコツを掴むとか、才能の差というモノを思い知らされたよ、恐れ入りました」
わざとらしく頭を下げ降参のポーズをとる僕であった。
嫌味っぽくいうことでささやかな反撃をしたのかもしれない。
僕は男としてますます器の小ささを見せつけたのである。
「嫌な言い方するわね、これでも結構努力しているのよ」
嫌味が通じたのか、彼女は両腕を組みながら頬を膨らます。
「知っているよ」
「圭一が私の何を知っているのよ⁉」
その問いかけに対し、僕はジュースを一口飲んだ後、改めて答えた。
「この前の新曲お披露目の放送で〈トキメキラブファイヤー〉のダンス
途中で二度間違えただろ?タイミングが遅れたのも三度あったし
いつもは完璧な美月がどうしたのだろうって思ったモノさ」
「えっ、アレに気が付いたの⁉」
美月は驚愕の表情で僕を見つめた。
「もちろんだよ、ファンを舐めないで欲しいね、いつも完璧な美月姫が
まさかのダンスパフォーマンス失敗で〈いよいよさやかちゃんの時代か⁉〉と思ったものだよ
あの時のダンスは完全にさやかちゃんの方が上だった。
だけど二日後の生ライブ配信ではもう完璧なダンスを披露していた
たった二日間であの仕上がりだからね、よっぽど練習したのだろうな……って思ったのさ」
「わかるんだ……それをわかってくれるの?」
「新曲の初お披露目だったからね、録画して何度も見返したから……
ネットを見たら僕以外にも気が付いた人が結構いたよ⁉それで〈原因は?〉って盛り上がっていた
事務所のゴタゴタ説やメンバー内不仲説、体調不良説と色々出てきてはいたけど結局わからずじまいだった
ここで聞いていい?何であの時に限ってダンスをミスったの?」
これは【お台場坂49】ファンとして僕だけの特権ともいえる役得である
事の真相にたどり着けるのは全国のファンの中でも僕一人だけという特別感は正直悪くない。
今回のデートで唯一良い点があるとすればこれだけだ。
しかし純粋に何があったのか?知りたいというのが偽らざる本音である。
興味本位でぶつけた質問だったが美月はうつむいたまま力のない声で語り始めた。
「あの時は……その、色々あってダンスどころじゃなかったの、精神的にボロボロで」
「へ~美月がそんな風になるなんて意外だな、何があったの?言いたくないなら言わなくてもいいけど」
何気なく問いかけると美月は俺の顔をジロリと睨んで再び口を開いた。
「あの時は詩織から〈彼氏が出来た〉って聞かされて、精神がボロボロになったのよ」
うわ~い、まさかの原因〈僕〉でした、そういえばしおりちゃんに告白したタイミングと
新曲お披露目の収録があった日とタイミングってピッタリ合うな
何故気が付かなかったのだろう?
「何か、ゴメン……」
「別にいいわよ、圭一が悪い訳じゃないし。私生活の事でパフォーマンスが落ちるとか
完全にプロ失格だからね、あの時は我ながらへこんだわ……」
プロ意識の高い美月があんな風になってしまうくらい
〈しおりちゃんに彼氏が出来た〉という事実はショックが大きかったのか
少しいたたまれなくなり思わず席を立った。
「ちょっとトイレ行ってくる」
一旦間を取るようにトイレに行き用を済ませた後、次に何処へ行こうかと考えていた時である
戻ってみると美月の周りにはガラの悪そうな男が三人、取り囲む様に話かけていたのだ。
「ねえ彼女、これから俺達と遊びに行かない?」
「君可愛いね、年いくつ?」
「無視していないで、俺達とおしゃべりしてよ~」
ヤレヤレ、変装していても美少女は目立つからな、仮でも一応僕が彼氏役だし、ここは彼氏らしく……
「やあ、待たせたね。そろそろ行こうか?」
なるべく自然に振舞ったつもりだったが男達三人の敵意にも似た鋭い視線が僕の体に突き刺さる。
「あ、何だ、テメエ?」
「こんなガキ臭いのが彼氏?」
「ねえ彼女、こんなお子様は放っておいて俺達と遊ばない?」
うわ~、タチ悪い。今でもいるのだな、こういう頭の悪そうなDQNは。
「僕たち急いでいますので、では……」
こんな連中を相手になんかしていられない、サッサと退散しよう、そう思った矢先である。
「あ、何勝手に仕切っていやがる、このクソガキ‼」
「帰りたければ勝手に一人で帰りな‼」
「彼女はお前みたいなガキは嫌だってさ、俺達と遊ぼうぜ」
そう言って一人の男が美月の腕を強引に掴んだ。
「ちょっと、何するのよ⁉」
美月の顔に一瞬恐怖が走る。その時、僕の心に軽い怒りにも似た何かが込み上げて来た。
「その手を放せよ」
「あ、誰に口きいているんだ、クソガキが‼」
僕の言葉が癇に障ったのか、怒りに任せて拳を振り上げる男
大きく振りかぶりその右拳を僕の顔面目掛けて放とうとした
しかしその所動作を見て僕はある事に気が付く、〈素人だな、コイツ……〉
全力で殴りかかって来る男の右拳を軽く半身で交わし、顔面に裏拳を叩きこむ。
「ぐあっ」
彼らにとっては予想外の反撃だったのだろう、残りの二人も戦闘モードに突入するがもう遅かった
僕は素早く横移動し二人が重なる様に死角に入った
戸惑う二人を尻目に腹に一発前蹴りを入れ残りの男にも膝をくらわしたのである。
「ちくしょう、コイツ何かやっているぞ⁉」
完全に弱者だと見下していたガキからの思わぬ反撃に戸惑いを隠せない男達
打撃を食らわせた箇所を押さえつつ睨みつける様に見上げてきた。
「まだやりますか?ケガをさせない様に手加減するのは結構難しいのですよ
これ以上やるなら、手加減できないかもしれませんが」
余裕の態度で似合わないセリフを言い放つ。
何事か?と周りの人達もにわかにざわつき始めゾロゾロと集まってきた
バツの悪くなった男達は周りの視線を気にするようにキョロキョロと見回しながらゆっくりと立ち上がる。
「ちっ、行こうぜ」
男達は悔しさをにじませながら去って行った、とりあえずこの場を切り抜けられてホッとする僕
しかし美月は呆然としながらこちらを見ていた。
女の子には少し刺激が強すぎたか……アイツらの行動についムカついて反応してしまったけど
流石に暴力はマズかったな。いかん周りがさらにザワつき始めた。
月島美月が暴力事件に巻き込まれたとか記事にでもなったらシャレにならないぞ⁉
「行こう、美月‼」
僕は反射的に美月の手を取って走り始めた。
「ちょ、ちょっと⁉」
少し強引だったがなりふり構ってはいられない、こんな事でスキャンダルにでもなったら
それこそ一大事である。周りに集まってきた人をかき分ける様にして走り出す僕たち。
あ〜ちくしょう、全然思い通りに行かないな。デートってこんなに難しいものなのか?
そんな事を思いながら二人は手を握りながら慌ててボーリング場を後にした
どのくらい走ったのだろう、ボーリング場が見えなくなり息が続く限り全力で走った。
女の子と手を取り合い全力で走るとか、まるで映画のワンシーンの様だが
その相手がなぜか彼女であるしおりちゃんでなく美月なのだ。これは悲劇か喜劇か?
いろいろな意味で〈どうしてこんな事に……〉という言葉が頭の中で何度も繰り返される。
だが不思議と悪い気分ではなかった、それがどうしてなのかは自分でもわからないが……
こうして何一つ予定通りに行かないまま僕達は波乱の擬似デートを続けることになるのであった。
頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。