デートに出かけた‼
美月姫の父親と一悶着あった日から数日が経ったある朝。僕は今度こそある決意をしたのである。
「よし、今日こそしおりちゃんをデートに誘うぞ‼」
思えばしおりちゃんに告白しOKをもらったはいいが、まだまともなデートは一度もしていないのである。
誰のせいで……とはあえて言わないでおこう。ここは一度原点に戻って冷静に分析してみた
高校生とはいえ普通のカップルならばこうなるはずである。
①告白しOKをもらう。
②デートする。
③キスをする。
④×××××(この欄は自由解答)
まあ一般的にはこんなところだろう。しかしながら①から②までがとにかく遠い
③までに時間がかかる事は覚悟の上だし勇気もいるだろう、④などは完全に未知の領域だから考えてもいない
しかしなぜだ?付き合ってからデートまでの道のりがなぜこれほどまで……何がいけなかった?
まあ過去を悔やんでも仕方がない、未来に生きるのが若者の特権だ、気持ちを切り替えて前向きに行こう。
「おはよう、しおりちゃん」
「あっおはよう圭くん、今日もいい天気だね」
いつもの様な爽やかな朝、いつもの様な眩しい笑顔、しかし今日の僕はいつもとは違う
さあ行こう、希望と幸福が満ち溢れた素晴らしき世界へ……
「しおりちゃん、実は話があるのだけれど……」
「そうなの?実は私も話したいことがあったの…」
あれ?今の会話どこかで……デジャヴ?いやいや、二度も同じ轍は踏まない、なぜなら成長するのが人間だからだ。
「じゃあ先にしおりちゃんからどうぞ」
「そう?なら話すけど、実は圭くんに頼みがあって、デートの事なのだけれど……」
キタキタキタ―――‼ほら、以心伝心、二人は相性ピッタリだよ、これで二人は……
そして週末の日曜日、デートの日が訪れた。
「遅いなあ……」
スマホで時間を何度も確認し苛立ちながら待ち合わせ場所で待っていた。
「ごめーん、遅くなっちゃって、待った?」
「遅いよ、一体何時間待たせる気だよ⁉」
「だってしょうがないじゃない、リハが長引いてしまったのだから、男のくせにグダグダ言わないで」
「三時間半も待たせた相手にその言い草ですか?」
懸命な皆さんならばもうお気づきでしょう。そう、今回のデート相手は月島美月
残念ながらしおりちゃんでは無いのです。なぜこうなってしまったのか……事の発端は先日の話。
「実は圭くんに頼みがあって、デートの事なのだけれど……」
「僕もデートの話をしようと思っていたのだよ、いや~偶然だね
しおりちゃんはいつ空いている?何処に行きたいとかあるかな?僕的には……」
「ごめん圭くん、実は私じゃなくて……」
「は?どういう事?」
「実はね、美月に頼まれて……美月今度ドラマに出演する事になったらしいのだけど
演じるのが女子高校生で内容がラブストーリーなの、でも美月は男の子と交際した事がないから
練習の為に圭くんを貸してくれって……」
まさかの期間限定レンタル移籍。しおりちゃん、きみ美月姫に甘すぎませんか?
「僕が美月と……でも何で僕なの?」
「その……美月が言うには知り合いの男子高校生は圭くんぐらいしかいないし
圭くんなら緊張しないし間違っても好きにならないし、万が一マスコミに見つかっても
恋人とは思われないだろうし、恋人役としてはもの凄く役不足なのだけれど
そこを我慢すれば手軽な練習台として最適とかで……」
しおりちゃん、いくら美月がそう言ったとしても、もう少し自分の彼氏を庇って欲しいな
結構ひどいこと言われているよ、僕。〈オブラート〉って言葉を知っていますか?
「でも正直、そこまでするのは気が進まないな……僕の彼女はしおりちゃんであって美月じゃない
僕はしおりちゃんとデートがしたいんだ。それにしおりちゃんは僕が他の子とデートしても平気なの?」
「うん、あまりいい気分では無いのだけれど、実は先日美月パパとひと悶着あったでしょ?
今回の話は美月のパパが絡んでいるらしいの。もうキャスティングが進んでいて断れないのだって
アイドルを続ける事を認める代わりに今回だけどうしても出演して欲しいって頼まれたらしいのよ
この前、私達も少し美月パパとはアレコレあったじゃない
だから流れ的に断りにくくて……でも圭くんがどうしても嫌なら断るね」
う~ん、そう言われると断りづらいな、美月パパにアレコレ言ったのは僕だし……
仕方がない、ここは覚悟を決めて美月とデートするか。でも嫌な予感しかしないのは何故だろう。
こうして僕は国民的スーパースター月島美月と〈疑似〉デートという巨大イベントをこなす事になったのである
【お台場坂49】ファンからすれば夢の様なシュチュエーションなのだろうが正直気が重い
できることならば帰りたい、美月にはここ数日散々振り回されてきたからである。
「何でそんなに嫌そうな顔しているのよ⁉」
「嫌だからだよ、決まっているだろ」
「圭一、最近私に対して扱いが雑になってきていない?」
「そりゃあ、最初は驚いて緊張していたけど、何度も会って散々振り回されていれば嫌でも慣れるよ」
「練習台とはいえこの私とデートするのよ、何でそんなにテンション低いのよ
男としても【お台場坂49】ファンとしても喜ぶべき展開じゃない」
「あのねえ、まず男として僕はしおりちゃんとデートしたいの
それに【お台場坂49】ファンとしても僕は〈さやかちゃん推し〉だって言っただろ⁉
だから僕にしてみれば二重の意味で浮気というか、裏切っている気になるのも仕方が無いだろう」
なぜこうなった?どうして……そんな言葉が頭の中を駆け巡る、しかしここは頭を切りかえていくしかない
向こうが練習台というのならばこちらもしおりちゃんとのデートに向けて予行練習と考えればいい
それならば少しは気が晴れる……のかな?
「感じ悪いわね、でも時間も無いし行くわよ」
「ヘイヘイ、何処へでもお供しますよ、姫」
こうして僕たち二人の疑似デートは始まった、美月は身バレの危険性があるので完璧な変装をしている
確かにこれなら誰も月島美月とは気づかないであろう。とはいえ元が元である為
変装していても美少女である事には変わらなかった。
「しかしそれ凄い変装だね、プロ並みじゃないか⁉」
「まあね、メイクさんに教えてもらったのよ、いけるでしょ?」
美月は僕に見せつけるようにクルリと一回転して見せる。
確かに完璧だ、これならば誰も美月だと気づかないだろう。
ならば最初に会った時のあのサングラスに大きなマスクの変装は一体何だったのだろう?
と一考してしまうが、もう考えるのは止そう。これが月島美月という人物だと自分に無理矢理納得させた。
「じゃあこれから何処に行くの?」
「えっ、そっちで決めている訳じゃないの?」
「普通デートコースって男がエスコートするモノでしょ⁉」
「いや普通はそうかもしれないけれど、今回はドラマの為の疑似デートなのだろ?
だったら、そのドラマ通りに行けばいいじゃないか?」
「ドラマ通りなら地中海に行かなきゃならないわよ?」
「何で女子高生のラブストーリーの舞台が地中海になるの⁉どんな脚本だよ‼」
「知らないわよ、そうなっているのだから仕方がないじゃない‼」
なんてこった、これからどうよう……でも待てよ、確か……
「なあ美月、君は昨年も学園もののドラマやったよね?確かヒロインの親友役で」
「ああ〈放課後のシンデレラ〉ね、やったけど、それがどうかしたの?」
「あの時も練習とかしたの?凄くいい演技だったと思うけど」
「あの時は練習なんかいらなかったからね、しなかったわ」
「どうして前回はいらなかったのに今回は練習が必要なんだよ?」
「そんなの当り前じゃない、前回はヒロインの親友役。だから相手の役の子を詩織だと思えば簡単よ
でも今回は恋人役だからね。でも私は男の子と付き合ったことも無いし知り合いもいない。
もっと言えば私、初恋もまだだし……だから練習で掴みたいの、どうしても想像では限界があるから……」
なるほど、だから前回のドラマは迫真の演技だった訳か、天才と言われている美月でも結構苦労しているのだな……
こういう所を見せられるとファンとしては応援しがいがある。
「で、何処に行くの?圭一が決めてよ」
「別にそっちで決めてくれていいよ、ドラマに役に立ちそうな場所で」
「今度私が演じる〈常盤初美〉という子は、控えめで付いて行くタイプの女の子なの
だから圭一が決めてそれに付いて行く形で役を掴みたいのよ」
「控えめでついて行く子って……そんな役、何で美月に来たの?」
「別にいいじゃない、色々な役をやる事で幅を広げられるし」
「ふ~ん、そんなモノか……でもいきなり言われても何処に行けばいいのやら」
「どこでもいいわよ、圭一が行きたい所とか無いの?」
「パッと思いついたのは【お台場坂49】ショップとか……」
「何で私が【お台場坂49】ショップ行かなければならないのよ‼
いくら変装していてもショップに居るファンなら気づかれる可能性もあるじゃない‼」
「それもそうだね、じゃあ……ボーリングとか?」
「はあ、ボーリング?」
「嫌なのか?」
「別に嫌という訳じゃないわ、付き合うわよ。
ただ私ボーリングってやったこと無いしやり方も知らないから、あまり乗り気じゃないだけ……」
ほう、それは好都合。美月には今まで散々マウント取られ続けてきたからな
ここらで少しぐらいいいところを見せて少しは主導権を取らないといつまでもしおりちゃんと仲良くできない
見てろよ美月、今度こそ僕がマウントを取ってやるぜ‼︎
そんなちっぽけなプライドを賭け、ボーリング場へと向かう僕と美月。
しかしこの後、思いもよらぬ出来事に遭遇することになるとは
僕も美月も知る由もなかったのである。
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