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借りを返した‼︎

「お待たせ、圭くん今日も早いね」


「そんな事ないよ、僕も今来たところさ」


いつもの会話、いつもと同じ空気感、いつもと同じしおりちゃんの笑顔


しかし今日はいつもとは違っていた。それは僕達が【お台場坂49】の総選挙の会場である


〈帝都ドーム〉に向かっているという事だ。普段しおりちゃんはこういったイベントには顔を見せないのだが


今回はしおりちゃんの方から〈一緒に行かない?〉という誘いがあった


会場のチケットも美月からもっている様で僕はいつもの様にチケットの抽選に一喜一憂する事も無く


悠々自適に〈帝都ドーム〉へと歩みを進める。


しかし【お台場坂49】関連のイベントに彼女と共に行くというのは何とも不思議な気持ちである。


しおりちゃんと付き合ってすぐの時は〈どうやって【お台場坂49】ファンだということを隠そうか〉


と頭を悩ませていただけに今思えばまさかの展開だ


〈帝都ドーム〉に近づくにつれ人も多くなってきて、一種異様な熱気を感じずにはいられない


僕達の周りの【お台場坂49】ファンもいつもの単なるライブとは違う独特の雰囲気を感じている様だった


ここに来る途中でも数々の人が。


「おい、今度の総選挙どっちが勝つと思う?」


と話しているのを耳にした。それほどまでに今回の総選挙は話題となっていた


サブタイトルに【バトル・アット・ザ・トップ】と名付けられた通り、頂点を決める戦いとなる事は必至である


ファンによる事前投票数では美月有利であるがその差は例年よりも少ない


今日の視聴者投票が勝敗を分ける事になるだろう。


 「お~い、田村君~‼」


聞き覚えのある声に振り向くと、そこには巨体を揺らしながら近づいて来る松永さんの姿が見えた。


「こんにちは松永さん」


「いや~ついに来たね、この日が……ん、そちらの女性が例の田村君の彼女かい?」


「ええ、僕の彼女、秋山詩織ちゃんです」


「初めまして、秋山詩織と申します」


松永さんに対して頭を下げ丁寧に挨拶をするしおりちゃん。


「いや~彼女連れで総選挙に来るとは君も中々の強者だね、田村君。


でもそんな事は気にせずに今日は思い切りさやかちゃんの栄光ある一位獲得を見守ろうじゃないか‼


今日こそはあの憎くき美月大魔王をブッ倒し、あの高慢ちきな美月姫の顔が


悔し涙で染まる程、完膚なきまで叩きのめし、そして……えっ?」


松永さんが熱弁をふるっていた時、しおりちゃんが不機嫌そうな顔で松永さんを睨んだのである


何故自分が睨まれているのかわからない松永さんは明らかに動揺し困惑していた


どうやら僕の彼女だから当然大橋さやかファンなのだろうと思い込んでいたようだ。


「すみません、前にファミレスで美月がステージ衣装のまま怒鳴り込んできたことがあったじゃないですか?


実は僕の彼女と美月は子供の頃からの親友で僕と彼女が喧嘩してしまったから


美月が怒鳴り込んで来た訳でして、ですからしおりちゃんの前であまり美月の悪口は……」


何故しおりちゃんが怒ったのかを理解した松永さんは、自分がやらかした事を知ると


突然顔面蒼白になりしおりちゃんに向かって慌てて謝罪した。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


大きな体をくの字に曲げて平謝りする松永さんだったが


しおりちゃんは松永さんを無視するようにプイっと横を向きスタスタと歩き始めた。


「圭くん、行こう」


明らかに怒っているしおりちゃん。勿論僕はその誘いに付いて行った


ひどく落ち込んでいる様子の松永さんに右手で〈スイマセン〉と合図してその場を後にする


フォローしてあげたい気持ちは山々なのだが怒っているしおりちゃんを放っておいて


松永さんにかまけるという選択肢は僕にはなかった。これは優先順位の問題であり僕の中では当然の行動である。


「確か僕たちの入場するのは21番ゲートだったよね、という事は一塁側の……」


僕は手渡されたチケットを片手に入場口を探すが、しおりちゃんは迷う事無くスタスタと歩いて行く


大勢のファンたちの流れに逆らうかのようにしおりちゃんの小さな体は人ごみをかき分けどんどん進んでいった。


「ちょっと、しおりちゃん待ってよ。そっちは僕たちの入場する21番ゲートとは反対方向だよ‼」


僕は必至で呼びかけるが、その声が聞こえていないのか


しおりちゃんは迷う事無く進み続けある場所でようやく立ち止まった。


「えっ、ここって⁉」


僕達がたどり着いたのは〈関係者入場口〉であった


戸惑う僕にしおりちゃんは小さなポシェットから何かを取り出すと僕に手渡してくれる。


「何コレ?」


「圭くんもこれを首にかけて」


渡されたのは首掛け式のネックストラップ、中には関係者用のIDカードが入っていた


僕は言われるがままそのカードを首から掛けしおりちゃんの後を付いて行くように関係者入り口を通って中へと入る


中では関係者と思われる人達が慌ただしく動き回っていて、【お台場坂49】のメンバーもチラホラ見かけた


総選挙の舞台裏を見られるなんてファンとしては非常に貴重な経験ではあるが


自分の置かれている状況がよくわかっていない為に困惑するばかりである。


「こんにちは」


すれ違う人達に挨拶がてらかるく会釈をしながら挨拶するしおりちゃん


その妙に慣れている態度を見てこれが初めてではない事がわかる


【お台場坂49】の関係者に顔パスって……僕の彼女スゲー。


〈帝都ドーム〉内の奥へと進んでいくと、扉に【月島美月様】と書かれたプレートが張ってある部屋へとたどり着く


美月クラスになると控室も個室なのか、そんな他愛もない事で感心している僕を尻目にドアをノックする


「どうぞ」


中から返事が聞こえたが、美月のモノではない。もっと年齢の高い人の様だ……


中に入ると、そこにいたのは先日もお会いした美月ママであり、美月本人の姿は見えなかった。


「いつも悪いわね詩織ちゃん」


「いえ、私が美月の力になれる事なんてこれぐらいしか無いですから」


「ありがとう、それと田村圭一君でしたわね、娘から時々お話は聞いています


美月の事をよろしくお願いします」


「あっ、いえいえ、僕なんか何もしていないですから」


僕みたいなのにも丁寧に挨拶してくれるとは、娘さんとは違い随分と人間が出来たお方の様だ


美月の口から僕の話が出ていると言ったが、その内容がとても気になる


だがそれを聞いてしまうと、せっかくの総選挙を前にして


僕のテンションがダダ下がりになるだろうからここはあえて聞かないでおこう。


「詩織ちゃんが来たならもう安心ね、じゃあ私は仕事があるので失礼するわ」


そう言って美月ママはさっそうと部屋を出て行った


ただ部屋を出るというだけなのにこれ程絵になるとは、美人って凄い。


「ねえしおりちゃん、美月ママがいつもと言っていたけれど、総選挙の時はいつも来ているの?」


「うん、この総選挙の時はさすがの美月も凄くプレッシャーがかかるみたいで


いつも出番直前まで私が付いているの。第一回の時なんか出番直前まで震えていたぐらいなのよ


あっ、でもこの話を私が言ったという事は美月には内緒にしてね」


「もちろんだよ、僕にそんな弱みを知られたくは無いだろうからね……」


意外だった。どんな時でも常に堂々としている様に見えていたのに、本当はプレッシャーで震えていたなんて……


僕としおりちゃんは控室で美月の帰りを待ち続けたが一向に帰ってこない


もうすぐ開幕してしまうのにどうしたのだろうか?


「遅いね、美月。何をやっているのかな?」


「私、ちょっと探してくる」


「じゃあ僕も行こうか?」


「圭くんはここに居て、入れ違いで帰って来るといけないし


もしかしたらトイレに籠っているかもしれないから……」


確かに女子トイレに付いて行くわけにもいかないし、仕方がない。


「わかった、僕は残るよ」


「じゃあ、美月を探してくるね」


しおりちゃんは小走りで控室を出て行ったが一人残された僕の場違い感は半端なかった


今の僕にできる事がない以上、こうして待っている事しかできないのだから仕方がないのだが


それから三分ほど経ちするとドアからスッと入って来る美月の姿が目に入って来た。


「あれ、圭一?」


「いや、しおりちゃんもさっきまでいたのだけれど、美月が来ないから探しに行ったのだよ


すれ違いになってしまったのかな?」


「そう、入れ違いに……でももう行かなくちゃ……」


プレッシャーなのか、緊張からなのか、明らかに元気のない美月


元気というより覇気が無いと言った方がいいかもしれない


こんな美月は初めてだ。しおりちゃんと違って僕には何をどうしていいのかわからない


正直さやかちゃんには勝って欲しいしその気持ちには嘘はない、精一杯応援するつもりだ


だが美月に負けて欲しくないという気持ちも同じくらいあるのだ


どちらかが勝てばどちらかが負ける、そんな事は当然であり子供でも分かる理屈である


でも仕方がない、本当にそう思ってしまったのだから……


矛盾した気持ちを抱えながらかける言葉を探す僕だったが上手く口にすることが出来ない


美月は戻って来たばかりだったが直ぐに控室を出て行こうとしていた


何か、何か言わなくては……気持ちだけが焦り言葉にならない。


そんな時、美月がこちらを振り向いて真剣な表情で僕を見つめ語り掛けてきたのだ。


「ねえ圭一、学園祭の時の約束覚えている?」


「学園祭の時の約束?」


「〈圭一にできる事なら何でも言うこときく〉というヤツよ……」


「ああ、アレか。その約束がどうかしたか?」


「その約束、今、使わせて」


「今って、ここでか⁉」


「うん、別にたいしたことじゃないし、時間もかからないわ、いいでしょ?」


「うん、別にかまわないけど……」


こんな時に何だ?僕に何を頼むつもりだ⁉疑問と不安が頭の中を渦巻く


だが美月の要求は完全に僕の予想とは違うモノであった。


「頑張れって言ってよ……」


「は?」


「だから、私に〈頑張れ〉って言ってくれればいいわ」


何だよ、それは……あまりに予想外過ぎて言葉を失う僕


そんな沈黙が拒絶ととられたのか美月は力ない口調で話を続けた。


「そこまで嫌がらなくてもいいじゃない、別に圭一が本心ではさやかの応援している事知っているわ……


だから、言葉だけでいいの、気持ちがこもっていなくてもいいから、〈頑張れ〉って言って」


何だよそれ……そうか、これが美月なのだ。傍から見ていた時は完璧なアイドルであり


【お台場坂49】の絶対的なエース、常に堂々としていて不安なんか無いのだろうと勝手に思っていた


しかし中身は僕と同じ十七歳の普通の女の子なのだ。


しかも精神的にはしおりちゃんにすがらないと生きていけない程のもろい部分を持っている


この美しくもはかない〈ガラスのエース〉それが月島美月という女の子だ……


僕は精一杯の思いを込めて美月に言葉をかけた。


「頑張れ、美月」


すると、美月は目を閉じ小さく頷いた。


「ありがとう、これで頑張れそうよ。詩織には上手く言っておいて……」


そう静かに言葉を発すると、僕の目の前を通り過ぎて行こうとした


でもいいのか?このまま美月を行かせてしまっても……


なぜだかわからないが心の中がモヤモヤする


このギリギリの戦いでこんな覇気のない状態では負けてしまうのでは?


そんな思いが頭によぎる。負ける?負けるだと⁉︎美月が?……ダメだ、そんな事絶対にダメだ‼


そう思った瞬間、僕の右手は目の前の美月の左腕を掴んでいた。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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