先輩に出会った‼
「すみません、私の様な者が口を挟む事ではないと思ったのですが、一言だけ良いでしょうか?」
僕達の会話に突然口を挟んできたのはなんとタクシーの運転手であった
その温和そうな見た目と口調にどこか好感がもてた僕はそのまま流れに任せることにした。
「ええ、かまいませんよ」
「有難うございます。実は私、若い頃に月島美月さんのお母様
旧姓三枝みどりちゃんのアイドル時代の大ファンでして、追っかけをやっていたのです」
タクシー運転所からの突然の告白に戸惑う僕達であったがその優しげな表情と
物静かな語り口に何となく耳を傾けてしまい、そのまま話を聞く事にする。
美月の母親である月島みどり〈旧姓三枝みどり〉は十七歳の頃、三人組アイドル【ぷりてぃが~るず】でデビューした
しかしそのアイドルユニットは結局鳴かず飛ばずのまま、三年で解散
その後女優に転身した三枝みどりは数々のヒットドラマに出演し
助演女優賞を獲得したりハリウッド映画に出演したりと大女優としての地位を確立した
現在は女優業を続けながらも、美月の所属する事務所の社長兼マネージャーとしてその敏腕を振るっている。
「先日、昔のみどりちゃんのファンの仲間と久しぶりに会いましてね
色々昔の事を交えながら話しました。みどりちゃんと美月さんは何処が似ているとか
違いは何か?とか勝手な想像も交えながら年甲斐も無く熱い議論を交わしまして
久々においしいお酒が飲めました。
そこで〈みどりちゃんをトップアイドルにしてあげられなかったお詫びに
せめて娘さんである美月ちゃんを応援しようじゃないか‼〉って勝手に盛り上がりましてね
私を含め皆で会社の同僚や知り合いに〈総選挙では月島美月ちゃんに投票してください〉
って頼んで回っています。すると〈最初から月島美月に投票するつもりだった〉という人も結構いましてね
たいしたものだと感心いたしました。余計なお世話かもしれませんが
一般視聴者にも、貴方を応援している人は大勢いますよ。頑張ってください」
意外なところからの励ましに思わず感激する美月。
「有難うございます……」
小さな声でお礼をのべ頭を下げる美月、タクシーの運転手の人は嬉しそうに微笑んだ。
しばらくして美月のマンション前に到着すると、そこには一人の女性が待っていた。
グレーの高級スーツを身に纏い、眼鏡をかけた知的な美人。
マネージャーにして事務所の社長であり、美月の母親、そう月島みどりである。
「私がおばさまに連絡しておいたの。仕事の都合で出迎えは出来なかったけど
美月に一言〈お疲れ様〉って言いたいからって」
しおりちゃんが嬉しそうに説明する。僕も初めて美月ママを直で見ることが出来たが、その感想は……
若け〜‼︎、それに凄い美人。確か美月ママは僕の母親と同い年のはずだがとてもそうとは見えない
それとやっぱりどことなく美月に似ている。さすがは親子
僕の母親の事も含めて遺伝子には逆らえないという事を思い知らされた瞬間だった。
「みどりちゃん……」
目的地に到着するとタクシー運転手の人が呆然と美月ママを見ていた
昔大ファンだった人物が目の前に居る事にやや戸惑っている様だ。
「お帰り美月。ドラマの撮影は上手くいったと聞いているけど、地中海はどうだった?」
「ただいまママ、すごく良かったわよ。それと……
ほら運転手さん、ママに一言挨拶でも」
先程の話を聞き運転席から出て来るように促す美月。
「いえ、そんな、私など……」
恐縮して出てこない運転手の人を無理矢理引っ張り出す美月
そのやり取りを見て不思議そうな表情を浮かべる美月ママ。
「何、どうしたの、美月?」
「あのね、ママ。この運転手の人、昔ママのアイドル時代の大ファンだったらしいの
それで今度の総選挙、私に投票してくれるよう職場の人に頼んでくれているらしいわ」
「まあ、そうですか、ありがとうございます。
私はもうこんなおばさんになってしまいましたから、さぞかし幻滅されたでしょう?」
「と、とんでもない、みどりちゃんはあの頃と全く変わっていないです
本当に綺麗で……今でも応援しています」
目線も合わせられず緊張気味に話している運転手の人の態度を見て
何かに気づいた様子の美月ママは優しい顔で問いかけた。
「あの、もしかしていつも三人組で来てくださっていた方ではありませんか?」
「えっ、覚えて……くれているのですか⁉」
驚きを隠せない運転手の人の言葉に大きく頷く美月ママ。
「ええ。私達は娘と違って本当に売れないアイドルでしたから
熱心に応援してくれたファンの方の事はよく覚えています
特に渋谷の初ライブの事は今でも忘れませんよ」
美月ママの言葉に運転手の人の両目から一筋の涙がこぼれ落ちた。
「ねえママ。渋谷の初ライブって、何かあったの?」
娘の素朴な質問に対し、当時を思い出すように語り始めた。
「私達は売れないながらも何とか小さなライブハウスで初ライブを行うことになった。
でもその当日、運悪く大型の台風が直撃してね。電車などの交通機関が全てストップしてしまって
ただでさえ少ない観客がさらに少なくなってしまったのよ
だから会場に来てくれたファンは三十人もいなかったわ
そんな中でこの人達は精一杯応援してくれたの。
観客の少なさを何とかカバーしようと声を枯らすぐらいの勢いでね……本当に嬉しかった
こんな熱心なファンの為にも頑張ろうって仲間と誓い合ったのをよく覚えているわ
私達は結局売れなくて三年で解散してしまったけれど、今でもあの時の事は忘れられない思い出よ」
昔の思い出をしみじみ語る美月ママ。その話を聞いてボロボロと涙を流す運転手
アイドルオタクの後輩としてこんなファンになれたらいいな……と思えた瞬間だった。
感激しながら走り去るタクシーを見つめ、美月がボソリと呟いた。
「やっぱりアイドルっていいね、ママ……」
「そうよ、ああいう声を聞くとアイドルをやっていて良かったと思えるわ
それなのにあの人はそれを全くわかっていないのよ……
貴方にも熱心に応援してくれるファンがいるのだから、それに精一杯応えなければダメよ、美月」
「わかったわ、ママ。先輩アイドルからの貴重な忠告として胸に刻んでおきます」
嬉しそうに微笑む美月親子を見てとても幸せな気分になる僕としおりちゃんだった。
そしていよいよ運命の【お台場坂49】総選挙の日を迎える事となる。
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