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また暑苦しい事を言ってしまった‼︎

先日二人きりのデートを堪能した僕達は、今日は空港に来ていた。


十日ぶりに日本に帰国する美月を迎えに来たのである


しおりちゃんは美月の事務所のマネージャー兼社長である母親から直接頼まれ


こうして空港へと出向き、美月の到着を待っていた。


「私は外国に行った事がないから知らないのだけれど


日本に帰ってきたらまず日本食が食べたいとか聞くよね


帰りにコンビニでお寿司でも買っていこうかな?」


「いや、多分美月はしおりちゃんのオムライスが食べたいって言うと思うけど……」


「そんな事ないと思うよ、やっぱり普通に和食が食べたいのではないかな、お魚とか」


いや、しおりちゃんは美月の事をわかっている様でわかっていない。


十日も会えなかったのだから、帰国次第思う存分しおりちゃんを堪能したいと思うのが


美月という女だ。その心は理解できる、歓迎はしないが……


僕達がそんな事を話して空港の到着ロビーで待っていると


旅行バックをさげ大きめのサングラスをかけた美月が姿を現した


いつものマスクに黒いサングラスではなく、学園祭に来た時の様な完璧な変装でも無く


ごく普通のお忍び芸能人という格好で現れたのである。


「詩織~~‼」


向こうも僕達の姿を確認すると嬉しそうに駆け寄って来た。


その勢いのまましおりちゃんの小さな身体に覆いかぶさる様に抱き着く姿は


まるで獲物を捕食する肉食獣にも見えた。


「詩織、元気だった?体調を壊したりしていない?何か問題とか起こっていない?」


「美月、それはこっちのセリフじゃない。どうして帰って来た美月の方が


私の心配をしているのよ?でもとりあえずおかえり美月」


「だってしょうがないじゃない、十日も詩織に会えなかったのは初めてなのだから


そうだ、詩織にいっぱいお土産買ってきたのよ。これと、これと、後はね……」


空港のロビーで色々お土産を展開し始める美月に対し、しおりちゃんは思わず苦笑いを浮かべた


「美月、お土産は後でいいからとりあえず帰りましょう


変に身バレしてファンに囲まれたりしたら嫌でしょう?」


「その時は圭一がその連中をやっっければいいじゃない。学園祭の時みたいに」


「お前な……空港でそんなことしたら僕は停学どころか完全に警察行きだ


そもそも〈月島美月〉の関係者が暴力事件を起こしたと事件沙汰になっても嫌だろう?」


「その時は〈この男は関係者ではない〉と証言するから問題ないわ」


「関係者でもない奴がいきなり暴力行為に及ぶとか……狂人か?僕は」


「冗談よ、もしもの時の事を言っただけよ」


「もしもの時でも無いわ‼︎そんな頭のおかしい行動は‼︎」


「そもそも圭一は、いたいけな詩織の事をかどわかし惑わせたという【略取誘拐罪】と


自分の事をあたかもいい男に見せかけて詩織を騙すという【ボクボク詐欺】の罪で起訴猶予されている身よ


盗人猛々しいとはこの事ね」


何だ、その無理矢理でっち上げた罪状は?恐怖政治にも程があるぞ。それにどの口が【盗人猛々しい】とか言うのだ⁉


先日〈美月の事も応援してあげなくては〉と思った僕のピュアハートを返せ。


「美月、圭くんにはドラマの手伝いもしてもらっているじゃない


そんな言い方は無いでしょ、圭くんにもお土産とかは無いの?」


すると美月はジト目で僕を見つめて来てある物を手渡してきたのである。


「じゃあ、コレをあげるわよ」


美月が僕に手渡してきたのは飲み干したペットボトルの空容器だった


確かに一部の【お台場坂49】ファンにとってはお宝と言えなくもない代物だが


僕にとっては単なるリサイクル対象の資源ゴミでしかない。


ファンに対して〈神対応〉で知られる美月だが、僕に対しては一貫してのこの塩対応。


ある意味特別扱いされているといえるが、全く嬉しくないのはわかってもらえるだろう。


一度コイツの握手会に並んでやろうかな?僕に対して笑顔で対応する美月を見てみたいものだ。


「美月、いい加減にしなさい‼」


しおりちゃんに怒られ一瞬しおらしくなる美月。や~い、や~い、怒られていやがる


ざまあww、しかし僕はここで器の大きさを見せつけた。


「いいよ、しおりちゃん。美月には学園祭で無茶を聞いてもらったからね」


「でも、圭くん……」


優しいしおりちゃんは僕を気遣うそぶりを見せ、それに応える僕


見たか美月、これでお前が完全に悪者ムードだ。海より深く反省するがいい。


そんな空気を察したのか、美月はバツが悪そうに小声で話し始めた。


「冗談よ、そんなに怒らなくてもいいじゃない詩織……圭一にはちゃんとお土産買って来ているわよ……」


「えっ、本当、僕に?」


「嘘じゃないわよ、これを……」


美月が手渡してくれた小袋を開けると、そこには三日月の形をしたキーホルダーが出て来たのである


金色の大きな三日月の中の空間にもう一つ小さな三日月が入っていて、まるでオシャレなイヤリングの様だ。


「うわ~、綺麗なキーホルダーだね、ありがとう美月」


「べ、別に、ロケの時にたまたま屋台小屋で売っていた安物があったから買っただけよ


圭一にもお土産を買わないと詩織に怒られるから仕方なく……勘違いしないでよ‼」


絵にかいたようなツンデレセリフだが、コイツに限って僕に〈デレる〉事など有り得ないし


本当に詩織ちゃんの手前、仕方がなく買ったのだろう。それにしても嬉しいな。


「ありがとう美月、大事に使わせてもらうよ」


僕は早速家のカギにそのキーホルダーを装着した。


大きな三日月と小さな三日月が僕のカギの先にぶら下がりゆらゆらと揺れていてなんかいい


考えてみれば女子からプレゼントをもらったのはこれが初めてだ、しおりちゃんにもまだもらっていないし


それを思うと何だか複雑な気持ちになった。勿論母親は女としてカウント対象外である。


僕達はそのままタクシーへと乗り込み美月のマンションへと向かった


後ろの席にしおりちゃんと美月が座り、僕は助手席に座る。


勿論僕がしおりちゃんの横に座りたかったのだが、ここは美月に花を持たせてやろう


何せ十日ぶりのしおりちゃんだ、僕にも停学中に味わった苦い経験がある


思う存分しおりちゃんを堪能するがいい。


後部座席の美月は嬉しそうにしおりちゃんに話しかけていた。


その勢いはとどまる事を知らず、しおりちゃんはいつもの様に微笑みながら一方的に聞いているだけであった


普段もの凄いプレッシャーと戦っている美月にとって、これが一番のストレス解消になるのであろう


母親はマネージャー兼社長だし、仲間とは常に順位を争うライバル


多忙で学校にもあまり行けていない現状のなかで、唯一気を休められる相手が僕の彼女なのだ


でも、こんな関係も悪くない。傍から見ればいびつとも思える関係性だが


人間同士の関係に正解など無いだろう、人はそれぞれ違うのだから……


僕が脳内でそんな哲学的な事を考えていると、珍しくしおりちゃんの方から話しかけていた。


「ねえ美月。この前、今度の総選挙のポスターを見かけたのだけれど……」


しおりちゃんがその話題を口にした途端、美月のトーンが明らかに下がった。


「総選挙か……今度の選挙は負けちゃうかもね。今度の新システムだと私が不利みたいだし……


もし負けたら、慰めてね、詩織」


「えっ、うん、勿論よ。一番だけが偉い訳じゃないからね


もしも二番になったとしても、美月は美月よ、勝負は時の運ともいうし。その時は仕方が無いよ」


「そうよね、仕方がないわよね……」


美月は少し寂し気につぶやいた。


だがその一言にどうしても納得がいかない僕は叫ぶように言い放った。


「ふざけるな、仕方がない訳ないだろう‼」


今まで二人の会話を黙って聞いていた僕が突然二人の話に割って入った


困惑して言葉の出ない二人に向かって、僕は更に話を続けた。


「美月のファンは前人未到の三連覇に向かって必死で応援するだろう


ましてや一般視聴者なんて、当日どう転ぶかわからないさ


だけど美月自身が諦めてしまったら、本当に負けるぞ‼」


すると最初黙っていた美月だったが、僕の言葉を聞き段々と腹が立ってきたのか


苛立ちなじりの口調で反論してきた。


「何よ……圭一、アンタはどうせさやか推しじゃない。


本当は私が二位に落ちた方がアンタにとっては嬉しいはずでしょう?


だったら偉そうな事言わないでよ‼」


「そんな訳無いだろう‼そんな腑抜けた美月を倒したとしても嬉しくなんかない


僕達さやかちゃんファンは〈絶対女王 月島美月〉を倒したいのだよ‼


それに美月自身〈仕方がない〉なんて微塵も思っていない癖に


口先だけで達観したかのような事を言うのは止めろよ‼︎


勝ちたいのだろう?負けたくないのだろう?だったら素直にそう言えよ‼」


「アンタに何がわかるのよ‼」


「わかるさ、こんな俺にわかるぐらい〈本当は負けたくない〉という気持ちが言葉の節々で伝わって来る


だったらそう言えよ、僕やしおりちゃんの前ぐらい、本音で話せよよ‼︎」


「何よ、偉そうに……そりゃあ負けたくないわよ、勝ちたいわよ


三連覇とか別にしてさやかには絶対に負けたくないわよ


でも今回は負けるかもしれない。だってさやかはお茶の間の人気者だもの


一般視聴者が多く参加する今度の総選挙で私が勝てるはずがないじゃない……


だったら、詩織に悲しい顔を見せたくない、悲しんで欲しくないから


予防線を張っておくことがそんなに悪い事なの⁉」


「悪いさ。自分の事だろうが、しおりちゃんに言い訳の理由を求めるな


勝ちたいなら勝ちたいってハッキリと言えよ。全力で戦って、それでも負けたら


思い切り悔しがればいいじゃないか‼︎そんな美月を馬鹿にする奴なんかいないさ


それに今回の投票形式が必ずしもさやかちゃんに有利に働くとは思わない


確かにさやかちゃんはバラエティーやトーク番組で人気を高めてきた


だから一般視聴者の〈認知度〉は高いだろう、でも美月は子供の頃から芸能界で活躍していて


両親も超有名人じゃないか。だから〈認知度〉ではさやかちゃんに劣っても〈知名度〉ならば決して負けていない


いや寧ろ勝っていると思う、【お台場坂49】の事はほとんど知らないけれど


〈月島美月という名前は聞いたことがある〉という人はかなりいるだろう


だったらそういった人たちを投票前のパフォーマンスでごっそりと持っていけばいいじゃないか


今回の投票システムの変更で有利不利を受ける人は確実に出て来る


でもそれはさやかちゃんだけに有利に働く訳じゃない


【お台場坂49】のツートップ、美月とさやかちゃん


そしてそれ以外のメンバー達との間に決定的な格差を植え付けるシステムだと僕は思っているよ


それが良い事なのか悪い事なのかは僕達にはわからない


でもそう決まった以上、そのルールにのっとって戦うしかないんだ


美月、お前は【お台場坂49】のエースじゃないか。


もし全力で戦って、それで負けたとしても胸を張って堂々としていろよ


ファンはそんな月島美月が見たいんだ‼」


相変わらず身勝手で暑苦しい持論を展開する僕に対して、美月は反論してこなかった


両こぶしを握り締め唇を噛みしめながら黙っていたが、ようやく絞り出すように口を開いた。


「何よ、圭一の癖に……そんなこと言ったって


さやかを差し置いて私に投票してくれる一般の人なんて、本当にいるの?」


負けたくないがおそらく負けてしまうのだろうという不安と絶望が込められた一言だった。その時である。


「あの~ちょっとよろしいでしょうか?」


突然僕たちの話に割り込んできたのは何とタクシーの運転手のおじさんであった。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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